スケルトンとして生きるには、少しだけ狂っていなきゃいけない

ピモラス

文字の大きさ
41 / 99
協力者

カールの計画

しおりを挟む
 カールの計画とは、人間の都市を丸々一つ陥落させることであった。
 狙いの都市は既に決まっているようだ。
「ここが聖王国の首都トゥーケン。そして我々が攻略するのはここだ」
 首都の北にあるイーサキバロスという大きな街だが、首都に近い。
 地図の縮尺は、はっきりとわからないから何とも言えないが。
「首都に近いとなると、増援が多いのではないか?それに、規模の大きな街ならば元々の防衛力も高いだろう」
 沈黙し、俺を見つめるカールとセミョン。
 先ほど、肩を落としてこっそりと入室してきたヌイグも、俺をじっと見ている。

 なんだ?

「貴様、本当にスケルトンなのか?頭の中身など入っていないだろう」
 バカにされているのか?しかし、その程度は誰にでも解かるのではないか?
 そう思った。思ってしまった。
 エッジを見ると、まるっきり興味がないようで聞いてもいないようだ。
「ヌイグよ。お前は首都からの増援など考えていたか?」
「くそっ。力で負けて頭脳でも負けるのか。この腐れ骸骨ども、いつか粉々にしてやる」
 そんな心境が、はっきりと伝わってきた。
 俺とヌイグは並んで立っていたのだが、その間にエッジが入り込んできた。
「はっは。いつでもいいぜ。中々しぶといお前をどれだけ細切れにできるか楽しみだ」
「カール様のお話しの最中です。控えなさい、ヌイグ」
 セミョンにそう言われ、唇をかみしめて黙った。


「正面の部隊はヌイグがゾンビを増やして対峙する。そして首都からの増援にはセミョンが当たる。状況によっては、私も加勢するが…戦力をもう少し増やしたいのだ」
 地図にチェスのコマのような物を置き説明するカール。
 予想よりも、しっかりとした計画のようだ。後詰や遊軍が欲しいという訳か。
「それで俺たちにも声を掛けたのか」
 俺の問いかけに、首肯するカール。
「そうだ。知能の無い存在では無駄だ。そこでもう少し増強したい。お前は見どころがある。勧誘をやってくれ」
「一つの城門を攻めるよりも、多数の箇所を多角的に攻めた方がいい。陣頭の指揮者が足りんのか。それと、搦め手も欲しいな。しかし、誰を勧誘するのだ?」

 先ほどから、話しているのは俺とカールだけになっていた。
 エッジは興味がないようで、ヌイグは置物になっている。セミョンは理解しているが、口を挟まないようにしているのだろう。
 勧誘の候補は、カールが既に目星をつけていて、そこに当たれと。そして遠隔地だが、転送陣を発見しているから時間は短縮できるとの事だ。

 だが

「何故、自分で行かないのだ?お前もアンデッドだろう。食事も睡眠も不要だ。疲労もない。行かない理由が無い。お前は移動手段も持っているではないか」
「我々も準備に時間と労力を割いている。それと私の転移は限定的なのだ」
 俺にはわかっている。彼らは「嘘」をついている。
 しかし、誰だって自らの「弱点」は言わない。信用していない相手ならば尚更。
 先ほどのヌイグの反応、そして自身で色々と試してみてわかった。
 この赤い糸に意志や思考を乗せない方法が。
 カール達も表面上のつくろったものを伝えているのだ。
 先に「これを伝えたい」と思ったものが伝わる仕組みのようだ。

 俺は自身の「無」を伝えるように強く思った。
 そして指を一本立て上を差した。
 カールは無表情のまま「いち?なんだ?」と問う。
「俺は知っているぞ。黒い月。白い月」
 この言葉でカールとセミョンはわかったようだ。
 明らかに警戒した様子を見せた。その姿を見たヌイグは身構える。
「わかっている。自ら弱点を教える存在などいない。しかし、『ヴァンパイア』なのか『吸血鬼』なのか知らんが、種族くらいは教えたらどうだ?」
 カールの前にセミョンとヌイグが庇うように立つ。
 俺を庇うように立つエッジは「やろうぜ」との思考が強い。

 しかし、カールは目を赤く光らせて、セミョンとヌイグを下がらせた。
「貴様は…一体何者なのだ?リッチの眷属か?」
 俺は知っている。お前達の弱点を。
「俺は俺だ。俺たちスケルトンには『太陽』も『流水』も『招かれざる家』も関係無い」
 カールが驚愕の表情を浮かべた。こいつもこんな顔ができるのだな。
 そして背後のセミョンとヌイグも驚いている。
 言葉を失っているカールに俺は告げる。
「生者を討つ為ならば協力しよう。だから嘘はつくな」
 カールは姿勢を正し、右手の指を伸ばして左胸に当てた。
「私はヴァンパイア・ロードのカール・ヴェルギ・ファルカシュ」
 そう宣言して優雅に礼をした。
 それに対し、俺も背筋を伸ばし礼を返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...