19 / 165
エラール 『No.0』
19話
しおりを挟む
「? なんですか?」
早くこのミーティングを終わらせて仕事に取り掛かりたいサロメは、若干口調から怒気を感じる。彼は優しくて親身になって相談できる人だが、優柔不断がよろしくない。言いたいことがあるなら言えばいい。言われたことは拒否するけど。
「先方からの指名でね、サロメちゃんがいいなー、なんて」
上目遣いにロジェは対象のサロメの機嫌をうかがう。あれだけ拒否していたのだから、本当は言いづらいのだが、そうも言ってられないのが雇われ店長。おそるおそる表情を覗いてみる。
すると呆れたような、怒りのような表情でサロメが見返してきていた。眼力でロジェが石化しそうだ。
「ごめん!」
「理由を伺いましょうか……!」
なぜか拳をポキポキ鳴らし出したサロメに対して、無表情を貫くランベールは煽り出す。なんだ、じゃあ最初から自分には関係ない話だったのか、と少し安堵。
「わー、羨ましいなー、固定ファンがつくなんて」
「棒読みで言ってんじゃないっつの」
またも火薬庫に火がつけられかねない空気だったが、今回は自分が先に大人になってやろう、とすぐに前を向き直してサロメは意見を述べた。
「ともかく指名する権利があるなら、拒否する権利もあるはずです。行きません」
「行けよ」
「あ?」
三度、二人のケンカが始まるかというところで、乱入者の影。
「そーだぞ、行ってこい」
「社長!」
ランベールと諍いが起きそうなところに、机で他の作業をしていた、ヒゲの似合う社長のルノーが割り込む。業を煮やし、ロジェじゃどうにも、このじゃじゃ馬を扱いきれないと思ったのか、助け船を出す。
一瞬にしてロジェの顔に色が戻ってくる。
ニンマリとルノーは笑顔を、「マジで言ってんの、このヒゲのおっさん」という声が聞こえてきそうな渋い顔のサロメに向ける。
「ワシ雇い主、あなた雇われ」
顔色ひとつ変えず、
「ストライキって有効ですよね?」
最終手段を提起してくるサロメに対して、ルノーは右手で制する。
「ま、待て待て。それにメリットもあるぞ」
「なに? 聞く感じデメリットしかないんだけど」
もはや社長に対しても対等になってきている雇われ女子。行きたくないという気持ちがどんどん滲み出てきている。
白く蓄えられたヒゲの下で、悪人のよくするタイプの笑みをルノーは浮かべた。
「エラール『No.0』、これでわかるか?」
小さく「あ」というランベールの声が聞こえる。ひとつ咳払いし、
「俺だったら寄付した人間、正気になるまで殴りますね」
と、中々に怖いことを真顔で言い出す。だが、それだけ失望の意味が込められている。
早くこのミーティングを終わらせて仕事に取り掛かりたいサロメは、若干口調から怒気を感じる。彼は優しくて親身になって相談できる人だが、優柔不断がよろしくない。言いたいことがあるなら言えばいい。言われたことは拒否するけど。
「先方からの指名でね、サロメちゃんがいいなー、なんて」
上目遣いにロジェは対象のサロメの機嫌をうかがう。あれだけ拒否していたのだから、本当は言いづらいのだが、そうも言ってられないのが雇われ店長。おそるおそる表情を覗いてみる。
すると呆れたような、怒りのような表情でサロメが見返してきていた。眼力でロジェが石化しそうだ。
「ごめん!」
「理由を伺いましょうか……!」
なぜか拳をポキポキ鳴らし出したサロメに対して、無表情を貫くランベールは煽り出す。なんだ、じゃあ最初から自分には関係ない話だったのか、と少し安堵。
「わー、羨ましいなー、固定ファンがつくなんて」
「棒読みで言ってんじゃないっつの」
またも火薬庫に火がつけられかねない空気だったが、今回は自分が先に大人になってやろう、とすぐに前を向き直してサロメは意見を述べた。
「ともかく指名する権利があるなら、拒否する権利もあるはずです。行きません」
「行けよ」
「あ?」
三度、二人のケンカが始まるかというところで、乱入者の影。
「そーだぞ、行ってこい」
「社長!」
ランベールと諍いが起きそうなところに、机で他の作業をしていた、ヒゲの似合う社長のルノーが割り込む。業を煮やし、ロジェじゃどうにも、このじゃじゃ馬を扱いきれないと思ったのか、助け船を出す。
一瞬にしてロジェの顔に色が戻ってくる。
ニンマリとルノーは笑顔を、「マジで言ってんの、このヒゲのおっさん」という声が聞こえてきそうな渋い顔のサロメに向ける。
「ワシ雇い主、あなた雇われ」
顔色ひとつ変えず、
「ストライキって有効ですよね?」
最終手段を提起してくるサロメに対して、ルノーは右手で制する。
「ま、待て待て。それにメリットもあるぞ」
「なに? 聞く感じデメリットしかないんだけど」
もはや社長に対しても対等になってきている雇われ女子。行きたくないという気持ちがどんどん滲み出てきている。
白く蓄えられたヒゲの下で、悪人のよくするタイプの笑みをルノーは浮かべた。
「エラール『No.0』、これでわかるか?」
小さく「あ」というランベールの声が聞こえる。ひとつ咳払いし、
「俺だったら寄付した人間、正気になるまで殴りますね」
と、中々に怖いことを真顔で言い出す。だが、それだけ失望の意味が込められている。
0
あなたにおすすめの小説
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
下っ端宮女のひたむき後宮恋譚 ~前世の夢を追いかけていたらいつのまにか寵愛されていました~
紀本明
キャラ文芸
妃嬪から嫌がらせを受けつつも耐え忍んでいた下っ端宮女の鈴風(りんふぁ)はある日突然前世の記憶を取り戻す。料理人になるのが夢だった彼女は、今世でもその夢を叶えようと決意した矢先、ぼさぼさ頭の宦官・雲嵐(うんらん)と出会い、毎晩夕飯をつくることになる。料理人になるべく奮闘するも、妃嬪からの嫌がらせはひどくなる一方だった。そんなある日、事件が起こり、鈴風は窮地に立たされるが……――?
自発的に失踪していた夫が、三年振りに戻ってきました。「もう一度やり直したい?」そんな都合のいいことがよく言えますね。
木山楽斗
恋愛
セレント公爵家の夫人であるエファーナは、夫であるフライグが失踪してから、彼の前妻の子供であるバルートと暮らしていた。
色々と大変なことはあったが、それでも二人は仲良く暮らしていた。実の親子ではないが、エファーナとバルートの間には確かな絆があったのだ。
そんな二人の前に、三年前に失踪したフライグが帰って来た。
彼は、失踪したことを反省して、「もう一度やり直したい」と二人に言ってきたのである。
しかし、二人にとってそれは許せないことだった。
身勝手な理由で捨てられた後、二人で手を取り合って頑張って来た二人は、彼を切り捨てるのだった。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
廃城の泣き虫アデリー
今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって…
表紙はフリー素材です
《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる