異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

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第36話 大地の竜と、変容のロースト (36-3)

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三日後。
マリネード液から引き上げられた肉塊は、その姿を、一変させていた。
岩のように硬かったはずの肉は、指で押すと、ふわりと沈むほどに、柔らかくなっている。その色も、生命力に満ち溢れた、美しい赤紫色へと、変容していた。

そして、いよいよ、最後の儀式。
「火入れ」だ。

俺たちは、その肉塊を、大溶鉱炉の、まさに心臓部へと運んでいった。
そこには、今にも消え入りそうな、最後の残り火が、弱々しく揺らめいているだけだった。

「……頼む……!」
王が、祈るように、呟いた。

俺は、その、ドワーフたちの魂の残り火を使い、肉塊の表面を、まず、力強く焼き固めていく。
ジュウウウウウウウウウウッ!
肉の焼ける、香ばしい匂いが、巨大な空間に満ちていく。
その後は、弱火で、ひたすら、辛抱強く、時間をかけて、熱を伝えていく。
それは、調理というよりも、竜へ、そして、山への、壮大な祈りの儀式だった。

どれくらいの時間が、経っただろうか。
ついに、変容のローストは、完成した。
その表面は、黒く、岩のように焼き固められている。だが、ナイフを入れると、中から、美しいロゼ色の肉汁が、滝のように、溢れ出した。

俺たちは、その肉塊を、巨大な盆に乗せ、山の、さらに奥深く。
アースドラゴンが眠るという、伝説の祭壇へと、運んでいった。

洞窟の奥深く。
そこに、彼はいた。
山そのものと見紛うほどの、巨大な竜が、力なく、横たわっていた。その鱗は輝きを失い、その呼吸は、か細く、途切れ途切れだった。

俺は、焼きあがったローストの、一番柔らかい中心部分を切り出し、竜の口元へと、そっと差し出した。
最初は、何の反応も示さなかった竜。
だが、その鼻先が、肉から立ち上る、あの懐かしい「鉱石」の香りを捉えた瞬間。
その、閉ざされていた瞼が、ぴくりと、動いた。

そして、ゆっくりと、その巨大な顎が、開かれていく。
彼は、俺が差し出した肉を、まるで赤子のように、優しく、その口に含んだ。

そして、一口。

その刹那。
竜の、琥珀色の巨大な瞳から、ぽろり、と、溶岩のように熱い、大粒の涙が、こぼれ落ちた。
そして。

ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

竜の喉の奥から、天を突くような、力強い雄叫びが、山全体を、揺るがした!
それと、時を同じくして。
俺たちの背後にある、大溶鉱炉から、これまでとは比べ物にならないほどの、巨大な火柱が、天に向かって、噴き上がったのだ!

「……おお……!」
「炎が……! 炎が、戻ったぞ……!」
ドワーフたちの、歓喜の雄叫びが、洞窟にこだまする。

竜は、ゆっくりと、その巨大な体を、起こした。
そして、わしらを、その、賢者のような瞳で見つめると、一度、深々と、頭を下げた。
まるで、感謝を伝えるかのように。

この日、一人の料理人が、一つの国の、そして、一体の伝説の竜の、命を救った。
そして、ドワーフたちは、学んだのだ。
本当の強さとは、ただ槌を振るうことではない。
偉大なる自然と共存し、その声に耳を傾ける、優しさと、知恵なのだと。

俺たちの、ドワーフの国での物語は、こうして、最高の形で、幕を閉じた。
だが、それは、終わりではない。
新しい友と、新しい絆を胸に、俺たちの異世界クッキングロードは、まだまだ、続いていくのだ。
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