異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

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第24話 孤独な王子と、太陽のグラタン (24-1)

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ニヴルヘイムの使節団が、穏やかな顔で帰国の途についてから数日後。
俺、日向耕介は、エレオノーラ女伯爵の案内で、ついに王城へと足を踏み入れていた。
磨き上げられた大理石の廊下、寸分の狂いもなく整列する衛兵たち。全てが、俺が暮らしてきた港町とは、次元の違う、威厳と格式に満ち溢れていた。

通された謁見の間には、この国の頂点に立つ人物――国王陛下が、深い悩みをその顔に刻んで、座っていた。

「……よく来てくれた、日向耕介殿」

国王が、か細い声で言った。
彼から俺に与えられた、極秘の依頼。
それは、この国の若き王子、テオドア殿下の心を救ってほしい、というものだった。

テオドア王子は、原因不明の「心の病」に侵されていた。
肉体的な病気ではない。だが、来る日も来る日も自室に閉じこもり、誰とも言葉を交わさず、笑顔はおろか、一切の感情を失ってしまっていた。
王国の最高の料理人たちが、腕によりをかけて作った、完璧で、豪華な料理にさえ、彼は一切手をつけようとしない。ただ、生命を維持するためだけに、水と少量のパンを口にするだけの日々。このままでは、国の未来が危うい。

俺は、王子の部屋へと、食事を運ぶことを許された。
豪華な天蓋付きのベッド、壁一面の本棚、美しい調度品の数々。だが、その部屋は、まるで色が失われたかのように、冷たく、静まり返っていた。
そして、窓辺の椅子に、人形のように座っている、一人の美しい少年。
それが、テオドア王子だった。
その瞳は、ガラス玉のように、何の光も映してはいなかった。

俺が持ってきた、バスティアン様が作った完璧な料理にも、彼は一瞥もくれなかった。
俺は、無理強いはせず、ただ、静かにその場を辞した。
だが、俺には分かっていた。
彼に必要なのは、完璧な料理ではない。完璧な世界で、完璧であることを求められ続けた結果、彼の心は、擦り切れてしまったのだ。

屋敷に戻った俺は、リリィアやベアトリス、そして、街の皆の顔を思い出していた。
不格好で、不器用で、でも、いつも笑い合っていた、あの温かい食卓の光景を。

(……そうだ。王子に必要なのは、あの光だ)

俺は、決意した。
彼を救うための、一皿を。
王侯貴族が食べるような、芸術品のような料理ではない。
チーズがぐつぐつと音を立て、黄金色の焦げ目がついた、素朴で、最高に温かい、あの家庭料理を。

「モグモグ、聞こえたかい? 今回は、一人の王子様の、凍てついた心を溶かす、特別なミッションだ」
俺が厨房で声をかけると、モグモグが真剣な顔で俺の足元に駆け寄ってきた。
「王子様の心に、小さな太陽を届けてくれるような、そんな魔法の食材を探してきてほしい。それはきっと、陽だまりのような味がするはずだ」

「きゅいいいん!」

モグモグは、これまでにないほど力強く鳴くと、一人の孤独な王子を救うため、一陣の風となって屋敷を飛び出していった。
王城の分厚い壁を打ち破るための、俺たちの温かい挑戦が、今、始まろうとしていた。

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