14 Glück【フィアツェーン グリュック】

文字の大きさ
218 / 223
パリとベトナム。

218話

しおりを挟む
 もちろんなにが正しかったか、などは勘の鋭いリディアでもわかるわけがない。だが、その探究心はいつか身を結ぶと信じている。

「いいんじゃない? 結局はなにを食べるかより、誰と食べるかなんだから。ケーキで仲が拗れるようなら長続きしなかっただろうし、そんなやつは捨てちゃえば」

 そりゃそうでしょう。そんな男は自分ならお断り。せいせいする。

「極端な気もしますが……まぁ、そうなりますかね……」

 それにはユリアーネも賛同する。自分も、アニーとならなんでも美味しく感じる気がする。事実、紅茶もコーヒーも自分で淹れてひとりで飲むよりも全然。味は変わらないはずなのに。

 ひとつ、リディアは息を吐く。思考することは好きだが、勝ち負けがはっきりしないことはどうもすっきりとしない。

「オーナーさんは大変そうだ。私にはなれそうにない。でもユリアーネの元でなら私も働いてみたいね。ニーチェも言っていた。『人は、意見やアイディアではなく人柄に賛同する』ってね。キミは美しい」

 跪くと、ユリアーネの髪に触れてみる。サラッと流れるミルクティーのような淡い色。そのまま溺れそうなほどに魅力的。

 当のユリアーネとしては反応に困る。少しはアニーと一緒にいることで免疫はついてきているが、それでも距離感が近いと戸惑うことはどうしてもある。

「……どうも」

 とだけ返しておく。だがもしシシーに同じことをやられたら。もしアニーに同じことをやられたら。考えるとドキドキとしてしまうかもしれない。今は不思議としない。年下の少女、というのには強い? 強いってなに?

 それにしても、お客さんにオススメのメニューを聞かれただけなのに、こんな話をしてしまうのはなぜなのだろう。接客業に慣れてきた今だから、一度見直さなければいけないことがあるのかもしれない。気を張るユリアーネ。ただの雑談のはずなのに。

 頑張りすぎじゃない? そんな気遣いをしながらリディアはゆっくりと後退。また壁まで。元の位置。

「パリにはね。悩みを解決する花屋があるって聞いたことない?」

 いくつかある、パリで行ってみたい店のひとつ。〈WXY〉と。この店と。まぁあとはいくつか。

 普通は花屋には、買いたい花や贈りたいシチュエーションなどがあって、そのために買いに行く。愛の告白にバラ、お墓に菊。なにかしらの目的。

 だがその花屋は、買いたい花をお客側が選べないらしい。話を聞き、フローリストが独断でアレンジメントを作る。全て店側に任せることになる。曖昧で抽象的な想いでもなんでもいい。それを形にする花屋。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

背徳の恋のあとで

ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』 恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。 自分が子供を産むまでは…… 物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。 母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。 そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき…… 不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか? ※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。

【完結】皇帝の寵妃は謎解きよりも料理がしたい〜小料理屋を営んでいたら妃に命じられて溺愛されています〜

空岡立夏
キャラ文芸
【完結】 後宮×契約結婚×溺愛×料理×ミステリー 町の外れには、絶品のカリーを出す小料理屋がある。 小料理屋を営む月花は、世界各国を回って料理を学び、さらに絶対味覚がある。しかも、月花の味覚は無味無臭の毒すらわかるという特別なものだった。 月花はひょんなことから皇帝に出会い、それを理由に美人の位をさずけられる。 後宮にあがった月花だが、 「なに、そう構えるな。形だけの皇后だ。ソナタが毒の謎を解いた暁には、廃妃にして、そっと逃がす」 皇帝はどうやら、皇帝の生誕の宴で起きた、毒の事件を月花に解き明かして欲しいらしく―― 飾りの妃からやがて皇后へ。しかし、飾りのはずが、どうも皇帝は月花を溺愛しているようで――? これは、月花と皇帝の、食をめぐる謎解きの物語だ。

フローライト

藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。 ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。 結婚するのか、それとも独身で過ごすのか? 「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」 そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。 写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。 「趣味はこうぶつ?」 釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった… ※他サイトにも掲載

銀鷲と銀の腕章

河原巽
恋愛
生まれ持った髪色のせいで両親に疎まれ屋敷を飛び出した元子爵令嬢カレンは王城の食堂職員に何故か採用されてしまい、修道院で出会ったソフィアと共に働くことに。 仕事を通じて知り合った第二騎士団長カッツェ、副団長レグデンバーとの交流を経るうち、彼らとソフィアの間に微妙な関係が生まれていることに気付いてしまう。カレンは第三者として静観しているつもりだったけれど……実は大きな企みの渦中にしっかりと巻き込まれていた。 意思を持って生きることに不慣れな中、母との確執や初めて抱く感情に揺り動かされながら自分の存在を確立しようとする元令嬢のお話。恋愛の進行はゆっくりめです。 全48話、約18万字。毎日18時に4話ずつ更新。別サイトにも掲載しております。

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~

山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。 この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。 父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。 顔が良いから、女性にモテる。 わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!? 自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。 *沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

【完結】旦那様、離縁後は侍女として雇って下さい!

ひかり芽衣
恋愛
男爵令嬢のマリーは、バツイチで気難しいと有名のタングール伯爵と結婚させられた。 数年後、マリーは結婚生活に不満を募らせていた。 子供達と離れたくないために我慢して結婚生活を続けていたマリーは、更に、男児が誕生せずに義母に嫌味を言われる日々。 そんなある日、ある出来事がきっかけでマリーは離縁することとなる。 離婚を迫られるマリーは、子供達と離れたくないと侍女として雇って貰うことを伯爵に頼むのだった…… 侍女として働く中で見えてくる伯爵の本来の姿。そしてマリーの心は変化していく…… そんな矢先、伯爵の新たな婚約者が屋敷へやって来た。 そして、伯爵はマリーへ意外な提案をして……!? ※毎日投稿&完結を目指します ※毎朝6時投稿 ※2023.6.22完結

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

処理中です...