異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

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第16話 初めての“飲む”お菓子と、神様の飲み物 (16-3)

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「さあ、リリィアちゃん、ベアトリスさん。熱いうちに、どうぞ」

俺は、出来立てのホットチョコレートを、二つのマグカップに注ぎ、二人の前にそっと置いた。
湯気と共に立ち上る、甘く、芳醇な香り。それは、ただそこに存在するだけで、部屋の温度を、二、三度上げたかのような、温かいオーラを放っていた。

「……これが、あのお薬から……?」
ベアトリスが、信じられないといった顔で、カップの中の液体を見つめている。

リリィアは、待ちきれないといった様子で、カップを両手で包み込むように持つと、ふうふうと息を吹きかけ、そして、こくりと一口、飲んだ。

その刹那。
リリィアの頬が、ぽっと、夕焼けのように赤く染まった。
そして、その瞳は、うっとりと、とろけるような光を宿していた。

「……おいしい……」

ぽつりと漏れた、吐息のような声。

「……なに、これ……。飲んでるのに、まるで、ふわふわの雲みたいに甘いお菓子を、食べてるみたい……。体が、心の、一番奥の方から、ぽかぽかしてくる……。幸せ……」

リリィアは、完全に、その味の虜になっていた。
その様子を見ていたベアトリスも、おずおずと、カップに口をつける。
そして、彼女もまた、同じように、その厳つい顔を、ふにゃりと緩ませた。

「……ああ、なるほどね。こいつは、確かに、ただの飲み物じゃない。……飲む、お菓子だ」
ベアトリスは、ぶっきらぼうにそう言ったが、そのカップを置く気配は、全くなかった。

俺は、その日から、この『夢見るホットチョコレート』を、「木漏れ日の食卓亭」の新しい冬のメニューとして、店に出すことにした。
最初は、「あの苦い薬だろ?」と敬遠していた常連客たちも、店内に漂う、抗いがたいほどの甘い香りに誘われ、一人、また一人と、注文し始めた。

そして、誰もが、最初の一口で、リリィアと同じように、夢見るような表情になった。

「うおおっ! なんだこりゃあ!」
「苦いどころか、天国みてえな味がするぜ!」
「冷え切った体が、芯から温まる……。こいつは、冬の最高の相棒だな!」

噂は、あっという間に街中に広まった。
寒い冬の日、人々は、暖炉の火と、そして一杯のホットチョコレートを求めて、「木漏れ日の食卓亭」に集うようになった。
カップを片手に、談笑し、凍えた手を温め合う。
そこには、冬の厳しさも、寂しさもなかった。ただ、温かくて、甘くて、幸せな時間が流れているだけ。

俺は、そんな光景を、カウンターの中から、満足げに眺めていた。
誰かの悩みを解決するだけが、料理じゃない。
こうして、何でもない日常に、新しい「幸せ」の色を、一つ加えること。
それもまた、料理人ができる、最高の魔法の一つなのだと。

この冬、街の人々の心と体を温めた、一杯の茶色い魔法。
それは、かつて神々の飲み物だったものが、一人の料理人の知識と、一匹の不思議な生き物の奇跡によって、この世界で、再び「みんなの飲み物」として生まれ変わった、記念すべき一杯となったのだった。
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