スケルトンとして生きるには、少しだけ狂っていなきゃいけない

ピモラス

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復讐

勇者の次は

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 勇者を倒した。

 一瞬の歓喜が湧き上がるが、さらなる憎悪が身を包む。
 次は聖女だ。

 勇者を討って、はっきりと理解した。
 勇者など、ただの飾り。
 真の討つべき敵は、聖女だ。

 世界の支配者を気取る「神」の代理人め。
 絶対に許さん。
 俺の視界は赤く染まる。


 しかし、次の瞬間、俺の視界は白い光に包まれる。
 眩しい光で目が見えない。
 耳鳴りのような静寂が広がる。 
 そして、体を浮遊感が襲う。

 一体、何が起きた

 視界は暗転した



 俺は意識を失ったのか?
 しかし、視界は真っ暗なままだ。
 闇夜を見通す目でも、何も見えない。
 体は…動かない。
 しかし、狭い所…棺の中のような中にいるような感覚がある。

「ビュル、ヒャルマー」
 呼びかけに答えはない。
 なんとなく、やつらが「ここ」にいないのがわかっていた。
 俺は今、一人だ。
 だが、安息感が身を包んでいる。
 気持ちが軽くなっていくような感覚がある。

 …ケイ

 誰かに呼ばれたような気がした。

「ケイスケ」

 気のせいだとは思ったが、再度呼ばれる。

 暗黒の世界に、金色の光を帯びた、青く透ける人影が見えた。

「お前は…聖女だな?」

 漠然と、そう思った。
 そして、俺の視界は、赤くならない。
 怒りも湧かない。
 だが、肉体がそのに「ある」感覚がある。

「ケイスケ。ここがどこだか、わかりますか?」
「ここは…棺の中…だろう」
「そうです。あなたの世界の、あなたの棺の中です」
 俺の世界での、俺の棺の中…そうだ、俺はあの時…

「わたくしの力も十全ではありません。思い出すのです。自分の力で…」

「あなたは…真実を知っている」

 聖女が祈りを捧げたとき、世界が一瞬、色を失った。
 灰のような世界。赤い空。煙と、焼け焦げた家屋。
 “パパぁ……どこ……”という声。

 それは……誰の声だった?

 俺の意識は、暗闇に飲み込まれていく。





 俺は、オフィスで顧客と電話をしていた。
 そして、電話を切ると、上司に呼ばれた。
「落ち着いて聞いてくれ。警察から連絡があり、君の家が火事になった」と。


 俺は、気が付いたら、燃え跡の家の前にいた。
「妻と子供は無事なのか」
 消防士か警察官か、わからないが、聞いた。


 そして、俺は葬儀場か、火葬場かにいた。
 骨壺が二つ、一つは小さい。
 俺は何をしているのか、その前で固まっている。


 警察署。
 顔の無い警察官が口を開く。
「あなたは勤務中でしたが、出火元は、あなたの家のようです」


 近所の家の損害賠償の話を、会社の応接室で聞いている。
 会社側は、退職金を払うので、俺を解雇すると。


 家族も、家も、仕事も、失った。

 火災の原因は、不審火、放火だった。
 俺は、自身や家族の無実を訴えようかと考えていた。
 しかし、もう俺には何もない。
 生きていく気力も。

 俺は…自分を殺した。


 そうだ、俺は自殺して死んだのだ。

 だが、何かが見える。

 ぼんやりとした灯りの向こうに。


 二人の男が何かをしている。
 白骨死体が台上に寝かされている。
 周囲には、まだ温かみのある血の流れる遺体が散乱する。

 周囲は暗い。
 フード付きローブをまとう二人の足元には、弱々しい灯りのランプしかない。
 その淡い光は、かえって闇夜を深く感じさせている。息苦しさを増しているように。

「前回と比較して、今回は生贄の鮮度を重視したが、あまりいい手ごたえではないようだ」
 真っ白な細い手を台上の白骨死体に伸ばす。
「どうだろうな、わが友よ。君が言っていた『問題点は根本にある』と思っている事はもしかしたら…」
「アル、これ以上、君の手を借りては迷惑をかけてしまうのではないか?君の恩に甘えてばかりでは悪いし、君に返せるようなことが何かあればいいのだけど」

 アルと呼ばれた男は、もう一人のローブ姿の男に近づいて、肩に手を回す。
「ギド、君までそんな事言わないでくれ。僕たちは友達じゃないか。それに、君にはずいぶん助けられている。それに、この実験は実に興味深い」

 ギドは答えない。
 そんな彼の顔を覗き込んで、アルは話しを続ける。
「前回、君の手助けのおかげで、他の世界の魂を掴めそうなんだ。それがうまくいけば、それを媒介にできないかな?」
「僕は次元魔法にそれほど詳しくはないからわからないけど、他世界ならば、この世界の時間には縛られないのかもしれない。そうなると…」

 ギドは中空に視線を彷徨わせて、考えに耽っている。
「はは、君はやっぱり変わらないな。また一緒に考えて実験しよう。もし時間制限から解放された素体ができたら、僕にも一体提供してくれるかな」
「ああ、大量生産できたらだけど。…その為には、まず一体は完成させないと」



 ここは…あれは、先ほどのローブの…いや、あれは若者だったが、これは…

「この魂、異常に純度が高い。……死の際に、怨嗟も、執着も、怒りもない。まるで祈るような……」 
「いや違う。これは“赦し”に似ている。だが、空虚でもある。自己の否定――完全な」

「……祈りましょう。あなたの魂が、いずれ“本当に安らぐ”その日まで」
 聖女の姿は無いが、その声が聞こえる。
「あなたは、彼らに作られた。いや、他の世界で自死した魂を無理やり核とし、命無きものとして蘇生されたのです。あなたは…真実を知っている」
 そうだ。俺は知っていた。無意識に拒否していたのか。
 俺は…
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