スケルトンとして生きるには、少しだけ狂っていなきゃいけない

ピモラス

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墓地の攻防

冒険者パーティ ホディト

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 ギルドマスターのナラヤンは悩んでいた。
 シデンがやられたと報告を受けた時は信じられなかったが、呆けてはいられない。

 そんな折、聖王国王都にいる、とある冒険者パーティの噂を耳にする。
 依頼の帰りか何かで、この街にいるようだ。
 補給か休養かだろうが、多分ここを訪れるだろう。
 しかし、依頼してもいいのだろうか。
 シデンでも手に負えなかった相手だ。
 そして、彼らは現在、王都のギルド所属だ。
 依頼を破棄して依頼主の軍に謝罪したほうがよいのか?
 もし、彼らに依頼して最悪の事態になるくらいなら、俺の頭なんていくらでも下げるが。
 どうするか…


 彼らは来てしまった。
「マスター、お久しぶりです」
「ラウタロ。お前、そんなキャラじゃねぇだろ」
「今はこうしなきゃならなくなったんだよ!ハゲ」
「お?さっそくボロが出てるじゃないか。なあ、アミール」
「ええ、まあ」
 そう言って笑いあう。

 はじめて会うパーティメンバー二人、戦士の「マイガ」と聖職者の「ラリサ」の紹介と、旅の目的や補給品などの話をする。


「ハゲ…いや、マスター。シデンの話しは聞いた。俺たちに依頼を受けさせてくれないか?」
 マスター、ナラヤンは悩む。
 冒険者ギルドのルールじゃ「流れの冒険者」でも、冒険者証があれば他の地域のギルドでも依頼は受けられる。
 しかし、あの依頼はもう掲示していなかった。
 対アンデッドなら、シデンのパーティはこのギルド最強と言えたからだ。
 他の冒険者の安全を考えると、依頼することを憚られた。
 こいつらの実力は分かっているし、仲間も強いんだろう。

「相手はスケルトン2体と聞いている。だが油断はしない。敵情視察をしてしっかり準備をする。報酬は規定で構わない。やらせてくれ」

「彼らのいずれも次期勇者候補」そう噂される四人組の冒険者パーティ。
 うち二人、ラウタロとアミールはこのギルド出身だった。
 下位の魔法を使える戦士と、簡単な治癒魔法をも使う魔法使い。
 シデンと同様に、ギルドに入ると、すぐにとびぬけた実力を発揮し、ここのギルドでは釣り合う依頼や組むメンバーがいなくなり王都に行った。
 依頼によって、一時的だがシデンと3人で組んで仕事をこなしていたりもした。
 そこで、二人加えたパーティ「ホディト」は聖王国内でもトップクラスの冒険者パーティとして名を馳せていた。

「しかし…お前らなら大丈夫だとは思うが、万が一があったら俺の首も飛ぶ。いや、俺の首なんざに価値はないが、王都の他の脅威や王都のギルドにも…」
「おいハゲ!何言ってんだ?昔みたいに「いってこい」って言えよ」
 しかし、今のこのギルドでは何もできないのが現状だ。
「では、すまんが、頼めるか?」
「何水臭い事言ってんだ、このハゲ。俺たちに任せとけよ」
「そうですよ、ハ…マスター」
「うーむ。よし、ではいってこい!それとハゲハゲ言うな」

 こうしてホディトは依頼を受けた。










 曇天の下、雨が近いのか、湿った風が頬を撫でた。
 進むごとに、むせ返るような腐敗臭が強くなる。

 スケルトン二体と聞いていたが、大量に放置された死体から、不浄な力が湧き出て、いくつかのゾンビやスケルトンが歩き出していた 。

 街から坂を登り、街を見下ろす位置にある墓地に向かう。
 墓地の柵の外、肉眼でギリギリ墓地か何かがあると見える距離。
 その距離からホディトのメンバーは墓地の視察に来ていた。

 ラリサは顔をしかめた。
「神聖なる墓地をこのような不浄者たちに占拠され汚されるとは」
 ラウタロが声に応える。
「落ち着け、ラリサ。今少しの辛抱だ。やつらを根絶やしにして、墓地の平穏を…それと、シデンの仇をとる」
 押さえた低い声だが、力強くそう言う。
「おいおい、二人とも気負いすぎるなよ。二人が突撃しちゃったら自慢の盾が役に立たないだろ?とりあえず深呼吸しろよ。で、どうだアミール。鑑定は無理か?」
 自身の大楯を軽くコンコンと叩く。その姿を見て二人も幾分か気負いが抜けたように見える。そして、無言のアミールは首を振った。
「距離がありすぎる。無理だ。魔力の目で見たが、マジックキャスターは居ない。スケルトンが七、ゾンビが十二いる。おそらく自然発生だ。放置された死体が散乱している」
 その声には、まるで感情というものが欠落しているかのようだった。
「ああ、神よ。このような冒涜を放置するなど、神の御心に反します」
 そして声を荒げてラウタロが言い放つ。
「ハゲ…マスターや他の視察にきたヤツラの話しじゃ、バカみたいに強いスケルトン二体って話だったのに。ちょっと作戦を…おい、アミール!」
 赤いフード付きのマントの、フード部分を後ろに外しているアミール。
 しかし、急にフードを深くかぶり、青い水晶玉のついた黒い杖を握りしめ、構えた。
 どうしたんだと、仲間たちは心配する。
「あいつらは墓地の柵からは出ないって情報だし、大丈夫だろ?出てきたようには見えないし」
 落ち着いたマイガの問いに、アミールはまた首を振る。
「スケルトンの一体がこの方向を指さして停止した。そして、剣を持ったスケルトンが上空の魔力の目を…切ったんだ。信じられない」
「な…に?あいつら、俺たちに気付いているのか?でも、襲ってはこないのか。本当にただのアンデッドじゃないんだな。知能はかなり高い」
 ラウタロは性格的には直情型でがさつな一面もあるが、粗野に見えても、冷静な分析を忘れない。
 しっかりと分析をして対策を考えている。
「しかし、魔法を切れるのか。ラウタロも前にライトニングをはじいたり、ブレスを切ったけど、あれと同じか?」
 問われたラウタロはアミールとラリサを見る。
「どうだろうな。俺の『魔法剣』なら切れるかもしれないが、本職のマジックキャスター二人の目から見て、素の状態の俺の剣でもできると思うか?」
 ラリサは答えずアミールを見る。
 アミールはかぶりを振った。
「切るとか切らないとか以前に、上空五メートルの高さだ。魔法強化しても、そこまでラウタロは届くか?マイガは盾を持たなければそこまで飛べるか?」
 しばしの沈黙。
「とにかく、直接的な視察はここまでだ。これ以上ここに留まる意味はないし、イヤな予感がする。街に戻ろう」
 マイガの問いに、三人が頷く。
「強化薬や覚醒薬を準備しよう。ラリサ、わかっているな?」
 ディクト教内では、強化薬などの薬物は忌避されるものだ。
 しかし、強敵相手に強化は必須。以前もラリサはかたくなに強化薬を飲まなかった。
 ラウタロは答えないラリサを一瞥して街に歩を進める。
 その後を三人はついていく。


 墓地では立ち去る者たちを、二体のスケルトンが見送っていた。
 彼らの去る背中を無言で見送っていた。
 再び戻ってくると信じるかのように…
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