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輪の中にある
風のうわさ
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また別の赤い奴らが来た。
お前たちよりも俺は先に見つけられる。赤いお前たちを。
今度は四人。
太陽が出ているが、黒い月は中点に輝き、太陽の光を奪い、俺たちに力を与えている。
墓地に向かう奴らから、見つかる前に、俺は草むらに隠れる。
この前の「兵士」の死体から奪った二本の剣を装備した。
それと、拳大の石をニ十個集めて置いてある。
お前たちはまた「俺の墓地」を奪いにくることはわかっていたからな。
墓地に自生していた毒草と、先ほど運よく捕まえた毒蛾を握りつぶす。
怒りに震える手に塗りながら、剣の先にも塗り込み潜む。
四人の「兵士」は盾を構えて隊列を組み、三体のゾンビと対峙している。
ゾンビが押し込まれ、剣で切られ始めた。
そろそろか。
積んである石を、その後ろ姿に投げる。投げる。次々と。
外れる、背中に当たる、剣を持つ腕に当たる、外れる、後頭部に当たり倒れる。
奴らは今頃気付いた。愚か者どもめ。
俺は剣を抜き、走り出す。
立っている兵士は三人。倒れているものが一人。
しかし、向こうにはまだゾンビが健在だ。
立っているゾンビは一体だけのようだが、挟撃の形だ。
慌てる兵士の顔が見える。俺は楽しくなってきた。早くぐちゃぐちゃな顔がみたい。
一人の兵士が俺に向かい走ってきた。
俺は足を止め、大上段に構える。兵士は間合いの外で止まる。
ばかめ
ブンと上段から投げつける。同時に間合いを詰める。
兵士は咄嗟に剣を盾で受けた。が、盾後ろに見える顔に、骨の指を突き立てる。
目を狙ったが、身をよじったようで外した。
しかし、顔の肉を切り裂いた手ごたえがある。
指には確かに血が付いている。
何故か黒いモヤが手を覆っていた。
だが、そんなことはどうでもいい。
俺は落ちている剣を拾う。
顔をひっかかれた兵士は警戒しているのか、傷が傷むのか襲ってこない。
時間が立てば毒が効いてくるだろう。
俺はこの兵士を無視して、残りの二人の兵士に向かい走る。
ゾンビ一体で兵士二人は荷が重かったようだ。
手足を切り飛ばされ、倒されている所だった。
一人の兵士は俺の接近に気付いて、盾を構えたが構うものか。
俺は奥にいるもう一人、ゾンビの方を向いている奴の背中目掛けて剣を突き立てる。
浅いが背中に刺さった。
そして、盾を構えた兵士の盾に吹き飛ばされる。
立ち上がると、吹き飛ばされたお陰で兵士たちとの距離が出来た。
当たりを見渡す。
立っている兵士はいない。
俺を盾で吹き飛ばした兵士は、愚かにもとどめを刺さなかったゾンビに足首を噛まれていた。
急いでそこに向かう。
俺は、まだ生きている兵士の頭目掛けて剣を叩きつける。
何度も、何度も。
しかし、俺の右腕に衝撃が走る。
背中を刺した兵士か?やはり、浅い傷と毒は致命傷ではないのか。
盾を前面に出し、剣を担ぐような姿勢でさらに攻撃をしてくる兵士。
俺は剣が振られるタイミングを見て、軽く後ろに跳ねて躱す。
右腕の肘から下がない。
剣も右腕が握ったままだった。
そんな事は大した問題ではない。
俺は兵士の盾の、下を目掛けて滑り込んだ。
剣が横なぎに振られているのが、スローモーションのように見えた。
そして足首を掴んで転ばせた。
後はまた、もつれ、殴り、蹴り、噛みついた。
しかし、黒いモヤに包まれた手は、首を掴むと、吸い込まれるように皮膚と肉を簡単に引き裂き、沈黙させていた。
黒い月に照らされた墓地には静寂が訪れ、冷たい風が吹いた。
俺は失った右腕と、左の手に纏う黒いモヤを見る。
「前にもこんな…治せるのか?」
俺は落ちている自身の右腕を拾い、押し付ける。
黒いモヤに包まれた腕は治った。
「はは…治った。出来たぞクラウ!これは、君が…」
喜びの感情が、一気に抑圧される。
「そう…か。クラウ…もうその名しか思い出せないが…感謝する」
そうして俺は黒い月に祈った。
祈るスケルトンの上空、黒い月を横切るようにコウモリが飛んだ。
木々の間を通り抜ける冷たい風が鳴いている。
近隣の村で「恐ろしいスケルトンがいる」との噂を聞いた。
「クマより大きく、人を丸のみにする」とか「空を飛んで炎を吐いて街を焼く」など、根も葉もない噂は各地に溢れているが、「兵士が六人ほど短期間で消息不明になった」や「墓地に居座り侵入者を襲う」などの話しは信憑性が高いように思われた。
中でも「祈っている姿を見た」という噂は拙僧の興味を引いた。
長年ディクト教の教えに従い、心身を鍛え、不浄なる者を排除すると誓っている我が身。
墓地を訪れ、死者の鎮魂を祈るだけも赴く価値はあるだろう。
そして「祈る」スケルトンなど、許されざる存在だ。
もし、いるならば、の話しだったらだが。
「では、ロジェさま。行かれるのですね。旅のご無事をお祈りしておきます」
「ああ、導師もご健勝で。ディクト様の導きあれ」
「またいつでもお越しください。ディクト様のご導きを」
「流浪の身。機会があればまた頼みましょう。では」
こうして拙僧は村の教会を出て、件の村へついた。
そして村人に墓地まで案内してもらう。
いた。本当にいた。
地に跪き、胸に手を当て祈るスケルトンが。
しかし、何に祈っている?どこを向いている?
墓所中央の前だが、聖像ではない方向に向かい、祈りの姿勢の、その向かう先を見る。
何もないが…おっと、いかん。また己の興味に負けていた。
「村人よ、もう少し離れた所で我が戦いを見守ってはくれぬか?」
そう言って、墓地に立ち入る。
拙僧の接近に気付いたのか、立ち上がるスケルトン。
仁王立ちの姿勢でこちらをみている。襲い掛かってこないのか?
おもしろい。
お互い、攻撃の届かない距離で止まる。
「拙僧はロジェ。修行で流浪しておるモンクだ。教えてくれ。貴様は何に祈っていた?もし、話せるのならば、だが」
拙僧は脱力を心がけ、息を整える。
相手の全身が見えるように視界を調整する。
動く
…期待外れだ。
ただ闇雲に突撃するだけか。
その拳を手の甲で弾き、噛みつこうとする頭蓋骨に掌底を当て、滑りこみを蹴り飛ばした。
なんの技術もない、単調で大味な攻撃。
立ち上がるスケルトンを指さす。
「その腰の剣は飾りか!」
いかん。あまりの腑抜け具合に怒り口調になってしまった。
ディクト様。お許しを、そして平穏を…
心で軽く祈ると、スケルトンは剣を抜いた。
「ほう、剣にも毒を仕込んでいるのか。しかし、拙僧に、我が信仰の盾に毒など無意味と知れ」
スケルトンは剣を投げつけてきた。
なるほど。しかし、遅い。
拙僧は中空で回る剣の握りをしっかりと掴む。そして、その背後から迫るスケルトンの肋骨部分に蹴りを入れ吹き飛ばす。
「なんじゃ、しっかりと剣を振れ。ほら」
剣を投げて、倒れているスケルトンに返す。
「このスケルトンには何かある」そう思ったのは勘違いか。
「祈り」の意味はなんだったのか。
スケルトンは剣を振るったが、その動きは大振りで、その予測を容易に立てることができた。体を少し横にずらすだけで、鋭い一撃を回避し、すぐに反撃の体勢を整えた。
「ほれ、どうした」
スケルトンの剣が横薙ぎに振られる。その速さには何の工夫もなく、ただ力任せに振り下ろされているだけだ。その動きを予測し、ひらりと身をかわすと、反対側から素早く蹴りを入れる。
その後も、スケルトンは力任せに剣を振り回すだけ。
剣筋も何もない。
力やスピードは並みのスケルトンより上かもしれないが、それだけだ。
これ以上、この神聖な墓地を、お前の穢れた祈りの場にするわけにはいかん。
「お遊びは終わりだ」
呼吸を整え、聖気を全身に漲らせる。
そして、鈍重なスケルトンの肋骨に拳を叩きこむ。
あっけなく、全身をばらばらにして飛び散るスケルトン。
「貴様に祈りはささげん。不浄なるものよ。消えよ」
頭蓋骨を踏みつぶし、粉砕する。
後は墓地に浄化の祈りをすれば、我が勤めは完了だ。
しかし、最初見た時のあの「違和感」はなんであったのだろう。
スケルトンの祈りの意味は…
もう終わったのだ。勤めを果たし、修行の旅を続けねば。
声が聞こえる
何も見えない
「やられてしまったか。起きよ。次だ…」
お前たちよりも俺は先に見つけられる。赤いお前たちを。
今度は四人。
太陽が出ているが、黒い月は中点に輝き、太陽の光を奪い、俺たちに力を与えている。
墓地に向かう奴らから、見つかる前に、俺は草むらに隠れる。
この前の「兵士」の死体から奪った二本の剣を装備した。
それと、拳大の石をニ十個集めて置いてある。
お前たちはまた「俺の墓地」を奪いにくることはわかっていたからな。
墓地に自生していた毒草と、先ほど運よく捕まえた毒蛾を握りつぶす。
怒りに震える手に塗りながら、剣の先にも塗り込み潜む。
四人の「兵士」は盾を構えて隊列を組み、三体のゾンビと対峙している。
ゾンビが押し込まれ、剣で切られ始めた。
そろそろか。
積んである石を、その後ろ姿に投げる。投げる。次々と。
外れる、背中に当たる、剣を持つ腕に当たる、外れる、後頭部に当たり倒れる。
奴らは今頃気付いた。愚か者どもめ。
俺は剣を抜き、走り出す。
立っている兵士は三人。倒れているものが一人。
しかし、向こうにはまだゾンビが健在だ。
立っているゾンビは一体だけのようだが、挟撃の形だ。
慌てる兵士の顔が見える。俺は楽しくなってきた。早くぐちゃぐちゃな顔がみたい。
一人の兵士が俺に向かい走ってきた。
俺は足を止め、大上段に構える。兵士は間合いの外で止まる。
ばかめ
ブンと上段から投げつける。同時に間合いを詰める。
兵士は咄嗟に剣を盾で受けた。が、盾後ろに見える顔に、骨の指を突き立てる。
目を狙ったが、身をよじったようで外した。
しかし、顔の肉を切り裂いた手ごたえがある。
指には確かに血が付いている。
何故か黒いモヤが手を覆っていた。
だが、そんなことはどうでもいい。
俺は落ちている剣を拾う。
顔をひっかかれた兵士は警戒しているのか、傷が傷むのか襲ってこない。
時間が立てば毒が効いてくるだろう。
俺はこの兵士を無視して、残りの二人の兵士に向かい走る。
ゾンビ一体で兵士二人は荷が重かったようだ。
手足を切り飛ばされ、倒されている所だった。
一人の兵士は俺の接近に気付いて、盾を構えたが構うものか。
俺は奥にいるもう一人、ゾンビの方を向いている奴の背中目掛けて剣を突き立てる。
浅いが背中に刺さった。
そして、盾を構えた兵士の盾に吹き飛ばされる。
立ち上がると、吹き飛ばされたお陰で兵士たちとの距離が出来た。
当たりを見渡す。
立っている兵士はいない。
俺を盾で吹き飛ばした兵士は、愚かにもとどめを刺さなかったゾンビに足首を噛まれていた。
急いでそこに向かう。
俺は、まだ生きている兵士の頭目掛けて剣を叩きつける。
何度も、何度も。
しかし、俺の右腕に衝撃が走る。
背中を刺した兵士か?やはり、浅い傷と毒は致命傷ではないのか。
盾を前面に出し、剣を担ぐような姿勢でさらに攻撃をしてくる兵士。
俺は剣が振られるタイミングを見て、軽く後ろに跳ねて躱す。
右腕の肘から下がない。
剣も右腕が握ったままだった。
そんな事は大した問題ではない。
俺は兵士の盾の、下を目掛けて滑り込んだ。
剣が横なぎに振られているのが、スローモーションのように見えた。
そして足首を掴んで転ばせた。
後はまた、もつれ、殴り、蹴り、噛みついた。
しかし、黒いモヤに包まれた手は、首を掴むと、吸い込まれるように皮膚と肉を簡単に引き裂き、沈黙させていた。
黒い月に照らされた墓地には静寂が訪れ、冷たい風が吹いた。
俺は失った右腕と、左の手に纏う黒いモヤを見る。
「前にもこんな…治せるのか?」
俺は落ちている自身の右腕を拾い、押し付ける。
黒いモヤに包まれた腕は治った。
「はは…治った。出来たぞクラウ!これは、君が…」
喜びの感情が、一気に抑圧される。
「そう…か。クラウ…もうその名しか思い出せないが…感謝する」
そうして俺は黒い月に祈った。
祈るスケルトンの上空、黒い月を横切るようにコウモリが飛んだ。
木々の間を通り抜ける冷たい風が鳴いている。
近隣の村で「恐ろしいスケルトンがいる」との噂を聞いた。
「クマより大きく、人を丸のみにする」とか「空を飛んで炎を吐いて街を焼く」など、根も葉もない噂は各地に溢れているが、「兵士が六人ほど短期間で消息不明になった」や「墓地に居座り侵入者を襲う」などの話しは信憑性が高いように思われた。
中でも「祈っている姿を見た」という噂は拙僧の興味を引いた。
長年ディクト教の教えに従い、心身を鍛え、不浄なる者を排除すると誓っている我が身。
墓地を訪れ、死者の鎮魂を祈るだけも赴く価値はあるだろう。
そして「祈る」スケルトンなど、許されざる存在だ。
もし、いるならば、の話しだったらだが。
「では、ロジェさま。行かれるのですね。旅のご無事をお祈りしておきます」
「ああ、導師もご健勝で。ディクト様の導きあれ」
「またいつでもお越しください。ディクト様のご導きを」
「流浪の身。機会があればまた頼みましょう。では」
こうして拙僧は村の教会を出て、件の村へついた。
そして村人に墓地まで案内してもらう。
いた。本当にいた。
地に跪き、胸に手を当て祈るスケルトンが。
しかし、何に祈っている?どこを向いている?
墓所中央の前だが、聖像ではない方向に向かい、祈りの姿勢の、その向かう先を見る。
何もないが…おっと、いかん。また己の興味に負けていた。
「村人よ、もう少し離れた所で我が戦いを見守ってはくれぬか?」
そう言って、墓地に立ち入る。
拙僧の接近に気付いたのか、立ち上がるスケルトン。
仁王立ちの姿勢でこちらをみている。襲い掛かってこないのか?
おもしろい。
お互い、攻撃の届かない距離で止まる。
「拙僧はロジェ。修行で流浪しておるモンクだ。教えてくれ。貴様は何に祈っていた?もし、話せるのならば、だが」
拙僧は脱力を心がけ、息を整える。
相手の全身が見えるように視界を調整する。
動く
…期待外れだ。
ただ闇雲に突撃するだけか。
その拳を手の甲で弾き、噛みつこうとする頭蓋骨に掌底を当て、滑りこみを蹴り飛ばした。
なんの技術もない、単調で大味な攻撃。
立ち上がるスケルトンを指さす。
「その腰の剣は飾りか!」
いかん。あまりの腑抜け具合に怒り口調になってしまった。
ディクト様。お許しを、そして平穏を…
心で軽く祈ると、スケルトンは剣を抜いた。
「ほう、剣にも毒を仕込んでいるのか。しかし、拙僧に、我が信仰の盾に毒など無意味と知れ」
スケルトンは剣を投げつけてきた。
なるほど。しかし、遅い。
拙僧は中空で回る剣の握りをしっかりと掴む。そして、その背後から迫るスケルトンの肋骨部分に蹴りを入れ吹き飛ばす。
「なんじゃ、しっかりと剣を振れ。ほら」
剣を投げて、倒れているスケルトンに返す。
「このスケルトンには何かある」そう思ったのは勘違いか。
「祈り」の意味はなんだったのか。
スケルトンは剣を振るったが、その動きは大振りで、その予測を容易に立てることができた。体を少し横にずらすだけで、鋭い一撃を回避し、すぐに反撃の体勢を整えた。
「ほれ、どうした」
スケルトンの剣が横薙ぎに振られる。その速さには何の工夫もなく、ただ力任せに振り下ろされているだけだ。その動きを予測し、ひらりと身をかわすと、反対側から素早く蹴りを入れる。
その後も、スケルトンは力任せに剣を振り回すだけ。
剣筋も何もない。
力やスピードは並みのスケルトンより上かもしれないが、それだけだ。
これ以上、この神聖な墓地を、お前の穢れた祈りの場にするわけにはいかん。
「お遊びは終わりだ」
呼吸を整え、聖気を全身に漲らせる。
そして、鈍重なスケルトンの肋骨に拳を叩きこむ。
あっけなく、全身をばらばらにして飛び散るスケルトン。
「貴様に祈りはささげん。不浄なるものよ。消えよ」
頭蓋骨を踏みつぶし、粉砕する。
後は墓地に浄化の祈りをすれば、我が勤めは完了だ。
しかし、最初見た時のあの「違和感」はなんであったのだろう。
スケルトンの祈りの意味は…
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