スケルトンとして生きるには、少しだけ狂っていなきゃいけない

ピモラス

文字の大きさ
6 / 99
赤い世界

討伐 侵入者

しおりを挟む

 ※光が当たる場所が違えば、影もまた形を変える――


 俺の解かる範囲内に「生きている人」が入ってきた。
 視界が急速に赤く染まる。
 三つの赤い影。こちらに向かってきている。
 クラウディアを思い出し、順番を思い出す…


 俺は火打石で暖炉に火をつけ、あらかじめ干しておいた幻覚草を放り込む。炎はすぐに燃え上がり、生草をかぶせて煙を抑えた。
 湯を沸かし、キノコをちぎって紅茶に漬ける。この毒茶は、何度も試して効き目を確認済みだ。
 ティーカップに注いだ紅茶を少し暖炉に捨て、胞子の粉を振りまく。これで準備は整った。 

 来る

 玄関の梁の上に昇り、板を敷いて身を隠す。
 毒を塗ったナイフも手元に四本。
 アンデッドの、スケルトンの俺が本気で潜めば、お前たち「生者」に見抜けんだろう。
 何日でも隠れてやる。お前たちをこの手で倒せるのなら。
 我らの家を荒らす奴は、必ず殺す。


 小さな赤い影が一歩、また一歩と玄関前に近づく。気配が濃くなる。
 あいつら、どこまで警戒しているのか。俺の中に渦巻く怒りを抑え込むのに必死だ。
 玄関を開けた。中に入る。ドアを閉めないまま、奥へと進んでいく。
 俺は梁の上で身を潜めながら、やつらの足音を数えた。 

 研ぎ澄ませ
 怒りを
 鋭く


 どうやら紅茶を飲んだようだ。
 そろそろかと、俺は梁から降りる。
 玄関の扉を静かに閉め、震える手で内側の鍵に南京錠を掛ける。
 音を消し、気配を消し、廊下を歩き、部屋の中を伺う。
 小さい奴は紅茶を飲まないか。
 俺はそっと扉を閉めて鍵をする。
 ドアの上に毒の塗ったナイフを仕掛ける。
 ドアと枠の隙間に刺しただけの簡易的すぎるトラップ。
 引っかかる間抜けならば良いのだが。
 そうして俺は玄関の梁の上へ戻る。

 飼育していた毒虫の幼虫を取り出す。
 体液がねっとりとした指の隙間に絡みつくのを無視しながら、それを握りつぶす。 
 それを両手の指先に塗る。
 震える指先は、早く襲わせてくれと訴えている。
 俺は天を仰ぐ。
 見ているがよい、クラウ。
 やつらを殺す。必ず。


 ドンと扉を破り、ナイフが落ちた。
 でかい男に当たったが、ナイフが革鎧に吸い込まれる音。
 しかし、すぐに男が呻き声を上げて膝をついた。 
 小さいのが来た。
 玄関の鍵を開けた。

 今

 小さな赤い影に飛び降り、ナイフがうなじに浅く刺さる感触が伝わる。だが、勢い余った肘が先にやつの頭を強打した。
 倒れた人影を、怒りに任せナイフを振り下ろす。
 何度も。何度も。
 骨を断つ感触、血に滑る手。
 それでも止められない。

 次の影が視界に入る。でかい男だ。
 うつ伏せに倒れながら呻いている。
 その声を俺は許せない。
 ナイフを何度も振り下ろし、ついにはその声が途絶える。 

 返り血を浴び、己の手で絶命させた歓喜に体が震える。
 だが
 まだだ。


 室内に入ると、ローブの男が仰向けに倒れている。
 上下する胸に怒りを覚え、襲い掛かる。
 後はお前さえ終われば、この赤い景色は終わる。
 お前に、お前に、怒りに苛ま続けるこの苦しみがわかるか?

 しかし
 俺の体は弾かれた


 ローブの胸が、そして体が宙に浮く。
 白目をむいているが、眼球は泳ぐように動いている。
 よだれを流す口はゆっくりと動いている。
 詠唱ではない。
 しかし、その両手は何かを掴むように突き出され炎を吐き出している。
 制御も意志もない、ただ暴れ回る炎。自らの体も焼いている。
 炎は俺を弾き飛ばし、背中から壁に叩きつけられる。
 家の柱に炎が移り、赤い舌が嘲笑うかのように天井を這っていく。 


 やめろ
 これ以上、俺から奪うな
 妻と娘の命だけでは、足りないというのか…


 炎が天井を舐める。柱が燃え落ち、梁が崩れる音が耳を刺す。
 燃える家の中で俺は立ち尽くす。俺の怒りを飲み込んだ家が、今度は炎に飲み込まれる番か
「クラウ…とは誰だ…」
 俺は声にならない声を漏らしながら、崩れる家を背に、その場を去った。
  
 胸に宿る黒いモヤは、さらに大きくなっていた。
 だが、俺はまだ気付いていない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...