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第19話 試験勉強と、賢者のカレーライス (19-1)
しおりを挟むエララさんの織機が、再び美しい布を紡ぎ始めた頃。
街は、年に一度の「学力試験」の季節を迎えていた。
この街では、子供たちは冬の間に、寺子屋のような場所で読み書きや計算を学ぶ。そして、その成果を発表する試験が、春の訪れを告げるこの時期に行われるのだ。
「木漏れ日の食卓亭」にも、試験を間近に控えた子供たちが、親に連れられてやってくる。
だが、その顔は、どれも一様に疲れていた。
慣れない勉強と、試験へのプレッシャーから、皆、目の下にうっすらと隈を作り、大好きな料理にさえ、あまり手をつけられないでいた。
「……リリィアちゃん、あの子たち、最近ずっと元気がないね」
その日の昼下がり、店の隅のテーブルで、教科書を広げたまま、うとうとしている少年を見て、俺はリリィアにそっと話しかけた。
「うん……。みんな、夜遅くまで一生懸命勉強してるみたい。見ていて、なんだか可哀想になっちゃう……。何か、元気が出るものを食べさせてあげられないかな?」
リリィアは、心の底から心配そうに、そう言った。
その優しい言葉を聞いて、俺の中の料理人魂に、新しい火が灯った。
そうだ。彼らに必要なのは、ただ腹を満たすだけの食事じゃない。
疲れた頭と心を優しく癒し、「よし、もうひと頑張りするぞ!」という、前向きな気持ちにさせてくれる、最高の「勉強応援メニュー」だ。
俺は、一つの料理を思い浮かべていた。
様々なスパイスを組み合わせた、食欲をそそる香りの、黄金色の魔法。
子供から大人まで、誰もが笑顔になる、究極の元気飯。
「リリィアちゃん。彼らのために、特別な『カレーライス』を作ってあげよう」
「かれーらいす?」
「ああ。俺の故郷では、子供たちが一番好きな料理の一つでね。不思議な香りのする、黄金色のシチューをご飯にかけて食べるんだ。これほど、人を元気にする料理はない」
俺は、目を丸くするリリィアに、ゆっくりと語り始めた。
「この料理の主役はね、『スパイス』っていう、色々な植物から作られる、魔法の粉なんだ。俺の世界では、大昔、**スパイスは金と同じくらい価値のある、貴重な『薬』**として扱われていたんだよ」
「お薬?」
「そう。一つ一つの香草(スパイス)には、体を温めたり、消化を助けたり、そして**『頭の働きを良くする』**力がある、と信じられていた。カレーは、そんなスパイスを何種類も組み合わせた、まさに**『食べる薬膳』**なんだ」
俺の説明に、リリィアの顔がぱっと明るくなった。
「すごい! それなら、みんなの助けになるね!」
「そうだろ? よし、そうと決まれば最高のスパイスが必要だ。モグモグ、出番だぞ!」
俺が厨房で声をかけると、モグモグが真剣な顔で俺の足元に駆け寄ってきた。
「今回は、街の子供たちの未来を救う、大事なミッションだ。彼らの頭をすっきりさせて、元気をくれる、魔法のスパイスを探してきてほしい。それはきっと、虹のように、色々な色をしているはずだ」
「きゅいいいん!」
モグモグは、これまでにないほど力強く鳴くと、子供たちの明るい未来を探しに、一陣の風となって宿屋を飛び出していった。
疲れ果てた小さな学者たちを救うための、俺たちのスパイシーで、心温まる挑戦が、今、始まろうとしていた。
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