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蜂蜜と毒。
180話
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この方でも無理なら、どなたでも無理では……? と半ばユリアーネも諦める。余計言うことがなくなった。
「……なにか考えうる可能性ってあるんでしょうか?」
とりあえず当たり障りのないことから。なにか過去にしてしまったとか、その方にはすでに相手の方がいるとか。
原因はわかっている。ララはそれしか心当たりがない。
「他のことにのめり込んでるのが、一番の理由かも。口では好きだって言ってくれても、どこか事務的というか。流れ作業のような」
他に好きな人がいるなんて考えたくない。だからきっとそう。今は集中したくて、他にかまっていられないだけ。なはず。私は待つしかできない。
ストレートに想いをぶつけられているような気がして、ユリアーネは胸が痛い。自分は? 自分はどうなんだろう? 自分はアニーさんに対して、しっかりと正面から向き合おうとしているのだろうか。そもそも、アニーさんは私にどんな気持ちを抱いてくれているの?
「……一杯だけ、奢らせていただいてもよろしいですか?」
自然と、提案を口にしていた。考えて出た言葉というより、本能的にそうしたいと思ってしまった。
まったりとしていた空気を破るようなひと言に、ララは驚きを隠せない。
「え? 奢り? ありがたいけど……どういうこと?」
充分に癒された。だが、この先もあるという。耳を疑った。
「少々お待ちください」
それだけ告げてユリアーネはその場を去る。キッチンに戻るまで、瞬きは一度もしなかった。
「店長さん、もう一杯よろしいですか?」
ひと息ついていたダーシャに、次の一杯を注文する。脳内に浮かぶ一杯。これが自分が描くことのできる、精一杯。
コーヒーでも飲もうかと油断していたダーシャ。キビキビと意識を戻す。
「ん? おかわり? すぐできるから待っててね。ラテアートはユリアーネちゃんが描く?」
エスプレッソにミルクを少量。ただそれだけ。新しいカップを取り出そうとする。だが。
「いえ、コルタードではなく、コーヒーと紅茶を混ぜ合わせたものをお願いします」
ユリアーネがオーダーしたものは、全く別のもの。この店に来て、初めて知った紅茶とコーヒー。
覚えのある一杯。ダーシャがしみじみと邂逅する。
「それってユンヨンチャー? 前に飲んだことあったね」
あの頃はまだヒゲがあった頃。まだ一ヶ月程度だが、かなり昔のことのように感じられるのは、年をとったから?
さらにユリアーネは変化を加える。考えていたら、自分も飲みたくなってしまう。
「それを少し変更してほしいんです。コーヒーの豆の種類も」
「……それってもしかして」
香港では『ユンヨンチャー』、だがマレーシアでは——。その味がダーシャの舌に思い出される。
伝わったようで、ユリアーネは安堵する。これもコルタード同様、ユンヨンチャーの割合を変えるものだが、さらに一品追加する。
「はい、ユンヨンチャーはどちらかといえば紅茶ですが、これはコーヒー寄りのものになります」
今から作るものは、半分はアニーさんから教わったようなもの。なんとなく、一緒にいてほしくなった。
とすると。マレーシアの味に近づけるなら、豆の種類も合うものがある。色々と実験を重ねたダーシャが見つけ出した、一番合うもの。
「なるほど。豆はロブスタ種でいいんだよね?」
アラビカよりも強い苦味や渋みがありつつも、香ばしくより豆の味が引き立つロブスタ種。これしかない。
上手くいく気がする。一瞬で緊張が高まり、ユリアーネはブルっと震えた。
「さすがにご存知でしたか。私もあれから調べたのですが、やはりまだまだコーヒーは奥が深いですね」
「……なにか考えうる可能性ってあるんでしょうか?」
とりあえず当たり障りのないことから。なにか過去にしてしまったとか、その方にはすでに相手の方がいるとか。
原因はわかっている。ララはそれしか心当たりがない。
「他のことにのめり込んでるのが、一番の理由かも。口では好きだって言ってくれても、どこか事務的というか。流れ作業のような」
他に好きな人がいるなんて考えたくない。だからきっとそう。今は集中したくて、他にかまっていられないだけ。なはず。私は待つしかできない。
ストレートに想いをぶつけられているような気がして、ユリアーネは胸が痛い。自分は? 自分はどうなんだろう? 自分はアニーさんに対して、しっかりと正面から向き合おうとしているのだろうか。そもそも、アニーさんは私にどんな気持ちを抱いてくれているの?
「……一杯だけ、奢らせていただいてもよろしいですか?」
自然と、提案を口にしていた。考えて出た言葉というより、本能的にそうしたいと思ってしまった。
まったりとしていた空気を破るようなひと言に、ララは驚きを隠せない。
「え? 奢り? ありがたいけど……どういうこと?」
充分に癒された。だが、この先もあるという。耳を疑った。
「少々お待ちください」
それだけ告げてユリアーネはその場を去る。キッチンに戻るまで、瞬きは一度もしなかった。
「店長さん、もう一杯よろしいですか?」
ひと息ついていたダーシャに、次の一杯を注文する。脳内に浮かぶ一杯。これが自分が描くことのできる、精一杯。
コーヒーでも飲もうかと油断していたダーシャ。キビキビと意識を戻す。
「ん? おかわり? すぐできるから待っててね。ラテアートはユリアーネちゃんが描く?」
エスプレッソにミルクを少量。ただそれだけ。新しいカップを取り出そうとする。だが。
「いえ、コルタードではなく、コーヒーと紅茶を混ぜ合わせたものをお願いします」
ユリアーネがオーダーしたものは、全く別のもの。この店に来て、初めて知った紅茶とコーヒー。
覚えのある一杯。ダーシャがしみじみと邂逅する。
「それってユンヨンチャー? 前に飲んだことあったね」
あの頃はまだヒゲがあった頃。まだ一ヶ月程度だが、かなり昔のことのように感じられるのは、年をとったから?
さらにユリアーネは変化を加える。考えていたら、自分も飲みたくなってしまう。
「それを少し変更してほしいんです。コーヒーの豆の種類も」
「……それってもしかして」
香港では『ユンヨンチャー』、だがマレーシアでは——。その味がダーシャの舌に思い出される。
伝わったようで、ユリアーネは安堵する。これもコルタード同様、ユンヨンチャーの割合を変えるものだが、さらに一品追加する。
「はい、ユンヨンチャーはどちらかといえば紅茶ですが、これはコーヒー寄りのものになります」
今から作るものは、半分はアニーさんから教わったようなもの。なんとなく、一緒にいてほしくなった。
とすると。マレーシアの味に近づけるなら、豆の種類も合うものがある。色々と実験を重ねたダーシャが見つけ出した、一番合うもの。
「なるほど。豆はロブスタ種でいいんだよね?」
アラビカよりも強い苦味や渋みがありつつも、香ばしくより豆の味が引き立つロブスタ種。これしかない。
上手くいく気がする。一瞬で緊張が高まり、ユリアーネはブルっと震えた。
「さすがにご存知でしたか。私もあれから調べたのですが、やはりまだまだコーヒーは奥が深いですね」
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