異界の探偵事務所

森川 八雲

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アシスタント?

蒼葉探偵事務所

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もらった地図をもとに事務所へたどり着いた
なんとも…寂れたビルに一室を構えている

「ここかぁ…大丈夫かな…」
これから世話になるというのに酷い言いぐさである

呼び鈴を押すが音が出ない
壊れているのだろうか?
何回か押すも鳴る気配がない

仕方がないのでドアを開ける
「ごめんください…」
顔半分ほど開け呼びかける
が、返事がない
次は中に入って呼びかける
「ごめんください!」

「は~い…依頼の方ですか…?」

頭をかきながら上半身裸の男が奥の部屋から現れる
「うわっ!」
驚いて声を上げてしまった
まだ中学生なのだから"キャッ!"と言えば可愛げがあるのだが

「あぁスマン、スマン。ちょっと筋トレしててな」
汗を拭きながら男が答える

「で、依頼かな?お嬢ちゃん」
「依頼ではなくて…これ…」
薫から預かった手紙を渡す
「あと、お嬢ちゃんじゃありません」

「げ、マジかよ~…」
開ける前に驚いている

「どれ…」
手紙を取り出し読み始めるがすぐに
「マジかよ…」
また同じことを言う

「あの、なんて書いてあるんですか?」
「これ…」

差し出された手紙には、こう書いてある

"この子をよろしく 薫"

たったこれだけだ

「は~…マジか…」
また同じ事を言う
語彙力が無いのだろうか…

「あの…これはどういう?」

「ま、君をここに住まわせて面倒をみろって事だ」
「え?私は家がありますよ?」

「たぶん、そこはもう安全じゃないんだろう」
「そんな…」
「しょうがない、アイツは滅多にこんな事を頼まないしな」
「いや、初めてかも」
「そうなんですか…」
「そういうわけだ、近いうちに家に必要な物を取りに行って、残りは廃棄するぞ」
「そんな急ですか?」

流石に早すぎるし、失礼だがこんな細身の男性では引っ越し作業はできないだろう
残りは廃棄だなんて一体何を考えているんだ

「そういえば自己紹介がまだだったな、俺は蒼葉次郎、君は?」
「私は樹乃森爽です、はじめまして」

「ところでその腕は…何か凄い力を感じるけど」
「これは、父の形見を加工したものです」
詳しくは言わない、まだ信用していないからだ
いくら薫の紹介でも初対面なのである
「なるほど、お母さんは?」
「私が小さいときに…」
「そっか、悪かったね」
「いいえ、大丈夫です」

「今日は奥の部屋を使うといい、荷物もね」
「あ、はい、わかりました。よろしくおねがいします」
「あぁ、よろしく」

「あの、助手の方とかは居ないんですか?」
「う~ん、欲しいんだけどね、そこまでの余裕が無いっていうか…」
部屋には筋トレグッズやプロテインが大量にある
整理整頓されていなくて、本当に"ある"という状態である
これではだれも働きたいと思わないだろう

「すみません、ここ掃除しても良いですか?」
世話になるんだからこれくらいは

「本当?いや~助かる!」
現金な男である

しかし、この次郎という男
不思議な気配を感じる

春の風が吹くような、夏の熱さのような、清流のような、大地のようなどっしりしたような感覚だ

一体何者なのだろうか
薫の紹介なのだから何かしらあるとは思っているが…

「少し、話を聞かせてくれないか?」
母は幼い頃に他界した事、父が発掘作業中の事故で他界した事、なるべく辻褄が合うように話した

「あ~信用されてないなぁ…薫から何も聞いてないのか?」
凄くややこしい表情で聞いてくる
「いえ、何も…」
「はぁ~アイツめ…わかった!じゃあ俺の事から話そう」

…なんというか…信じられない様な内容だった
自分は幼い頃に、前所長に拾われて養子になった事
ここまでは良い
いや、拾われたと言うことはそれ以前の生活の事を考えると良かったのか悪かったのか

問題はここからだ
四大精霊の力が"何故か"使える事

これは意味が分からない
精霊なんて伝承やゲームの世界だけだと思ってた
自分がシバルバの剣の力を使える事を棚に上げてでも、そう思った
でも、私は死ぬような試練を受けて使えるようになった
しかし次郎は"何故か"使えるという
その力でうまく誤魔化しながら依頼を解決してきたらしい

半信半疑だったので、その力を少し見せてもらうことにした

「わかった、わかった、いいか?みてろよ…」
手のひらを下に向けてから1~2秒程だろうか
どこからともなく風が巻き上がり書類を飛ばしてしまった
ちなみに見える範囲の窓は全て閉まっている

「え…これは…」
手をかざしてから何か力が集まる感覚がした

「どうだ?今のは風の精霊の力だが、信じてもらえたかな?」

「では、次は私が」
「お?何を見せてくれるんだ?」

アームレットグローブを着けた右手を前に出し、5㎤程の空間を作りだした
これは術者である爽にしか視認できない

「見ててくださいね」

「炎よ!」
もう技名を叫んでも恥ずかしくなくなっていた

「うぉっ!まぶしっ!」
そこに光る立方体が現れた!
いや、もう立方体とは分からないぐらいに眩しい!

「これは、目眩ましか?」
「そういう使い方もありますね、アレ、実は炎の部屋なんです」
「中にいるものは熱で蒸発します」
「サラッと凄いことを言うな、君は」
「それほどでも」

能力の見せ合いっこで少し打ち解けた
ここからは正直に話した
父のこと、薫と修行した事
シバルバの剣の他にアーティファクトも使えること

「そっか、苦労したんだな、ま、ここではそんなに気をはらなくていいから」
自分でも気が付いていなかった
「ここに来てからずっとしかめっ面だぞ」
「えっ…」
私、そんな顔してたのか…
言われて少しホッとした自分がいる

「さ、今日はもう休もう、明日朝4時にここを出るぞ」
「そんなに早くですか…?」
「だって君は学校があるだろ?」

「あっ…修行してて忘れてました…」

翌朝、次郎を連れて樹乃森家へ向かう
ソファーで寝たので体が痛い

たどり着くと警官が立っており、門が立ち入り禁止のテープで塞がれている
家は…何故か半壊している…
「うそ…なんで…」
駆け寄ると警官に止められる
「待ちなさい!危険です!」
危険なのは見れば分かる
「私の家なんです!入らせてください!」
「ですから!危険なんです!まだ崩れるかもしれない!」
「ちょっといいかな」
次郎が警官に話しかける
「あなたは?」
怪訝そうに次郎を見る
「俺は蒼葉探偵事務所の者だ」
そう言って名刺を渡す
日本には探偵手帳のような物はない
「ああ!蒼葉事務所の!何でしょう」
意外と知られている事務所の様だ

「これは何があったんだ?」
「昨夜爆発事故がありまして、ご家族に連絡しているところです」
「爆発事故?」
「えぇ、ガス爆発か何かでしょうか、鑑識の結果待ちと解体待ちです」
「なるほど、わかった。少し入らせてくれないか?あの子も一緒に」
「それは…構いませんが、怪我だけはしない様にお願いしますよ。あと、その子はここの娘さんですか?」
「ああ、しばらく俺の所で預かる事になった。所長には俺から連絡しておくよ」
「助かります!」
通常未成年を預かることはできないが、知り合いである所長に話を通せば大抵の事はなんとかなる
人脈とはとても有り難いものだ
施設では爽の力を隠す事は難しいだろう
いずれバレて大変な事になるかもしれないし、何より爽が望まないであろう

「よし、入ろうか」
「はい!」

テープをくぐり中に入ると居間辺りを中心に吹き飛んでいる
少し焦げた匂いもする

「家がこんなに…」
「酷いな…」

爽は瓦礫の中をあさり始めた
「あった!」
それは小さな写真立てだった
「よく場所が分かったな」
「アーティファクトを使いましたから」
にこやかに答えているが、涙を浮かべている
それは両親と爽の3人で写っている写真だった

「他には良いのか?」
「はい、これだけあれば十分です。後で解体の手配をしておきます」
意外とあっさりしていた
しかし、深く聞くことはできない
今はそっとしておこう

「わかった、じゃあ事務所に戻るか」
「はい」

事務所に戻ると次郎が電話をし始める
所長に話をしている様だ

「そう、そうです…はい、え?マジですか?はぁ、はい…分かりました…」

電話は終わったようだ

「どうしたんですか?」
「はぁ、君の家の爆発事故を調査しろってさ」

「え?ガス爆発じゃ…」
「居間にガスは通ってないだろ?鑑識も火元となる一番焼けた場所も無いんだってさ」

確かにあの家の居間にはガス栓は無かった

「それじゃ、私も連れて行ってください!」
「あぁ、そのつもりだ」

「おっと、そろそろ学校の時間じゃないか?」

時計を見ると…3:21だった
え?と、思ったがよく見ると秒針が動いていない

「あの…帰りに電池買ってきますね…」

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