ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん

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第二百二十話:収穫祭の準備は、巨木の枝で

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「……よし、今年の収穫祭は、什器(じゅうき)のレンタル費用も、テーブルの自作工数もゼロで開催できるぞ。これは、ブラック企業的に言えば『純利益百パーセント』の神案件だな」

 俺、ルークス・グルトは、村の広場の中心で、空から「ボトボトと降ってくる」高級家具を次々と受け止めながら、前世の経理担当のような冷徹な計算を脳内で弾いていた。
 俺の頭上に、もはやリーフ村の景観を完全に私物化してそそり立つ聖樹は、昨日与えた黄金の堆肥という名の「超高濃度ドーピング」により、完全に植物としての、あるいは生物としての理を逸脱していた。

 ボトッ、ボトッ、ボトォォォン!

 熟れすぎた果実が地面に激突するような、重量感のある音。
 だが、弾けた「多機能の実」の中から現れるのは、果肉でも種でもない。
 王侯貴族の晩餐会で使われるような、緻密な彫刻が施されたマホガニー調の重厚な長テーブル。
 一切の気泡を許さない、水晶のような透明度と魔力伝導率を誇るクリスタルジョッキ。
 さらには、なぜか座面が極上のベルベット生地で覆われた、脊椎への負担を極限まで軽減する人間工学に基づいたような極上の椅子。

「……ル、ルークスよ。わしはもう、何が起きても驚かんと、昨日の夜、神に誓ったはずなんじゃがな。……なぜ、木から『ニトリ』の最高級品みたいな椅子が実るんじゃ? これは神様への冒涜を通り越して、もはや世界の理に対する重大なハッキングじゃないのか?」

 村長ハンスが、足元に転がってきた「白磁のような光沢を持つ大皿」を、割れ物を見るような手つきで拾い上げ、震える声で呟いた。
 広場に集まった村人たちも、最初は腰を抜かして祈りを捧げていたが、今では「おお、この椅子は腰痛に効きそうだ!」「これなら一度に十人座れるぞ、来年の婚礼にも使えるな!」と、ルークスの周囲で起きる異常事態に慣れきった(思考停止した)様子で、次々と家具を担いで会場設営を始めてしまっている。

「伝統より実利ですよ、ハンスさん。壊れたってタダなんですから。……おーい、フィオナ! そこ、テーブルの列が歪んでるぞ! もっと等間隔に、ミリ単位で並べろ!」

 俺が声をかけた先では、昨日まで「聖域の誇りが……」と涙に暮れていたはずのエルフの少女、フィオナが、泥だらけの軍手を投げ捨てて仁王立ちしていた。

「……なんですって!? これほど神聖な聖樹様の枝(家具)を、そんな、家畜の餌箱を並べるような雑な配置で置くなんて、私のエルフとしての美的センスが、細胞レベルで拒絶しているわ! どきなさい、この無粋な平民ども! 『黄金比』という真理を、その節穴のような眼に焼き付けてあげるわよ!」

 フィオナは、エルフ特有の完璧主義と、ルークスへの対抗心のスイッチが完全に変な方向へ入ってしまったらしい。
 彼女は風魔法『シルフィード・ハンド』を、敵の首を跳ねる時よりも繊細に、かつ精密に操り、数十卓の重厚なテーブルを、一分の狂いもなく「神々の宴」を彷彿とさせる、数学的に完璧な幾何学的配置へと整えていく。

「……あ、あの、フィオナさん。ここに聖樹トマトのピザを並べても……?」
「角度が悪いわ! 光源の入射角を考えなさい! このクリスタルジョッキが、沈みゆく太陽の光を浴びて、虹色のプリズムをテーブルクロスに落とす……その特等席に配置するのよ! 分かったらさっさと動きなさい、この新人(農夫)!」

 もはやどっちが新人か、どっちがブラック上司か分からない。
 フェンが俺の足元で、冷や汗をかきながら遠い目をしている。
『……主よ。あの女、完全に「社畜の才能」を開花させているぞ。お前の指示を、頼んでもいないレベルまで自らブラッシュアップし、命を削って完遂しようとしている。……エルフの誇りとは、これほどまで容易に「業務改善」へと変換できるものだったのか?』
「いや、あれは『プライドのすり替え』だ。ブラック企業でもな、やりがいのない仕事を与え続けると、人は『いかに完璧にこなして周囲を黙らせるか』という方向に異常な情熱を燃やし始めるんだよ。……ま、会場が綺麗になるなら俺は構わないけどさ」

 広場には、母リリアが監修し、村の女たちが総出で仕込んだ『聖樹産トマトと巨大野菜の地獄煮込み(ミネストローネ)』の、暴力的なまでに芳醇な香りが立ち込めていた。
 大鍋でコトコトと煮込まれた黄金色のトマトは、聖樹由来の魔力によって「一口食えば全快する」というレベルの滋養に満ち、立ち上る湯気だけで村人たちの疲労を霧散させていく。
 さらには、俺がポイント触媒を使って一気に焼き上げた『黄金トマトと水牛チーズのマルゲリータ』。聖樹産の極上椅子に腰掛けた村人たちが、その香りに理性を奪われ、今にも暴動を起こさんばかりにジョッキを握りしめている。

「よし……会場設営、調理、すべて完了だ。フィオナ、お疲れ様。……おい、お前も座れ。今日は無礼講だ。働いた分、しっかり食えよ」

「……ふん。あくまで、配置の最終確認と、味覚のサンプリングのために座ってあげるだけなんだからね! ……あ、その黄金色に輝くシュワシュワした飲み物(地ビール)、つぎなさいよね。このクリスタルジョッキには、それが必要だわ」

 フィオナは、もはや聖域の守護者としての面影もなく、クリスタルジョッキを片手に、村の屈強な男たちと肩を並べて宴の開始を待ち侘びていた。

 だが。

 リーフ村が「歴史上、最も贅沢で愚かな収穫祭」の熱気に包まれ、俺が乾杯の音頭を取ろうとジョッキを高く掲げた、その刹那。

 ドォォォォォォン……!

 村の入り口、街道の先から、空気を震わせ、心臓を直接握りつぶすような、重厚で厳格な魔力のプレッシャーが押し寄せてきた。
 村の犬たちが一斉に鳴き止み、フェンが鋭い目つきで姿勢を低くし、喉の奥で「グルル……」と唸りを上げる。

 街道の砂埃の向こうから現れたのは、白銀の鎧を纏い、背中には一糸乱れぬ純白のマントを羽織った、一団の騎士たち。
 その一人一人が、フィオナとは比較にならないほどの苛烈な魔力を全身に宿し、その翡翠の瞳に「異端への断罪」という名の冷徹な光を湛えている。

 聖樹連合国、最精鋭――『聖樹守護騎士団』。
 その中央、巨大な白い一角獣(ユニコーン)に跨った騎士団長らしき男が、村の広場の惨状を目にし、絶句した。

「……なんだ、これは。……聖域の反応が消失し、この不浄な地へと転移したかと思えば……」

 彼の視線の先にあるのは。
 神聖不可侵であり、エルフにとっての神そのものであるはずの聖樹から産み落とされた「枝(家具)」で、泥酔して顔を真っ赤にしている薄汚れた人間たち。
 聖域の秘宝であり、儀式以外での使用を禁じられたクリスタルジョッキに、下品な発泡酒を注いで煽っている村長。
 そして。

「……お、団長~? 奇遇っすね~! ここのトマト、マジで『概念』が変わるくらい美味いっすよ~? ほら、あんたも堅いこと言わずに、この聖樹ジョッキでグイッと一杯どうっすか~?」

 聖樹産のマホガニーテーブルの上に、泥だらけの足を投げ出し、黄金のビールが入ったジョッキを団長に向けて掲げる、完全に「堕落」した部下、フィオナの姿だった。

「……フィオナ。……貴様……聖なる木を……我らが魂の拠り所を……『宴会の道具』にしたというのか……? ……殺せ。この無礼な猿どもを、一匹残らず!」

 騎士団長の背後から、大気を引き裂くほどの怒号が響き渡った。
 数十の抜剣の音。
 白銀の鋭い剣先が、夕日に染まるルークスの鼻先に、迷いなく突きつけられる。

「……終わった」

 俺は、黄金色のビールが注がれたジョッキを掲げたまま、乾いた声で独白した。
 王都の災厄を退け、ようやく手に入れた穏やかなスローライフ。
 だが、その目の前に立ちはだかったのは、理屈も、肥料も、ポイントの取引も通用しそうにない――「空気の読めない、最強の上司(エルフ)」だった。

「……ああ。スローライフ最大の敵は、いつだって『融通の利かない来客』だ」

 俺は、隣で「えへへ、おかわり~、団長もチョロいっすよ~」と笑っているフィオナの頭を、そっとジョッキで小突いた。
 リーフ村史上最高の祭りは、こうして、異世界全土を揺るがす「聖樹奪還戦争」の火蓋へと、最悪のタイミングで繋がってしまったのだった。

---


**【読者へのメッセージ】**
いつもご愛読ありがとうございます!
第二百二十話、いかがでしたでしょうか?
「聖樹をホームセンターにする」というルークスの暴挙、そして完全に出来上がってしまったフィオナの前に現れた「本職の上司」……。
なろう史上、最も空気の読めないタイミングでの乱入。絶体絶命のルークスですが、果たしてこの「不敬罪」の塊のような状況を、どうやって『農民的解決』に導くのでしょうか?
「フィオナ、マジで終わった(笑)」「騎士団長の顔芸が見たい!」と思ってくださった方は、ぜひ【評価・感想・ブックマーク】をお願いします!
皆様の応援が、ルークスの「言い訳の創造力」を加速させます!
次回、第二百二十一話――「騎士団長殿、まずは一口食べてから」。お楽しみに!
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