スケルトンとして生きるには、少しだけ狂っていなきゃいけない

ピモラス

文字の大きさ
43 / 99
協力者

転送の先

しおりを挟む
 太陽が昇る。
 森の中は暗いが、空が白んでいるのが木々の間からわかる。
 地表には、薄っすらと白いモヤが立ち上る。

 ここまで案内をしてくれたセミョンはすでにいない。
「私はこれで。屋敷で帰還をお待ちしています」
 そう言って頭を軽く下げたので、俺は嫌味を言ってみた。
「急いで戻れ。お前も太陽が昇ったら大変だしな」
「そうですね。親切心、痛み入ります」
 そう言って、笑顔を見せた。
 去っていくセミョンの背中を睨む。
 嫌味に嫌味を返すとは、やはりカールの仲間は信用ならんな。

 太陽が赤い色を斜めに降り注ぎだした時に、地面に幾何学模様が七色に光り浮かぶ。
 大きな円が外周部にあるが、いびつであり、三角や四角などの光がいくつも形を変えている。
 景色が白く染まる。
 足元の幾何学模様は光を失い消えていく。
 どうやら転移したようだ。

 同じような鬱蒼とした森の中。
 しかし、先程よりも明るい。
 折れた石柱に蔦は巻いない。俺たちの頭上には崩れかかった屋根の部分の石板を、折れていない石柱が一本で支えている。
「転移したようだが、ここはどこだ?どこにむかえばいいのだ?」
 エッジの肩に自らの肩が触れていた。
 俺の思考に応えるように、エッジは地面を指した。
 土に埋もれ、植物に浸食されてはいるが、石畳が続いているようだ。

 石畳を歩く。
 途中、途切れている箇所も何か所かあったが、確かに続いている。
 鬱蒼とした森の中だが、昇りの石段もある。明らかに傾斜を登っている。
 不意に視界が開ける。
 見上げると、森と同化しているような錯覚に襲われるが、城郭が見える。
 一番高い尖塔にも蔦などが幾重にも巻き付き、元の色がわからない屋根部分からは木が貫通し、葉を茂らせている。
「あそこに通じているようだな」
 一度だけ、エッジと見合わせる。
 再度、歩を進め、廃城の城壁にたどり着いた。
 数体の青白いゴーストが、城壁をすり抜け、また城内に戻っていく様がみえる。我々に関心はないようだ。

 石畳は城壁を沿うように続いている。
 山間の途中に建てられた城なのか?
 古いようで、城門内の建物も崩壊が目立つ。
 そして、城壁周辺も崖崩れかなにかで地面わずかしかないような場所もある。
 石畳に従い、城門にたどり着いた。
 付近に生者の反応は全くなかった。

 かつては立派な城門だったのだろう。
 ゲートハウスと言うのか?
 門と一体化したような白い石積が見える。
 だが、それは輪郭でしかない。
 門の扉は朽ちて久しいのか、木の破片が見えるだけだ。

 崩れた門前に異質な物があった。
 崩壊している景色の中、重厚なフルプレート。
 手入れされているのか、太陽を反射し光る。
 その手には、垂直に立てたハルバード。
 地面に片膝を立て、片膝は崩しているのだが、俺たちが門に近づくと立ち上がる。

 兜の部分は無い。
 構える訳ではなく、ただ立ち上がり、片手でハルバードを握っている。
 中にはゴーストがいる気配だが、ゴーストに鎧を動かす力はないはずだ。
 俺はエッジの肩を掴む。
「こいつ、アンデッドだ。首無しの騎士…デュラハンとか言ったか」
「なら、あの黒服が言っていたのはコイツなのか?たいして強くなさそうだがな」
 エッジの評価は「強い」かどうかだ。
 だが、俺も同意見だった。たいしたことはないヤツだ…と。

 俺とエッジは近付くが、敵対行動は取っていない首無し鎧。
 俺は手を伸ばし鎧に触れる。
「おい、お前は何者だ?ここで何をしている?」
 首無し鎧は驚いたのか、飛び退った。
 ハルバードを体の前で斜めにして、防御姿勢を取っている。
 その姿を見て、俺とエッジは顔を見合わせる。
「だめだ、こいつは弱すぎる。城の奥か?」
 首無し鎧は構えを解き、俺の方へガシャガシャと歩きよってきた。
「ま、まさかスケルトンに話しかけられるとは。あ、いや失礼。吾輩はこの城門を護っているジェイムズと申す。して、貴公らは何用だ?城主は留守だが」
 俺はよそ見をしているエッジの手を引く。
「エッジよ。お前も一応話しを聞いておけ」
 無理やりエッジの手を引き、ジェイムズと名乗る鎧に触れさせる。

「俺はスケルトンで名は無い。この剣士は『エッジ』だ。ジェイムズ、ここに強いアンデッドはいるのか?城の中か?」
 ジェイムズは体の向きを俺たちに向ける。
 きっと首があれば、それも向いているだろう。
「城内最強は吾輩だ。それは揺るがないだろう。しかし、スケルトンの貴公らも、生者のように城内を荒しにきたのか?」
 一度、エッジを見るも、明らかに興味を失っている。城とは逆方向の空を見上げていた。
 仕方ない、俺が対応を続けるしかないのか。
「一度、城内を案内してくれないか?城に仕えていた魔術師などもいたのではないか?」

 コイツではなく、きっと物理以外の魔法やその他の能力が高いアンデッドがいるのではないか。俺はそう目星をつけた。
「貴公たちに敵対の意志がないのはわかる。城を荒す目的でもないのであろう。しかし、許可なく城内に入れる訳にはいかない」
「一体誰の許可がいるのだ?ところでジェイムズよ。お前はデュラハンという存在ではないのか?」
 ジェイムズは天を仰ぐような動きをした。
「許可は城主に決まっているだろう。そして、吾輩はデュラハンなのだろう。子供の頃にそんな話を聞いた。首を小脇に抱え戦う騎兵」
「お前の首と、首無しの馬はどこにいるのだ?」
「首は…うっ馬は…失ってしまった」
 ガシャリと音を立てて肩を落とすジェイムズ。
 俺はさらに疑問を投げかける。
「で、その許可をくれる主君だか城主だかはどこにいるのだ?」
 なんだ?
 触れている手から何かが流れ込んでくる。


「城主を出せ!そうすれば他の者の命は助けてやる」
 だみ声の叫び声。ジェイムズではないのか。
「我が命に変えても主君は護る」
 ジェイムズの声に嘲笑うだみ声。他の下卑たヤジも飛ぶ。
「俺たちはビロダロンに従うんだよ。あんな古い城主じゃダメだ」
「おい、騎士さまよ。お前の馬は死んだぜ!」
「城主はどこだ?城主を出せ!」


「我が…我が主君は、吾輩が護るのだ!もう二度と貴様らなんぞに遅れは取らん!」
 叫ぶジェイムズの元に、青白いゴーストが集まってくる。
 十、二十、五十。
 何体ものゴーストがジェイムズの鎧に吸い込まれた。
 ジェイムズから青白いモヤが上がる。

 俺はエッジに突き飛ばされた。
 エッジは既に二刀を抜き臨戦態勢だ。
 石畳を割り、踏み込むジェイムズから素早く飛んで退避するエッジ。
 大きく振るハルバードは疾風。
 重量感を感じさせない、ヒュンと言う音を立てエッジに迫る。
 エッジは斜めに構えた二本のシミターで受け流すも、吹き飛ばされている。
 転がりながら、地にシミターを差して立ち上がる。
 ジェイムズはさらに刺突の追撃を放つが、エッジの二本のシミターはその先端を挟み込んでいた。
 エッジごと引き抜くようにハルバードは力強く引かれる。
 エッジはその力を使い飛ぶ。
 ハルバードの長い柄の上を走り、鎧の肩を切りつけた。
 ひっかくような音と共に飛び散る火花。
 エッジの攻撃でも、鎧の表面に傷をつけるだけで切り裂けない。

 ジェイムズの横なぎからの斧を使用した引っかけるような動き。
 穂先での素早い刺突。
 振り回し、石突きでの殴打。
 それらを併用し、変幻自在の攻撃を繰り出す。
 エッジもそれらに呼応するように、避け、屈み、跳ね、いなす。
 隙を見て懐に飛び込む。
 斬り、突き、蹴る。
 しかし、鎧にダメージは無いように見える。

 俺は一瞬、その戦いから目を逸らす。
 空には、月が二つ見える。太陽は消えて久しいようだ。
 朝のうちにここについたはずだったのに。
 時折打ち合う火花があたりを照らす。
 間違いない。
 勧誘の対象はこの「デュラハン」だ。


 デュラハンの鎧には、無数の傷やへこみが見て取れる。
 エッジの体も数か所の骨折やヒビがある。
 火花を散らす激突。
 飛び退いて距離を取り見合う。
 またお互いに踏み込み、攻防を繰り返す。
 一昼夜行われたその戦闘。
 何百度目かの激突からの離合、お見合い。
 静かに夜が明ける。
 二人は動かない。
 ジェイムズの体が、がくりと脱力したように膝を折る。
 全身から青白いモヤが消え去り、無数のゴーストたちが離散した。


「では、お主たちはビロダロンの、帝国の者ではないのだな?」
 エッジは話し合いに飽きたのか、地面に頬杖をついて横になってしまった。
「ああ、お前の勧誘だ、ジェイムズ。共に生者を討たないか?」
 ジェイムズはすぐに返答をする。
「吾輩は城門を守らねばならん。ここを離れるには城主の許可が必要だ」
「そうか。ならば仕方ない」
 俺は地面に寝ているエッジの腕を掴み立たせる。
「エッジ、戻るぞ」
 エッジは立ち上がると、デュラハンの胸を拳で叩いて手をあげた。
 俺もデュラハンに手を上げると、デュラハンは律儀に無い頭を下げた。
「ご武運を、戦士たちよ」
 その声を背に受け、俺たちは転送陣へ戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...