転生した私の普通じゃない日々

森川 八雲

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中等部編

土のダンジョン!

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 馬車の揺れに身を任せながら、ユカ、ハリィ、そしてプリスの三人は、グラナスの街へと向かっていた。
 風が心地よく吹き抜ける中、馬車の車輪が石畳をゴトゴトと鳴らし、街の入口へと近づいていく。

「ようやく着いたな」
 プリスが窓から外を見ながら、にっこりと笑う。

「ここがグラナスか……すごく賑やかだね」
 ハリィが目を輝かせながら周囲を見渡す。
 大きな市場が広がっており、人々の活気に溢れていた。
 街の建物は赤茶色の瓦で統一され、土の力を感じさせるような温かみのある色合いだった。

 ユカも馬車の外を見つめ、少し緊張した表情を浮かべた。

「さあ、早速情報収集をしないとね。土属性のダンジョン、どんな感じなのか気になるわ」

 馬車が街の広場へ到着すると、三人は降りて、まずは町の中心部に向かった。
 街の中心には、立派な広場と、市場の売店が並んでいる。
 人々が集まり、賑やかに声を上げる中、三人はひとまず食料や道具を手に入れるために雑貨店へ足を運んだ。

 店内では様々な物品が並んでおり、金属や布、魔法の道具が整然と並べられていた。
 店主は無愛想だが、商売に慣れた手つきで商品を取り出しては見せてくれる。

「これが魔法石だ。種類が3つあるんだ。青いのはすぐ壊れるが、魔力を注ぐことはできる。黄色いのは頑丈で長持ちする。ただし、魔力の効果が弱くなることがある。で、赤いのは、注がれた魔力が3倍の効果を発揮するんだ。でも、やっぱり壊れやすいな」
 店主が説明する。

「青いのは使ったことがあるけど、ほんとにすぐ壊れちゃうよね」
 ユカが言うと、店主は頷く。

「そうだ。だから急いで魔術を使いたいときには便利だが、長期使用には向かない」

「黄色も使ったことがあるけど、丈夫で便利だったけど、やっぱり魔力の増幅は少し物足りなかったな」
 ハリィが言うと、店主はさらに説明を加える。

「黄色い魔法石は確かに長持ちするが、魔力の増幅力が低い。特に強力な魔法には物足りないだろうな」

「それにしても、赤い魔法石って見たことないな」
 プリスが言いながら、赤い魔法石を手に取ると、その美しい色合いに見入る。

「赤い魔法石はすぐに壊れやすいが、注がれた魔力が3倍の効果を発揮する。だから、強力な魔術を使いたいときに有効なんだ」
 店主が続ける。「でも、ここグラナスで手に入れるのは難しい。非常に貴重で、ほとんど流通していないんだ」

「赤い魔法石がそんなにすごいんだ……」
 ユカが興味深そうに言う。

「だが、すぐ壊れるから使いどころに注意しないとだな。それでも、効果は絶大だよ。魔力の増幅を狙うなら、赤いのが最も強力だ」
 店主が赤い魔法石を手に取って見せてくれた。
 その光は美しく、何か神秘的な力を感じさせる。

「でも、見たことがないなら、今回のダンジョンで手に入れるチャンスかもしれないな」
 プリスが目を輝かせて言う。

「うん、そうかも」
 ユカが頷いた。

「それにしても、もし本当に赤い魔法石が手に入ったら……」
 ハリィが少しワクワクした表情で呟くと、ユカは微笑んだ。

「そのときは、使い方を慎重に考えないとね。でも、手に入れられたら強力な魔術が使えるようになるかもしれない」

「よし、じゃあ準備万端だな!」
 プリスがにっこりと笑うと、三人はその後もダンジョンの情報を集め、明日の冒険に備えた。

「さて、ダンジョンの入り口は近いし、準備を整えよう」
 ユカが先導し、三人は土属性のダンジョンへ向かって歩き出した。

 グラナスの街からしばらく進んだ先にある土属性のダンジョン。
 三人は守衛に軽く挨拶をして、静かな岩の扉を押し開けて中へと入った。

「ラーヴァークの街にあったダンジョンより頑丈な造りかも…」
 ユカが少し感心したように呟く。
 周囲には土と石で造られた壁が続いており、まるで地底の迷宮に迷い込んだかのようだ。
 静寂を破るかのように、硬い足音が響き、奥の方で何かが動く音が聞こえてきた。

「何かいるのか?」
 ハリィが警戒しながら耳を澄ませる。

 突然、目の前に現れたのは、巨大な亀のようなモンスターだった。
 陸ガメを何十倍にもしたようなその姿は、まるで動く岩の塊のようだった。
 硬い甲羅はまるで岩のように見え、その一歩一歩が地面を揺らす。

「これはかなり硬そうな敵だね」
 ユカが冷静に言った。

「弓で攻撃してみるよ」
 ユカが弓を引き絞り、矢を放つ。
 しかし、その矢は亀の硬い甲羅に当たっただけで弾かれてしまった。

「私もやってみる!」
 ハリィがロングソードを構え、亀に向かって突進するが、甲羅に当たった瞬間、剣が反発して弾かれる。

「うーん、これじゃダメみたいね」
 ハリィは腕を振りながら不満げに言った。

 プリスが少し考え、すぐに拳に黄色の魔法石を埋め込んだ装具をはめて、亀に向かって一歩前に出た。

「ナックルボンバー!」
 拳を振り上げ、その力を込めて放つ。

 ドムッ!
 鈍い音が響き、亀の甲羅にヒビが入った。
 しかし、亀はそのまま前足を使って地面を蹴り、巨大な岩を飛ばしてきた。
 三人は間一髪でそれをかわし、後ろに飛び退いた。

「危ない!」
 ユカが叫びながら、すぐに立ち直ると、ナイフを取り出し、亀の甲羅のヒビ目掛けて突き刺そうとした。

「プリス!この短剣目掛けてナックルボンバーを!」
 ユカが叫ぶと、プリスはすぐに反応した。

「おうよ!」
 プリスは再び拳を振り上げ、力を込めて放つ。

 ズドン!
 甲羅の一部が破裂し、岩の破片が飛び散った。
 亀の柔らかい部分が露出した。

「そこだ!」
 ユカが声を上げて、一気に突き刺す。

「はぁっ!」
 ハリィがその隙に大きな一撃を放つ。
 鋭い一閃が亀の甲羅を切り裂いたが、それでも亀はまだ動き続ける。

「まだ倒せてない…!」
 ユカは焦りながら、矢をもう一本取り出し、矢尻に火の魔術を込める。

「ファイア!」
 ポウッ!
 魔法石が青く輝き、魔力が注がれる。
 矢が発射され、甲羅に突き刺さると、内部で爆発が起こった。

 ボムッ!
 亀はのたうち回り、ひっくり返ってしまう。

「今だ!」
 ユカの叫びとともに、ハリィがその隙を逃さず、再度剣を振り下ろした。

「ていっ!」
 ハリィの剣が亀の腹部を貫き、最後の一撃が決まった。

「グウウウウ!」
 亀は断末魔のような悲鳴をあげ、力尽きて倒れた。

「ふぅ、硬くて手こずっちゃったね…」
 ユカが息をつきながら言った。

「剣だと全然ダメだよ…」
 ハリィがため息をつき、肩をすくめる。

「硬い敵にはナックルボンバーが有効だな!」
 プリスは嬉しそうに拳を振り上げた。

 その後、特に強い敵も現れず、三人は順調にダンジョンの最奥部にたどり着いた。

「……あれ?なんにもないね」

 ダンジョンの最奥に到着した三人は、拍子抜けしたように辺りを見回した。

 そこに広がっていたのは、ただの広い空間。天井は高く、壁は黒々とした岩で覆われている。そして、その中心部にはぽつんと巨大な岩の山がそびえていた。

「神龍様は本当にここに居るのかな?」
 ハリィが少し心配そうに尋ねる。

 ユカは腕を組みながら考え込む。
「う~ん…エンバークスは、神龍は住処を巡回してるって言ってたからなぁ…まだここには来ていないのかも…」

「それにしても…」
 プリスが山を見上げながら拳を握る。
「この岩……殴るのにちょうど良さそうだな!」

 ここへ来るように言われた以上、間違いではないはずだ。しかし、待っているだけでは暇を持て余す。

 プリスがいきなり拳を握りしめた。
「ナックルボンバー!」

 ドムッ!

 拳が岩山に直撃し、岩の破片がパラパラと落ちる。

「むむっ、硬いな!」

「じゃあ、魔法で試してみる?」
 ユカが少し笑いながら、指を鳴らした。

「ファイアボール!」

 ゴワッ!ズドンッ!

 火球が岩山にぶつかり、僅かに焦げ跡が残る。

「私もやってみる!」
 ハリィがロングソードを構え、風の魔術を発動させた。

「エアスラッシュ!」

 ズバッ!

 岩山の先端が切断され、ゴロゴロと転がる。

「わお!ハリィ凄いじゃん!」
 プリスが驚きの声を上げる。

「じゃあ私も!」
 ユカがもう一度攻撃態勢に入った。

「はあああ…インフェルノ!!!」

 ゴォッゴゴゴゴゴゴ!!!!

 激しい炎が岩山を包み込み、岩の表面がじわじわと熱を帯び、赤く変色し始める。

「わわわ、どうしよう…」
 唱えた本人のユカが慌てる。

「ちょっと熱すぎるんじゃないか?」
 プリスが呆れたように言う。

「ユカちゃん、すごいね!」
 ハリィは純粋に感動していた。

 そのときだった。

 ズドドドドド……!!

 地響きが響き渡る。

「なんだ!?」
「ちょっと…まさか…」
「えぇ……?」

 足元が揺れ、三人は立っていられなくなる。

 そして——

 岩山が、動いた。

「え?なに?!」

 次の瞬間、轟音とともに岩山がせり上がり、大地を割りながら巨大な影が姿を現した。

「グオオオオ!!!」

 それは、土の神龍だった。

 ユカは尻もちをつく。
「イテテ…」

「これは…すげぇ…!」
 プリスが驚愕の表情を浮かべる。

 神龍は全身に岩を纏い、堂々たる巨体を誇っていた。他の神龍と比べて翼は小さく、代わりに圧倒的な質量を持つその姿は、まさしく大地の象徴のようだった。

「あなたが土の神龍?」
 ユカが問う。

 龍はゆっくりと目を開き、重厚な声で答えた。
「そうじゃ、ワシが土の神龍ゲオドリスじゃ。お前は既にエンバークスの加護を得ているようじゃな」

「うん、私もハリィも加護を得てるよ。こっちのプリスをお願いします!」

 ユカはプリスを前に押し出す。

「あ、おい、俺にも喋らせろよ…」

「ほほ、元気な子じゃな」
 ゲオドリスは笑うように言う。

「女神から話は聞いておる。プリスとやら、何故力を求める?」

「そりゃ、誰よりも強くなりたいからね!そのためならなんだってやるさ!」

「その理由を問うておるのじゃよ」

 プリスは少し黙り、やがて真剣な表情で語り始めた。

「……まだユカたちには話してなかったけど……実は、母さんは魔物に襲われて死んだんだ……だから……もうそんな思いをしないために、強くなりたいんだ!」

 ユカとハリィは驚いてプリスを見つめた。

「そうか……辛かったの……」
 ゲオドリスの目が細められ、しばしの沈黙が流れた。

「少し痛いが、辛抱してくれ」

 ゲオドリスが口を開き、ゆっくりと頭を下げる。そして、ハリィのときと同じように、プリスの頭に血を滴らせた。

 ドクンッ!!

「うあああああ!!!」

 プリスの体が震える。

 ドクン、ドクン、ドクン。

 脈動するような衝撃が全身を駆け巡る。

「ああああああ!!!」

 ユカとハリィが心配そうに見守る中、プリスは全身の力を振り絞るように踏ん張った。

「よく辛抱したの。これで加護が得られたはずじゃ」

 ゲオドリスが静かに告げる。

「皆を守りたいという気持ちを、忘れるなよ」

 プリスは肩で息をしながら、ゆっくりと頷いた。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……はい!」

 ゲオドリスは満足そうに頷き、最後に言葉を残した。

「次はそうじゃの……水のダンジョンかのう。奴に会えると良いな」

「はい!ありがとうございます!」

 三人は深く礼をし、ゲオドリスに別れを告げた。

 ダンジョンを後にした三人は、ユカの家へと戻ってきた。

 木造の温かみのある家は、ユカが幼い頃から暮らしてきた場所。
 玄関を開けると、懐かしい香りが鼻をくすぐる。

「ただいまー!」

「おかえり!」

 出迎えたのはユカの両親だ。

 ユカは早速、父と母に報告をする。

「私たち、全員神龍様の加護を受けたよ!」

「お前たち、すごいな!」
 父が目を見開いて驚いた。

「もう三人とも、とてつもない力を手に入れたのか!」

「なんか女神様が関係してるみたいだよ」
 プリスが補足する。

「そうか……女神か……それならありえるな……」
 父は少し考え込むように言った。

「そうなの? 私、女神様のことよく知らないんだけど……」
 ユカが首をかしげる。

 彼女は女神の力によってこの世界に転生してきた。
 しかし、女神自身のことを詳しく聞く暇はなかったのだ。

 すると、父が説明を始めた。

「女神様はな、この世界を作ったとされているんだ。つまり、創造神ってやつだな。そして、他の世界は他の神が治めていると伝承に残っている」

「他の世界……?」

「そうだ。女神様が言うことなら間違いないし、その言葉は『掲示』として広められる。だが、今回の場合は個人的な内容だから、広める必要はなさそうだな」

 父は真剣な表情で三人を見渡す。

「だから、みんな。このことは秘密にしておくんだぞ」

「えっ、どうして?」
 ハリィが疑問を口にする。

「変な研究機関にでも見つかったら、人体実験の餌にされるかもしれないからな」

「……っ!」

 ユカたちは顔を見合わせ、ゴクリと息をのむ。

「わ、わかった! 秘密にするよ!」

「もちろん!」

「はい!」

 三人は元気よく返事をした。

 父は頷くと、少し和やかな声で問いかける。

「で、これからどうするんだ?」

 ユカは少し考え込む。

「せっかくの休みだし……どうしようか……」

 すると、プリスが勢いよく手を挙げた。

「私はちょっと城下町に行きたい! いろんなもの食べたい!」

「私も! それがいい!」
 ハリィもすぐに賛成する。

 ユカは笑いながら頷いた。

「よし、それじゃあ明日は城下町へ行こう!」

 こうして、久々の休息を楽しむため、三人は城下町へ向かうことになった。
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