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第223話:星屑の庭師と、暴走するカボチャ
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共生の庭、着工
森の異変が収束してから数日後。
森と遺跡の境界線に広がる緩衝地帯は、これまでにない活気と、少しばかり奇妙な光景に包まれていた。アークが提案した『共生の庭』建設プロジェクトが、ついに動き出したのだ。
「オーライ、オーライ! そこだ、下ろせ!」
ダグの号令と共に、クレーンが巨大な石材を慎重に地面へと下ろす。そのクレーンを操作しているのは、陽だまりの職人ではなく、なんと星屑の民の重機型ユニットだった。彼らはアークたちの指示に従い、驚くべき精密さと静寂さで整地作業を行っている。
「ふむ……。彼らの『反重力リフト』とやらは、実に興味深い。魔力消費が極端に少ない上に、騒音公害も皆無とは」
賢塔のアズライトが、音もなく宙に浮く数トンの資材を眺めながら、興奮気味にメモを取る。
一方、その足元では、相棒のウルが、ふわふわと浮遊する小石を不思議そうに見つめ、猫じゃらしを追う猫のように「きゅいっ!」と飛びついては空振りし、可愛らしく転がっていた。
「だが、土の扱いは素人だな。見てみろ、あのふかふかの腐葉土を、コンクリートみたいに押し固めちまってる」
南方の老農夫バルドが、苦笑しながら首を振った。「土は呼吸させなきゃいけねぇんだがな」
####
超効率的農業?
その一角で、対話を司る『エコー』が、リーリエやフィンたちから「農業」のレクチャーを受けていた。
「いいかい、エコーさん。種を植えたら、優しく土を被せて、お水をあげるの。あとは、お日様が育ててくれるのを待つのよ」
リーリエが、カボチャの種を植えながら丁寧に教える。彼女の手つきは、弟を慈しむように優しい。
エコーは、その蒼い複眼を明滅させ、高速で計算を行っていた。
『……待ツ? 非効率デアル。光合成ト水分補給ノ・プロセスヲ・最適化スレバ、成長速度ハ・1200倍ニ・向上可能』
「え? せ、1200倍?」
フィンとリーリエが目を白黒させる間に、エコーは懐(のような収納ハッチ)から、青白く発光する液体が入った試験管を取り出した。
『コレハ、我ラノ故郷ノ「超・活性化液」。植物ノ・細胞分裂ヲ・極限マデ・加速サセル。…時間ハ、資源ナリ』
「お、おい、ちょっと待て! なんか嫌な予感がするぞ!」
巡回に来ていたアークが、その異質な魔力の揺らぎを感じて慌てて止めようとしたが、遅かった。
エコーは、その液体を一滴、植えたばかりのカボチャの種に垂らしてしまったのだ。
####
暴走する緑
ドクン……ッ!
地面が、まるで巨大な心臓になったかのような、不穏な鼓動を打った。
「な、なんだ!?」
作業をしていたアルフォンスが、反射的に斧を構えて振り返る。
次の瞬間。
**ボフンッ!!**という爆発音と共に、土の中から緑色の蔦が、まるで解き放たれた大蛇のように飛び出した。
「わあっ!?」
蔦は、見る見るうちに太くなり、周囲の柵をなぎ倒し、さらに恐ろしい速度で実をつけ始めた。
カボチャだ。だが、普通ではない。
小山ほどもある巨大なカボチャが、メキメキと音を立てて膨れ上がっていく。
「きゅいーっ!!(おっきいー!!)」
ウルが目を輝かせて叫ぶが、事態はそれどころではない。
急速成長したカボチャは、その重みで蔦からブチンッ!と千切れ、なんと坂道を転がり始めたのだ。
「うわあああ! 逃げろぉぉぉ!」
「カボチャだ! 巨大カボチャの襲来だ!」
建設現場は、阿鼻叫喚の巷と化した。
ゴロン、ゴロンと地響きを立てて転がる巨大カボチャは、逃げ惑うダグやグンナルを追いかけ回し、アズライトが展開した魔力障壁をボヨンッと弾き飛ばし、最終的に建設予定地のど真ん中にあった岩に激突して、**ズドン!**と鎮座した。
####
待つことの味
もうもうと上がる砂煙が晴れた後。
呆然とする一同の中心で、エコーが困惑したように明滅していた。
『……計算外。コノ星ノ植物ハ、エネルギー効率ガ・良スギル……。予測サイズノ・50倍……』
アークは、苦笑しながらエコーの冷たい肩に手を置いた。
「エコー。君たちの技術はすごいよ。でもね、この星の植物は、急がせすぎると『美味しく』ならないんだ」
アークは、割れた巨大カボチャの一部を手に取り、その果肉をみんなに見せた。中身はスカスカで、水っぽく、色も薄い。味見をしたウルが、「ペッ、ペッ」と舌を出して首を振るほどだ。
「時間をかけて、太陽の光を浴びて、夜の冷たさに耐えて……そうやってゆっくり育つことで、甘みや栄養がギュッと詰まっていくんだ。それが、この星の『理』なんだよ」
リーリエも、泥だらけの顔を拭いながら優しく頷く。
「待っている時間は、無駄じゃないの。美味しくなあれ、って祈る時間なのよ。その『想い』が、一番の栄養になるんです」
エコーは、スカスカのカボチャを見つめ、そしてアークたちの温かい顔を見た。
『……祈ル、時間。……想イガ、味ヲ、育テル……』
彼の蒼い光が、ゆっくりと、新しいデータをインストールするかのように点滅した。
『……学習シタ。効率ダケガ、全テデハナイ。……農業、奥ガ深イ。ソシテ、コノ星ノ生物ハ、不思議ダ』
####
夕暮れのスープ
その日の夕食。
現場には、カボチャの甘い香りが漂っていた。
あの巨大カボチャは本来味気ない失敗作だったが、料理長セーラが「もったいない!」と腕まくりをし、大量の香辛料と濃厚なミルク、そして聖浄樹の蜂蜜でじっくりと煮込み、なんとか食べられる極上のポタージュに変身させてくれたのだ。
「へっ、まあ、腹の足しにはなるな」
「次は、もう少し『手加減』してくれよな、星の旦那」
職人たちと星屑の民が、一つの巨大な鍋を囲み、笑い合う。エコーもまた、アークの見よう見まねでスプーンを持ち、そのスープを口(摂取口)へと運んだ。
『……解析。……温カイ。コレガ、「待ツ」コトノ、味……』
アークは、スープを啜りながら、建設中の庭を見渡した。
そこには、最先端の星屑の技術と、泥臭い人の知恵が、不器用ながらも混ざり合い始めていた。失敗し、笑い合い、そして共に食べる。それこそが、共生の第一歩だ。
(前途多難だけど……きっと、面白い庭になるね)
膝の上では、満腹になったウルが、巨大カボチャの種を枕にして、幸せそうな寝息を立てていた。アークは、その温かい背中を優しく撫でながら、星空の下で静かに微笑んだ。
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