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第148話:創造主の目覚めと、陽だまりの凱歌
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#### 魂の帰還
静寂。
兄の魂からの呼びかけと、遥か王都から届けられた少女の純粋な感謝の光。二つの、あまりにも温かい奇跡に応えるかのように、眠れる創造主の魂は、永い、永い夢の旅路の、その終着点へとたどり着こうとしていた。
アークの意識は、どこまでも広がる、温かい光の海に漂っていた。
遠くから、懐かしい音が聞こえる。
母が歌ってくれた、不器用な子守唄。
父の、無骨で、けれど優しい低い声。
仲間たちが、腹の底から笑い合う、祝宴の賑わい。
そして何より、自分を「英雄」と呼び、その不在の世界を命がけで守り抜いてくれた、ただ一人の兄の、力強い魂の鼓動。
それら全てが、心地よい音楽となって、彼の魂を、現実という名の岸辺へと、優しく、優しく導いていく。
最後に聞こえたのは、最も懐かしく、最も信頼する相棒の、喜びと安堵に満ちた「きゅぅん」という魂の鳴き声。それが、最後の扉を開く、温かい鍵となった。
アークは、ゆっくりと、その重い瞼を開いた。
最初に映ったのは、ぼんやりと霞む、見慣れた自室の木目の天井。次に、心配そうに、そして、これ以上ないほどの愛情を込めて自分を覗き込む、兄アルフォンスの、涙に濡れた顔。その足元で、喜びのあまり全身の毛を逆立たせ、震えながらこちらを見上げる、愛しい相棒、ウルの姿だった。
体が、鉛のように重い。だが、五感は、かつてないほどに研ぎ澄まされていた。
窓の外から聞こえてくる、活気に満ちた、しかし、どこまでも穏やかな街の音。自分が眠る前にはなかった、エルフたちの澄んだ歌声が、子供たちの笑い声に混じっている。
セーラの厨房から漂う、醤油と味噌の、懐かしくも、より深みを増した香ばしい匂い。
自分が眠っている間に、世界が、自分が夢見た以上に、温かい場所になっていることを、彼は、その魂で理解した。
「……アル……兄さん……?」
やっとの思いで紡ぎ出した声は、ひどく掠れていた。
その声を聞いた瞬間、アルフォンスの、強靭な精神で張り詰めていた緊張の糸が、ぷつりと切れた。彼は、言葉にならない嗚咽を漏らしながら、弟の、温かい手を、震える両手で固く、固く握りしめた。
「……ああ。ああ……!おかえり、アーク。……本当に、よく、帰ってきた……!」
その手から伝わる、兄の、あまりにも温かい魂の感触に、アークは、自らが、本当に帰ってきたのだということを、ようやく実感した。
#### 仲間たちとの再会
兄の、喜びと安堵に満ちた呼びかけで、仲間たちが、次々と部屋へと駆けつけてきた。
「アーク!」「坊ちゃま!」「アーク様!」
父と母は、ただ涙を流しながら、痩せた息子の体を固く抱きしめた。
「てめぇ、この寝坊助が!どれだけ心配させやがんだ!」
ダグが、いつものように悪態をつきながらも、その赤く潤んだ目を、必死にごしごしと擦っている。ミカエラは、胸の前で手を組み、その奇跡に、静かな感謝の祈りを捧げていた。ローランは、「ふむ、ようやくお目覚めですかな、若き創造主殿」と軽口を叩きつつも、その声が隠しきれぬほど震えていた。
アークは、一人ひとりの顔を、ゆっくりと、目に焼き付けた。彼の、眠る前は雪のように真っ白だった髪は、仲間たちの想いを受け取った証として、朝日を思わせる美しい金色のメッシュが混じり合い、光の加減で神秘的にきらめいている。そして、その瞳は、森の深淵を思わせる深緑と、世界樹の叡智を宿した白銀が混じり合う、唯一無二の輝きを放っていた。
眠る前の記憶と比べ、誰もが、逞しく、自信に満ちた、素晴らしい顔つきになっている。特に、目の前で、子供のように涙を流す兄アルフォンス。その魂からは、かつて彼を蝕んでいた劣等感の影など微塵も消え去り、代わりに、巨大な陽だまりそのもののような、絶対的な王の風格と、揺るぎない自己肯定の輝きが放たれていた。
彼は、自分が眠っていた時間の長さを悟り、そして、その間に、兄と仲間たちが成し遂げたことの、あまりにも偉大な軌跡に、ただただ胸を熱くするのだった。
#### 新しい世界の、最初の散歩
数日後。
まだ完全ではないものの、兄の肩を借り、自らの足で歩けるまでに回復したアークは、初めて、生まれ変わった『陽だまりの街』を、その目にすることとなった。
彼が目にするのは、自らが夢見た理想を、遥かに超える、温かい光景だった。人間とエルフの子供たちが、同じ教室で、フィンから新しい歴史を学んでいるアカデミー。西方の職人と南方の職人が、同じ工房で、互いの国の言葉で罵り合いながらも、最高の笑顔で一つのものを創り上げている『共同工房』。印刷されたばかりの本を、街角の親子が、目を輝かせて共に読んでいる、穏やかな昼下がり。
彼は、ただ、言葉もなく、その全てを目に焼き付けた。自分が創ったのは、ただの『種』だった。その種を、兄と仲間たちが、これほど見事な『森』へと育て上げてくれた。その事実に、彼の魂は、創造主としてではなく、ただ一人の人間として、深く、深く打ち震えていた。
彼は、街を見下ろす丘の上、あの、最初に聖浄樹を植えた場所で、兄に向き直った。
「……すごいよ、兄さん。僕が夢見た世界より、ずっと、ずっと温かいじゃないか。こんなにも、たくさんの笑顔で満ちているなんて」
その、あまりにも真っ直ぐな、弟からの最大級の賛辞。
アルフォンスは、照れくさそうに頭を掻きながら、これまでで最高の笑顔で応えた。
「当たり前だ。お前が安心してぐっすり眠っていられるように、俺たちが創った世界だからな」
二人の兄弟は、肩を並べ、自らが創り、そして守り抜いた、陽だまりの街並みを、ただ、静かに見つめていた。
#### 新たなる時代の、最初の設計図
領主の館に戻ったアーク。彼の自室の机の上には、アルフォンスたちが頭を悩ませていた、『偽りの陽だまり』問題に関する、ディアナからの詳細な報告書が置かれていた。
アークは、その報告書を一瞥すると、まるで、最高の遊び道具を与えられた子供のように、悪戯っぽく笑った。
そして、一枚の、真っ白な『ライナス和紙』を取り出し、数ヶ月ぶりに、その手に、愛用の羽根ペンを握った。
兄が創り上げた、この温かい世界。その世界が直面する、新たなる課題。それを解決するための、新しい『幸福』の設計図を描くこと。それこそが、目覚めた創造主の、最初の仕事。
彼の隣には、もはやただの兄ではない、対等なパートナーとして、頼れる盟主アルフォンスが、その設計図を、興味深げに覗き込んでいる。
「さあ、始めようか、兄さん。二人で、一緒に」
アークの、深緑と白銀が混じり合う瞳が、再び、世界の未来を見通す、創造主の輝きを取り戻した。
「――この、新しい時代の、最初の設計図を」
創造主と、守護者。二人の英雄が、共にペンを取る時、陽だまりの物語は、新たなる、無限の可能性を秘めたページを、静かにめくったのだった。
***
最後までお読みいただき、ありがとうございます。面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価、フォローをいただけますと、執筆の励みになります。
静寂。
兄の魂からの呼びかけと、遥か王都から届けられた少女の純粋な感謝の光。二つの、あまりにも温かい奇跡に応えるかのように、眠れる創造主の魂は、永い、永い夢の旅路の、その終着点へとたどり着こうとしていた。
アークの意識は、どこまでも広がる、温かい光の海に漂っていた。
遠くから、懐かしい音が聞こえる。
母が歌ってくれた、不器用な子守唄。
父の、無骨で、けれど優しい低い声。
仲間たちが、腹の底から笑い合う、祝宴の賑わい。
そして何より、自分を「英雄」と呼び、その不在の世界を命がけで守り抜いてくれた、ただ一人の兄の、力強い魂の鼓動。
それら全てが、心地よい音楽となって、彼の魂を、現実という名の岸辺へと、優しく、優しく導いていく。
最後に聞こえたのは、最も懐かしく、最も信頼する相棒の、喜びと安堵に満ちた「きゅぅん」という魂の鳴き声。それが、最後の扉を開く、温かい鍵となった。
アークは、ゆっくりと、その重い瞼を開いた。
最初に映ったのは、ぼんやりと霞む、見慣れた自室の木目の天井。次に、心配そうに、そして、これ以上ないほどの愛情を込めて自分を覗き込む、兄アルフォンスの、涙に濡れた顔。その足元で、喜びのあまり全身の毛を逆立たせ、震えながらこちらを見上げる、愛しい相棒、ウルの姿だった。
体が、鉛のように重い。だが、五感は、かつてないほどに研ぎ澄まされていた。
窓の外から聞こえてくる、活気に満ちた、しかし、どこまでも穏やかな街の音。自分が眠る前にはなかった、エルフたちの澄んだ歌声が、子供たちの笑い声に混じっている。
セーラの厨房から漂う、醤油と味噌の、懐かしくも、より深みを増した香ばしい匂い。
自分が眠っている間に、世界が、自分が夢見た以上に、温かい場所になっていることを、彼は、その魂で理解した。
「……アル……兄さん……?」
やっとの思いで紡ぎ出した声は、ひどく掠れていた。
その声を聞いた瞬間、アルフォンスの、強靭な精神で張り詰めていた緊張の糸が、ぷつりと切れた。彼は、言葉にならない嗚咽を漏らしながら、弟の、温かい手を、震える両手で固く、固く握りしめた。
「……ああ。ああ……!おかえり、アーク。……本当に、よく、帰ってきた……!」
その手から伝わる、兄の、あまりにも温かい魂の感触に、アークは、自らが、本当に帰ってきたのだということを、ようやく実感した。
#### 仲間たちとの再会
兄の、喜びと安堵に満ちた呼びかけで、仲間たちが、次々と部屋へと駆けつけてきた。
「アーク!」「坊ちゃま!」「アーク様!」
父と母は、ただ涙を流しながら、痩せた息子の体を固く抱きしめた。
「てめぇ、この寝坊助が!どれだけ心配させやがんだ!」
ダグが、いつものように悪態をつきながらも、その赤く潤んだ目を、必死にごしごしと擦っている。ミカエラは、胸の前で手を組み、その奇跡に、静かな感謝の祈りを捧げていた。ローランは、「ふむ、ようやくお目覚めですかな、若き創造主殿」と軽口を叩きつつも、その声が隠しきれぬほど震えていた。
アークは、一人ひとりの顔を、ゆっくりと、目に焼き付けた。彼の、眠る前は雪のように真っ白だった髪は、仲間たちの想いを受け取った証として、朝日を思わせる美しい金色のメッシュが混じり合い、光の加減で神秘的にきらめいている。そして、その瞳は、森の深淵を思わせる深緑と、世界樹の叡智を宿した白銀が混じり合う、唯一無二の輝きを放っていた。
眠る前の記憶と比べ、誰もが、逞しく、自信に満ちた、素晴らしい顔つきになっている。特に、目の前で、子供のように涙を流す兄アルフォンス。その魂からは、かつて彼を蝕んでいた劣等感の影など微塵も消え去り、代わりに、巨大な陽だまりそのもののような、絶対的な王の風格と、揺るぎない自己肯定の輝きが放たれていた。
彼は、自分が眠っていた時間の長さを悟り、そして、その間に、兄と仲間たちが成し遂げたことの、あまりにも偉大な軌跡に、ただただ胸を熱くするのだった。
#### 新しい世界の、最初の散歩
数日後。
まだ完全ではないものの、兄の肩を借り、自らの足で歩けるまでに回復したアークは、初めて、生まれ変わった『陽だまりの街』を、その目にすることとなった。
彼が目にするのは、自らが夢見た理想を、遥かに超える、温かい光景だった。人間とエルフの子供たちが、同じ教室で、フィンから新しい歴史を学んでいるアカデミー。西方の職人と南方の職人が、同じ工房で、互いの国の言葉で罵り合いながらも、最高の笑顔で一つのものを創り上げている『共同工房』。印刷されたばかりの本を、街角の親子が、目を輝かせて共に読んでいる、穏やかな昼下がり。
彼は、ただ、言葉もなく、その全てを目に焼き付けた。自分が創ったのは、ただの『種』だった。その種を、兄と仲間たちが、これほど見事な『森』へと育て上げてくれた。その事実に、彼の魂は、創造主としてではなく、ただ一人の人間として、深く、深く打ち震えていた。
彼は、街を見下ろす丘の上、あの、最初に聖浄樹を植えた場所で、兄に向き直った。
「……すごいよ、兄さん。僕が夢見た世界より、ずっと、ずっと温かいじゃないか。こんなにも、たくさんの笑顔で満ちているなんて」
その、あまりにも真っ直ぐな、弟からの最大級の賛辞。
アルフォンスは、照れくさそうに頭を掻きながら、これまでで最高の笑顔で応えた。
「当たり前だ。お前が安心してぐっすり眠っていられるように、俺たちが創った世界だからな」
二人の兄弟は、肩を並べ、自らが創り、そして守り抜いた、陽だまりの街並みを、ただ、静かに見つめていた。
#### 新たなる時代の、最初の設計図
領主の館に戻ったアーク。彼の自室の机の上には、アルフォンスたちが頭を悩ませていた、『偽りの陽だまり』問題に関する、ディアナからの詳細な報告書が置かれていた。
アークは、その報告書を一瞥すると、まるで、最高の遊び道具を与えられた子供のように、悪戯っぽく笑った。
そして、一枚の、真っ白な『ライナス和紙』を取り出し、数ヶ月ぶりに、その手に、愛用の羽根ペンを握った。
兄が創り上げた、この温かい世界。その世界が直面する、新たなる課題。それを解決するための、新しい『幸福』の設計図を描くこと。それこそが、目覚めた創造主の、最初の仕事。
彼の隣には、もはやただの兄ではない、対等なパートナーとして、頼れる盟主アルフォンスが、その設計図を、興味深げに覗き込んでいる。
「さあ、始めようか、兄さん。二人で、一緒に」
アークの、深緑と白銀が混じり合う瞳が、再び、世界の未来を見通す、創造主の輝きを取り戻した。
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