おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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第八十八話『見えざる敵と、空気の物語』

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雪に閉ざされた、ある日の完璧な日常。家の中は暖炉の火で陽だまりのように暖かく、ソーラーランタンの光で満ちている。しかし、俺は、ふとした瞬間に、空気の『淀み』を感じ取っていた。
太陽の光が窓から差し込んでも、空気中の細かな塵が、まるで時が止まったかのように、ゆっくりと漂っている。朝食に焼いたベーコンの香ばしい香りが、昼近くになっても、重く壁に染み付いているかのようだ。
読書に没頭しているはずのリディアが、時折、集中できないようにこめかみを知らず知らずのうちに押さえている。そして、一番正直なのがシラタマだ。彼は、暖炉の前の一番暖かい特等席を離れ、冷たい隙間風が吹く玄関の扉の前で、外の新鮮な空気を求めるように、クンクンと、何度も悲しそうに鼻を鳴らしていた。
「暖かいだけ、明るいだけじゃ、ダメなんですね。この城の一番大切なもの…『空気』が、少しだけ、疲れているみたいです」

俺は、リディアに、閉め切った冬の室内で起こる、空気の質の低下について解説した。
「俺たちの生活の匂いや、呼吸で、少しずつ空気が汚れてしまうんです。今日は、この空気を『浄化』し、さらに『最高の香り』で満たす、空気の錬金術を始めましょう」

まずは、不要な匂いを吸収する『脱臭剤』作りからだ。
俺は、料理で使った『木炭』の残りを金槌で細かく砕き、その黒い粉を『お茶パック』に詰めていく。その地道な作業を、リディアが、騎士の精密さで手伝ってくれる。

ポンッ!
【創造力:55/150 → 54/150】
Eランクの『お茶パック』。コストは1。
だが、その静かな手仕事を、一匹のもふもふが見過ごすはずもなかった。シラタマが、黒い炭の粉に興味津々で近づくと、その鼻先でくん、と匂いを嗅いだ。
「クシュン!」
次の瞬間、彼の大きなくしゃみで、黒い粉がぶわっと舞い上がる!そして、その粉が自慢の白い毛皮に降りかかり、目の周りだけが、見事なまでに黒い円を描いていた。
「ユ、ユキ殿…!シラタマが…!シラタマが、未知の生物『パンダ』に…!」
リディアが本気で慌てふためく中、当の本人は、自分の前足が黒くなっているのに気づき、「キュ?」と不思議そうに首を傾げている。その、あまりにも平和で、あまりにも愛らしい光景に、部屋中の空気が、笑いで一瞬だけ浄化された。

次に、空間に心地よい香りを加える『ポプリ』作りだ。
俺は、100均の『保冷剤』の中身を皿の上で乾燥させ、キラキラと輝く吸水ポリマーの結晶…最高の『保香剤』を作り出した。リディアは、ただの冷却ジェルが、まるで宝石の欠片のように生まれ変わったその光景に、息をのんでいる。

ポンッ!
【創造力:54/150 → 44/150】
Dランクの『保冷剤』。コストは10。

「さあ、最高の香りを、集めましょう」
俺たちが温室で冬咲きの花を摘んでいると、つちのこが、ひときわ甘く、清らかな香りを放つ、一輪の白い花を、そっと差し出してくれた。彼が育てた、この聖域からの、最高の贈り物だ。
次に、アニカが残してくれた『シナモンスティック』を、感謝を込めて砕いて加える。パン作りを教えた、あの温かい日々の記憶が、甘くスパイシーな香りと共に蘇る。
そして、最後に。あの眠れる森の王との、静かな邂逅を思い出しながら、『ひのきのアロマオイル』を、祈るように、数滴だけ垂らした。
つちのこの優しさ、アニカとの友情、そして、森の王への敬意。このガラスの器の中には、俺たちがこの世界で紡いできた、全ての物語が詰まっていた。

炭の脱臭剤が、生活の匂いを静かに吸い取り、そして、完成したポプリが、部屋中に、春の森のような、清らかで、複雑で、そしてどこまでも優しい香りを放ち始めた。
淀んでいた空気が、まるで浄化され、新しい命を吹き込まれたかのように、澄み渡っていくのが、肌で感じられた。光の粒が、より輝いて見える。暖炉の炎が、より穏やかに揺れているように見える。
リディアは、読んでいた本から顔を上げると、その、目には見えない、しかし確かな変化に気づき、ゆっくりと、深く、深く息を吸い込んだ。
「…ユキ殿。あなたは、目に見えぬ『空気』さえも、これほど豊かな物語に変えてしまうのか…」

その日の夜。一同は、暖炉の前に集まっていた。温かく、明るく、そして、世界で一番心地よい香りに満たされた、完璧な空間。
シラタマは、もう扉の前ではなく、ポプリが置かれたテーブルの近くで、最高に幸せそうな寝息を立てている。リディアは、読書に集中しながらも、その口元には、穏やかな笑みが浮かんでいた。
彼らが手に入れたのは、ただの快適な空間ではない。心と体を、芯から癒やす、『最高の空気』という、何物にも代えがたい贅沢だった。
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