ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん

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第二百四十八話:春の訪れその2。タケノコ掘りと、ポイント製・専用鍬の威力

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 山菜の天ぷらで春の苦味を堪能してから数日後。
 リーフ村の雪は完全に消え、大地は若草色に染まり始めていた。
 だが、俺、ルークス・グルトの懐事情(ポイント残高)は、冬の間の散財によって「厳冬期」を迎えていた。

「……まずい。おせちの重箱(3万pt)、餅米(5千pt)、天ぷら鍋セット(1.4万pt)……。調子に乗って使いすぎた。残高が心許ない」

 リビングでシステムウィンドウを開いた俺は、減りゆく数字を見て頭を抱えた。
 だが、嘆いていてもポイントは増えない。農家の基本は「投資」と「回収」だ。

「よし、出荷だ! 冬の間に熟成させておいた『雪室リンゴ』と、先日採った『フキノトウ』の余りをシステムに売却する!」

 俺は保冷コンテナから在庫を取り出し、納品ボックスへと放り込んだ。

 ――チャリン、チャリン、チャララララッ♪

 軽快な音が連続して響く。
 【雪室熟成・聖樹リンゴ(糖度20度超)×50個:納品完了】
 【獲得ポイント:25,000 pt】

「よし! やはり季節外れの完熟フルーツはレートが高い! これで軍資金は確保した。……ならば、次なる『春の宝』を掘りに行くぞ!」

 俺は復活したポイント残高を背に、意気揚々と裏山へ向かった。
 ターゲットは、春の味覚の王様『タケノコ』だ。

 ◇

 裏山の竹林。そこは、静寂の中に鳥のさえずりが響く癒やしの空間……ではない。
 俺にとっては、地中に埋まった金塊を探し当てる「鉱山」だ。

「……タケノコは鮮度が命だ。掘り出した瞬間からアク(エグみ)が出始める。家に帰ってすぐに茹でられるよう、すでに大鍋の湯は沸かしてある。……ここからはタイムアタックだ」

 俺は独り言を呟きながら、竹林の中をすり足で慎重に歩き回っていた。
 隣には、地面を嗅ぎ回るフェンと、カゴを持ったフィオナがいる。

『主よ、モグラか? なぜさっきから地面を睨みつけている? 獲物は地上にはいないぞ』

「甘いな、フェン。獲物は『下』だ。……足の裏の感覚を信じろ。土がわずかに盛り上がっている場所……枯れ葉が不自然に浮き上がり、地面に微細なひび割れが走っている場所……そこに『春』が埋まっているんだ」

 俺は神経を研ぎ澄ませ、一箇所で足を止めた。
 靴底に伝わる、わずかな違和感。
 俺は靴先でそっと土を払った。
 そこには、ほんの少しだけ顔を出した、黄色味を帯びた茶色の毛羽立った先端があった。

「……いたぞ! まだ頭を出しきっていない、日光を浴びていない『白子(シロコ)』と呼ばれる極上品だ!」

 俺は歓喜したが、すぐに真顔に戻った。ここからが本当の戦いだ。
 竹の根は複雑に絡み合い、コンクリートのように硬い。普通の農具では刃が欠けるか、柄が折れて使い物にならない。

「普通のスコップじゃ歯が立たない。……ここだ。ここでポイントを使う! 良い道具は、良い作物を呼ぶ!」

 俺は虚空に指を滑らせ、システムウィンドウを展開した。
 狙うは、日本の鍛冶職人が打った、タケノコのためだけの凶器。

『本職用・タケノコ掘り専用鍬(唐鍬・総鋼造り)』:3,500 pt
『新鮮・生米ぬか(アク抜き用・赤唐辛子入り)』:500 pt

「購入(ポチッ)!」

 ――チャリン♪

 重厚な課金音と共に、俺の手元にずっしりと重い、黒鉄の鍬(くわ)が実体化した。
 柄は太い樫(かし)の木、刃は分厚く鋭利な鋼。その重量感だけで、こいつが本物だと分かる。
 3,500ポイントの投資だが、このタケノコを出荷すればお釣りが来るはずだ。

「よし、いくぞ! ……せいっ!」

 俺は鍬を高く振り上げ、タケノコの周囲に突き立てた。

 ――ザクッ!! ガリッ!

 小気味よい音。鋼の刃が、石のように硬い土と、張り巡らされた細い根をバターのように切断していく。
 周囲の土を取り除き、本体の曲線が見えてきた。
 太い。そして白い。
 俺はタケノコの根元にある赤い斑点(根っこ)を見極め、そこへ鍬の刃を渾身の力で、正確に打ち込んだ。

 ――メキョッ!! ……ボコッ!

 地中の繊維が断ち切られる鈍く重い音と共に、巨大なタケノコがゴロリと掘り出された。
 ずんぐりむっくりとした、釣鐘型の美しいフォルム。皮は湿り気を帯びて艶やかだ。

「獲ったどぉぉぉ! ……よし、感傷に浸っている暇はない! 次だ! どんどん掘るぞ! 半分は俺たちが食うが、残りの半分はシステムに出荷してポイントに変える!」

 鍬の性能は圧倒的だった。
 俺たちは一時間ほどで十本以上の極上タケノコを掘り出し、カゴに放り込んで全力疾走で家へと戻った。

 ◇

 キッチンに飛び込んだ俺は、息つく暇もなくタケノコの穂先を斜めに切り落とし、皮に縦に一本切り込みを入れた。
 そして、沸騰している寸胴鍋に、ポイント交換した『生米ぬか』と赤唐辛子を投入し、タケノコを沈めた。

 グツグツグツ……。

 数十分後。
 キッチンには、トウモロコシを茹でた時のような、独特の「甘く、どこか野暮ったい穀物の香り」が充満していた。
 これがアク(シュウ酸)が抜け、旨味が凝縮された証拠だ。

 そのまま茹で汁の中でゆっくりと冷まし、皮を剥く。
 現れたのは、象牙色に輝く、瑞々しい柔肌。

「……美しい。これが春の宝石だ。……システム、この中から形の良い五本を『出荷』!」

 俺が操作すると、茹で上がったタケノコの一部が光となって消えた。

 【初物・極上タケノコ(アク抜き済み)×5本:納品完了】
 【獲得ポイント:15,000 pt】

「よし! 道具代の元は取れた上に、大幅な黒字だ! これが『わらしべ長者』的農業経営だ! ……さあ、残りは俺たちの胃袋に入れるぞ!」

 俺は再びシステムウィンドウを開き、最後の仕上げにかかった。
 タケノコには、最高の相棒が必要だ。

『鳴門産・肉厚塩蔵ワカメ(一等検)』:1,200 pt
『香り山椒・木の芽(パック入り)』:800 pt

 まずは『若竹煮(わかたけに)』だ。
 カツオと昆布の上品な白だしで、タケノコをコトコトと煮含める。
 そこに、水で戻した鮮やかな緑色の肉厚ワカメをサッとくぐらせる。
 器に盛り付け、仕上げに、掌に一枚の『木の芽』を乗せる。

 ――パンッ!

 俺は両手で葉を叩いた。
 その瞬間、葉の細胞が壊れ、爽やかでスパイシーな、柑橘にも似た山椒の香りが弾け飛び、キッチンを満たした。

「……なにこの葉っぱ? 叩いた瞬間、すごい良い匂い! 森の香水みたい!」

 フィオナが目を輝かせる。俺は小鉢を差し出した。

「食ってみろ。春の出会いものだ」

 フィオナがタケノコとワカメを一緒に口に運ぶ。

 ――シャキッ、コリッ……トロッ。

「……んん~~っ! 食感が楽しい! タケノコの心地よい歯ごたえと、ワカメのヌルっとしたトロトロ感が……口の中で混ざり合う! そして、噛むたびにジュワッと溢れるお出汁……。この葉っぱ(木の芽)のピリッとした香りが、後味をすごく上品にしてる! いくらでも入るわ!」

 ◇

 そして、メインディッシュは『タケノコご飯』だ。
 土鍋の蓋を開ける。

 ――ボワァァァ……ッ。

 立ち上る真っ白な湯気。その向こうに見えるのは、醤油と出汁を吸って茶色く色づいたご飯と、たっぷりのタケノコ、そして細切りの薄揚げ(油揚げ)。
 しゃもじを入れ、底の方からかき混ぜる。

 ガリッ……カリカリッ……。

 鍋肌から剥がれる音。

「……お焦げだ。鍋肌に張り付いた、醤油の焦げた部分だ。ここが一番美味い」

『主よ! その黒くて硬い部分は我のだ! 一番美味いところだぞ! 寄越せ!』
「ちょっとフェン! あんたさっき若竹煮をボウル一杯食べたでしょ! お焦げは私のよ!」

 フェンとフィオナがお焦げを巡って小競り合いを始める平和な喧嘩。
 その時。
 ドンドンドン! と玄関が激しく叩かれた。

「この土の香りと、出汁の甘い香り……! そして、醤油が焦げる香ばしい匂い! まさか、地面の下の宝か!?」

 ガルド公爵だ。
 やはりこの男、旬の食材が食卓に並ぶ瞬間を予知する能力でもあるのだろうか。

「……ルークス殿! タケノコか! しかも、このえぐみのなさ……掘りたてだな!?」

 公爵は席に着くなり、若竹煮の吸い地(スープ)を飲み干し、陶酔の表情を浮かべた。

「あぁ……。胃が洗われるようだ。……シャキシャキとした歯ごたえ。春が来たなぁ……」

 そして、山盛りのタケノコご飯を頬張る。

 シャキッ、ハフハフ。
 お焦げの香ばしさと、タケノコの甘みが口いっぱいに広がる。

「……ルークス殿。焼きタケノコはないか? 七輪で、皮ごと蒸し焼きにして、醤油を垂らしたやつだ。……あれがあれば、私はここで一生暮らせる気がする」
「ありますよ。今、七輪で焼いてます。……もちろん、熱燗もつけますよ」

 俺は七輪に乗せたタケノコに、醤油を垂らした。
 ジュワッという音と共に、焦げた醤油の香りが部屋を満たす。
 公爵の手が、自然と熱燗の徳利へと伸びていく。

「……タケノコは鮮度が命。掘る前から、そして『道具選び』から、勝負は始まっていたんですよ」

 俺は木の芽の香りが漂うリビングで、稼いだポイント残高を確認しながら、春の恵みを噛み締めた。
 良い道具で、良いものを食い、さらに稼ぐ。
 リーフ村の春は、こうして美味しく、そして経済的にも豊かに深まっていくのだった。

---


**【読者へのメッセージ】**
いつもご愛読ありがとうございます!
第二百四十八話、いかがでしたでしょうか?
タケノコ掘りは重労働ですが、ポイントで買った「専用鍬」があれば百人力です。
そして、獲れたてのアク抜きタケノコを出荷してポイントを稼ぐ。これぞ農家の錬金術。
「若竹煮」の木の芽の香りと、「タケノコご飯」のお焦げは、春の二大巨頭ですね。
公爵も匂いを嗅ぎつけてきましたが、今回はしっかりと「投資回収」ができたので、ルークスも笑顔でおもてなしできたようです。
「タケノコご飯食べたい!」「お焦げは正義!」と思ってくださった方は、ぜひ【評価・感想・ブックマーク】をお願いします!
皆様の応援が、ルークスの掘る速度を上げます!
次回、第二百四十九話――「春の洋食祭り。新タマネギと、とろけるオニオングラタンスープ」。お楽しみに!
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