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子狐のお願い
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「――お前たちに、神託を授けよう!」
白い子狐は、柚月の肩の上で、精いっぱい胸を張りながら言った。
動くたびに首に付けられた鈴が、シャンシャンと鳴る。
「……狐って喋るんだ」
惣一が目を丸くしてつぶやいた。
「…普通は喋りませんよ」
柚月は渋い顔で答える。
白い狐は、誇らしげに尾を揺らした。
「特別に玉藻様と呼ぶことをゆるそう」
玉藻は惣一の肩に飛び移り、クンクンと匂いを嗅ぐ。
そして、惣一の顔ををじっと覗き込む。
「少年からは、懐かしい匂いがする」
「え…」
惣一は戸惑ったように、玉藻を見つめ返した。
「ここで会ったのも何かの縁。
柚月と少年――わたしの願いをかなえて」
「……」
柚月は眉根を寄せた。
惣一は黙って玉藻の言葉を聞いている。
「悪い話じゃない。
少なくとも、君たちにとっては」
玉藻の声は、静かに響く。
「柚月は、この村で白峰神社の跡取りとして一生を終えたくないんでしょ?
少年、きみもこの地獄から解放されたいと思ってる。
――違う?」
柚月と惣一は顔を見合わせた。
「……玉藻様に協力すれば、私たちの願いが叶うのですか?」
柚月は玉藻の顔を覗き込み、淡々とした口調で尋ねた。
惣一は「うーん」と考えるそぶりをし、躊躇いがちに言う。
「解放されたいのはやまやまだけど、
僕は、妹のことがある。この村から離れられない。
それに、玉藻様。
村の守り神であるあなたが、何故そんな提案を?」
2人からの警戒心を含んだ視線を集めた玉藻は、少し考えて問いかけてきた。
「私の姿を見て、どう思う?」
惣一が口元に手を当てながら言う。
「……丸くて可愛い、かな」
柚月は表情を変えずに言った。
「胡散臭い、ですかね」
「そういうことじゃない!」
「わぷ」
小狐は尾を柚月の鼻先に打ちつけ、苛立ちを見せた。
「この姿は、村人の信仰が消えかかっている証拠なんだ!
神力が足りなくて、元の姿を維持できない。
本当の姿はもっとシュッとして神々しいんだぞ」
惣一の肩の上で、ぴょんぴょんと跳ねながらぷりぷりと怒る玉藻。
そこで、ふと悲しげに俯いた。
「みんな、真実をねじ曲げ、自分たちの見たいものしか見なくなってしまった。
わたしの声は、村人に届かなくなった。
もう、疲れたんだ」
そして、柚月と惣一を見据える。
「だから、君たちに終わらせてほしい。
この村の者には、頼めない」
柚月と惣一はちらりと顔を見合わせた。
「僕らに何かできることってあるのかな」
「私たちは、ただの子供ですよ」
玉藻に向かって淡々と返す。
ふたりとも、何か裏があるのでは?と疑っていた。
「最近の子どもは現実主義だね。
安心して。君たちにもできることだから」
「柚月に何度も夢を見せて、ここに導いたのもそのため。
私の血を引く愛しい子よ」
目を細めて柚月を見る。
「……もし、その提案を断ったら?」
「馬鹿なことはおやめ。私はお前の体を乗っ取ることもできる。これでも譲歩しているんだよ」
狐が目を細める。
雰囲気が威圧的なものに変わった。
周囲の木々が、玉藻に呼応するようにざわめき始める。
柚月の額に、ひとすじの汗が伝った。
こんな見た目でも神なのだと再認識する。
柚月は臆せず玉藻を睨みつけた。
「お祖母ちゃんにも、同じことを言ったのですか?」
惣一が、はっと息を呑んだのがわかった。
神だか何だか知らないが、祖母にもこうして脅すような真似をしていたというなら柚月は玉藻のことを許せない、と思った。
しかし、
「まさか」
と、小狐は短く首を振った。
「より子は、夢でわたしの姿を見たとき、ようやく会えたと笑っていたよ」
――祖母も柚月と同じ、狐に呼ばれる夢を見たと言っていた。
祖母は、巫女として狐を受け入れた。
体を乗っ取られはしなかったものの、その代償として、村を一生出ることはできなかった。
柚月は唇をかみしめる。
そんな人生は真っ平御免だ。
私には、私の人生がある。
なにより、祖母が柚月には自由でいてほしいと言っていたのだ。
祖母の願いを叶えたかった。
「より子は優しい人だったよ」
小狐の声が一瞬だけ、柔らかく揺れた。
「だからこそ、私の思いも村人の思いも背負って苦しんでいた」
祖母が思い悩む姿は柚月も知っていた。
祖母も今の村の状態が危ういことを憂いていたのだ。
玉藻の、より子を慈しむような表情に、柚月は気づいた。
惣一はまだ玉藻を警戒しているのか、口を開こうとしなかった。
―――ミーンミーン
―――シャワシャワ
―――ジージージー…
蝉の音だけがやけにうるさく響く。
柚月はため息をついた。
とりあえずはこの狐の言うことを聞くしかないだろう。
「何をすればいいのですか?玉藻様」
柚月は、面倒なことになってしまった、と頭の片隅で考えていた。
白い子狐は、柚月の肩の上で、精いっぱい胸を張りながら言った。
動くたびに首に付けられた鈴が、シャンシャンと鳴る。
「……狐って喋るんだ」
惣一が目を丸くしてつぶやいた。
「…普通は喋りませんよ」
柚月は渋い顔で答える。
白い狐は、誇らしげに尾を揺らした。
「特別に玉藻様と呼ぶことをゆるそう」
玉藻は惣一の肩に飛び移り、クンクンと匂いを嗅ぐ。
そして、惣一の顔ををじっと覗き込む。
「少年からは、懐かしい匂いがする」
「え…」
惣一は戸惑ったように、玉藻を見つめ返した。
「ここで会ったのも何かの縁。
柚月と少年――わたしの願いをかなえて」
「……」
柚月は眉根を寄せた。
惣一は黙って玉藻の言葉を聞いている。
「悪い話じゃない。
少なくとも、君たちにとっては」
玉藻の声は、静かに響く。
「柚月は、この村で白峰神社の跡取りとして一生を終えたくないんでしょ?
少年、きみもこの地獄から解放されたいと思ってる。
――違う?」
柚月と惣一は顔を見合わせた。
「……玉藻様に協力すれば、私たちの願いが叶うのですか?」
柚月は玉藻の顔を覗き込み、淡々とした口調で尋ねた。
惣一は「うーん」と考えるそぶりをし、躊躇いがちに言う。
「解放されたいのはやまやまだけど、
僕は、妹のことがある。この村から離れられない。
それに、玉藻様。
村の守り神であるあなたが、何故そんな提案を?」
2人からの警戒心を含んだ視線を集めた玉藻は、少し考えて問いかけてきた。
「私の姿を見て、どう思う?」
惣一が口元に手を当てながら言う。
「……丸くて可愛い、かな」
柚月は表情を変えずに言った。
「胡散臭い、ですかね」
「そういうことじゃない!」
「わぷ」
小狐は尾を柚月の鼻先に打ちつけ、苛立ちを見せた。
「この姿は、村人の信仰が消えかかっている証拠なんだ!
神力が足りなくて、元の姿を維持できない。
本当の姿はもっとシュッとして神々しいんだぞ」
惣一の肩の上で、ぴょんぴょんと跳ねながらぷりぷりと怒る玉藻。
そこで、ふと悲しげに俯いた。
「みんな、真実をねじ曲げ、自分たちの見たいものしか見なくなってしまった。
わたしの声は、村人に届かなくなった。
もう、疲れたんだ」
そして、柚月と惣一を見据える。
「だから、君たちに終わらせてほしい。
この村の者には、頼めない」
柚月と惣一はちらりと顔を見合わせた。
「僕らに何かできることってあるのかな」
「私たちは、ただの子供ですよ」
玉藻に向かって淡々と返す。
ふたりとも、何か裏があるのでは?と疑っていた。
「最近の子どもは現実主義だね。
安心して。君たちにもできることだから」
「柚月に何度も夢を見せて、ここに導いたのもそのため。
私の血を引く愛しい子よ」
目を細めて柚月を見る。
「……もし、その提案を断ったら?」
「馬鹿なことはおやめ。私はお前の体を乗っ取ることもできる。これでも譲歩しているんだよ」
狐が目を細める。
雰囲気が威圧的なものに変わった。
周囲の木々が、玉藻に呼応するようにざわめき始める。
柚月の額に、ひとすじの汗が伝った。
こんな見た目でも神なのだと再認識する。
柚月は臆せず玉藻を睨みつけた。
「お祖母ちゃんにも、同じことを言ったのですか?」
惣一が、はっと息を呑んだのがわかった。
神だか何だか知らないが、祖母にもこうして脅すような真似をしていたというなら柚月は玉藻のことを許せない、と思った。
しかし、
「まさか」
と、小狐は短く首を振った。
「より子は、夢でわたしの姿を見たとき、ようやく会えたと笑っていたよ」
――祖母も柚月と同じ、狐に呼ばれる夢を見たと言っていた。
祖母は、巫女として狐を受け入れた。
体を乗っ取られはしなかったものの、その代償として、村を一生出ることはできなかった。
柚月は唇をかみしめる。
そんな人生は真っ平御免だ。
私には、私の人生がある。
なにより、祖母が柚月には自由でいてほしいと言っていたのだ。
祖母の願いを叶えたかった。
「より子は優しい人だったよ」
小狐の声が一瞬だけ、柔らかく揺れた。
「だからこそ、私の思いも村人の思いも背負って苦しんでいた」
祖母が思い悩む姿は柚月も知っていた。
祖母も今の村の状態が危ういことを憂いていたのだ。
玉藻の、より子を慈しむような表情に、柚月は気づいた。
惣一はまだ玉藻を警戒しているのか、口を開こうとしなかった。
―――ミーンミーン
―――シャワシャワ
―――ジージージー…
蝉の音だけがやけにうるさく響く。
柚月はため息をついた。
とりあえずはこの狐の言うことを聞くしかないだろう。
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柚月は、面倒なことになってしまった、と頭の片隅で考えていた。
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