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第八十七話『冬の陽だまりと、影絵の夜』
しおりを挟むその日、森は、冬の澄み切った青空が広がる、穏やかな午後に包まれていた。
外はまばゆい銀世界だが、冬の太陽は空の低い位置を、どこか寂しげに横切っていく。その光は、俺たちの家の窓から差し込んでも、部屋の奥までは届かない。
暖炉の炎は、変わらず俺たちの家を温かく照らしてくれている。だが、その力強い光だけでは、補えないものがあった。
リディアは、英雄譚を読み進めるその美しい眉間に、うっすらと皺を寄せている。薄暗さが、彼女の目に負担をかけているのだ。俺も、先日からの趣味である木彫りを続けようとしたが、手元に落ちる影が、どうにも作業を捗らせてくれない。
そして、一番正直なのは、シラタマだった。日照不足なのか、暖炉の前の一番暖かい場所を陣取っているというのに、日中も、ふぁ~、と大きすぎるあくびを繰り返している。
(暖かいだけじゃ、ダメなんだな…)
俺は、静かに息を吐いた。人間も、動物も、そしてきっと植物も、やっぱり『太陽の光』がないと、心の底からは元気が出ないみたいだ。
「リディアさん」
俺の声に、彼女は本から顔を上げた。
「今日は、この薄暗い俺たちの城に、春の日差しを『招待』する、特別な魔法を使いましょう」
俺が提案したのは、この薄暗い冬の室内を、劇的に明るくするための、壮大な計画だった。
「太陽そのものを明るくすることはできません。でも、家の外にある太陽の光を『捕まえて』、家の中に招き入れてあげることはできるんですよ」
俺は、光を反射させて、暗い場所を照らし出す『レフ板』の原理を、リディアに分かりやすく解説した。彼女は、その、あまりにも大胆な発想に、目を丸くしている。
「さあ、太陽を捕まえる網を作りましょう」
俺は、この『光の魔法』を実現するため、100均の知恵を総動員する。
ポンッ!
【創造力:150/150 → 122/150】
俺が召喚したのは、Bランクの防災グッズ『アルミ保温シート』。コストは28。
「ユキ殿、そのペラペラの銀紙で、太陽を捕まえるというのか…?」
「ええ。ですが、このままでは風で飛んでしまいます。なので、こいつらに、屈強な『鎧』を着せてあげましょう」
ポンッ!ポンッ!
【創造力:122/150 → 107/150】
Dランクの『ワイヤーネット』と、同じくDランクの『強力マグネット』セット。コストは合わせて15。
俺は、アルミシートをワイヤーネットで挟み込み強度を持たせ、木のフレームに固定し、巨大な反射板を完成させた。最後に、母屋の外壁に、穴を開けずに固定するため、強力マグネットを壁の内と外から、木の壁を挟むようにして取り付ける。
「いきますよ!」
俺とリディアは、完成した巨大な反射板を、南向きの窓の外に、太陽光が最も効率よく室内の天井に当たる角度で設置した。
その瞬間、奇跡が起きた。
それまで薄暗かった母屋の中が、まるで天窓を開けたかのように、ふわりと、明るく、柔らかな自然光で満たされたのだ。天井に反射した光が、部屋の隅々までを、穏やかに、春の日差しのように照らし出している。
「ユキ殿…あなたは、太陽さえも、手懐けるのか…!」
リディアは、その魔法のような光景に、ただただ息をのむ。
そして、その光の恩恵を、誰よりも早く見つけた者がいた。
「キュイ!」
シラタマだ。彼は、床にできた、温かく、明るい新しい『陽だまり』を見つけると、一目散に駆け寄り、最高に幸せそうな顔で、ゴロリと体を投げ出して、すぅすぅと穏やかな寝息を立て始めた。
その日の夜。日中の明るい光に触発された俺は、冬の夜長を楽しむための、もう一つの「光の遊び」を用意した。
俺は、スキルで、いくつかの文房具を召喚する。
ポンッ!ポンッ!
【創造力:107/150 → 102/150】
Eランクの『黒い画用紙』と、『竹串』。そして、Dランクの『白いテーブルクロス』。
俺は、黒い画用紙を、デザインナイフで、騎士や白熊、そして小さな精霊の形に切り抜き、竹串の先に取り付けた。
暖炉のそばに、白いテーブルクロスをスクリーンとして張り、その裏から、アロマキャンドルの、揺れる優しい光で、手作りの人形を照らし出す。
壁に映し出されたのは、一人の男が、森で一頭の白熊と出会い、やがて、一人の女騎士も加わって、共に家を建て、冬を越す…という、俺たち自身の、言葉のない物語だった。
リディアとシラタマは、その、暖かく、少しだけ切ない、光と影が織りなす小さな叙事詩を、瞬きも忘れて見入っていた。
影絵芝居が幕を閉じ、暖炉の炎だけが、静かに部屋を照らしている。
リディアは、その炎を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「…我らの物語は、英雄譚のように派手ではない。だが、この影絵のように、どこまでも温かい光に満ちているのだな」
俺たちは、冬の暗闇さえも、自分たちの手で、温かい光と、心豊かな物語で満たすことができる。
その、かけがえのない事実に、一同は、静かな幸福感に包まれるのだった。
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