現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん

文字の大きさ
19 / 241

第19話:神の設計図と、新たな魔法

しおりを挟む

母が全快し、穏やかで幸福な季節が、ライナス男爵領を包んでいた。
アークイモの初収穫は大成功を収め、村の食糧庫は史上初めて満たされた。村の冬の姿は、根本から変わったのだ。アーク自身も、この平和な時間の中で、心身ともに大きく成長していた。

だが、アークは知っていた。この幸福が、いかに脆い土台の上に成り立っているかを。
森の奥深くで、母なる世界樹が、今も死の瘴気に蝕まれ、悲鳴を上げている。
約束を、果たさなければならない。
その決意を胸に、アークは、父と、彼が最も信頼する仲間たちを、領主の書斎に集めた。

「みんな、集まってくれてありがとう」

アークは、領主が使う巨大なオーク材の机の上に、一枚の巨大な羊皮紙を広げた。
そこに描かれていたのは、森の境界線に沿って、まるで巨大な蛇のように描かれた、無数の木々からなる長大な壁の設計図だった。

「僕が考えた、『緑の防壁』の設計図だよ」

アークは、瀕死の世界樹を救うため、森を蝕む瘴気を浄化し、押し返す「生きた壁」を創り出す、という途方もない計画を説明した。
書斎は、水を打ったように静まり返った。
ダグも、ローランも、その計画のあまりの壮大さに、「不可能だ」「数百年はかかる」と、現実的な反論を口にする。

だが、アークは、その反応を予測していたかのように、静かに微笑んだ。
「うん、知ってるよ。今までのやり方じゃ、不可能だよね。だから、やり方そのものを、変えるんだ」

アークに導かれ、一行は屋敷の裏庭へと向かった。
アークは、仲間たちの前で、二つの種を掌に置いた。
一つは、強靭だが成長の遅い、樫の木の種。
もう一つは、成長は速いが脆く、すぐに枯れる、野生の蔓植物の種。

アークは、その二つの種を、両手でそっと包み込んだ。
彼の体から、これまでとは明らかに質の違う、より複雑で、より高密度な魔力の光が溢れ出す。

それは、祈りによる奇跡ではない。あまりにも高度な、神の領域の**『設計』**だった。
アークの魔法は、二つの生命が持つ遺伝子情報という名の**「ソースコード」**を解きほぐし、不要な弱点を削除し、長所だけを組み合わせて、全く新しい一つの生命として**「再構築(コンパイル)」**する。
スキルツリー第二部:青年期編へと至る、新たな魔法――**『種子合成』**。

光が収まった時、アークの手には、淡い光を放つ不思議な種が握られていた。
「……これが、僕の答えだよ」
アークは、その新しい種を、足元の土にそっと植えた。
そして、その地面に、再び両手をかざす。
「**『植物育成(中)』**!!」

今までとは比較にならないほどの、強大な生命エネルギーが、アークの手から大地へと注ぎ込まれる。
地面が、ゴゴゴゴ、と地響きを立てて盛り上がった。
次の瞬間、土を突き破って力強い芽が天へと突き出し、それは常識ではありえない速度で成長を始めた。
みるみるうちに、それは、わずか数分で、アークの背丈を遥かに超える、五メートルほどの、見事な一本の若木へと姿を変えた。その葉は、瘴気を浄化する力を持つ証であるかのように、聖なる光を帯びて、キラキラと輝いていた。

目の前の、あまりにも冒涜的で、あまりにも美しい奇跡を前にして、大人たちは、完全に沈黙していた。
最初に、その静寂を破ったのは、ダグだった。
彼は、ゆっくりとアークの前に進み出ると、その場に、深く、膝をついた。
「……俺は、命なき鉄を打つことしか知らなかった。だが、あんたは……生命そのものを、打ち上げるのか」
「アーク様。俺の槌は、あなたのものです。この命、燃え-尽きるまで、あなたの『設計図』を、この世界に打ち出すための、**鉄床(かなとこ)**となります」

続いて、ローランが、ゆっくりと口を開いた。
「……どうやら、私の引退は、もう少し先になりそうだな。これほどまでに壮大で、胸が沸き立つ戦は、生まれて初めてだ」
老騎士は、その背筋を伸ばし、客人としてではなく、一人の騎士として、主君に誓うように、深く頭を垂れた。彼が次に紡ぐ言葉は、もはや子供に向けるものではない。
「我が知恵と、この剣、全てをあなたに捧げます。――**我が君(マイロード)**」

そして、最後に、父が、アークの前に立った。
彼は、膝をつくことも、頭を下げることもしなかった。
ただ、一人の領主として、息子であり、そして、自分を超える後継者の、その小さな両肩に、大きな手を置いた。
その声には、領主としての、揺るぎない覚悟が宿っていた。
「行け、アーク。お前の信じる道を。これより、**ライナス男爵家の全ては、お前の盾となり、剣となる**」
それは、父から子への激励ではない。現領主から、次代の、そして自分を超える領主への、事実上の**「全権委任」**。父が、息子を、ライナス家の未来そのものであると、完全に認めた瞬間だった。

ギデオンは、その光景を、ただ涙を流しながら見守っていた。
アークは、仲間たちの、そして父の、あまりにも温かく、そして、あまりにも重い信頼を、その小さな身体で、しかし、まっすぐに受け止めた。
彼は、自らが創り出した奇跡の若木を見上げた。
「この木を、『聖浄樹(せいじょうじゅ)』と名付けよう」

愛するたった一人を救うための、小さな冒険は終わった。
そして今、名も知らぬ無数の命を救うための、あまりにも壮大な『設計』が、始まる。

***

最後までお読みいただき、ありがとうございます。面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価、フォローをいただけますと、執筆の励みになります。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

攻略. 解析. 分離. 制作. が出来る鑑定って何ですか?

mabu
ファンタジー
平民レベルの鑑定持ちと婚約破棄されたらスキルがチート化しました。 乙ゲー攻略?製産チートの成り上がり?いくらチートでもソレは無理なんじゃないでしょうか? 前世の記憶とかまで分かるって神スキルですか?

処理中です...