異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

文字の大きさ
21 / 293

第6話 融和のラザニア~重なる想い、一つに紡ぐ絆~ (6-1)

しおりを挟む

宿屋「木漏れ日の食卓亭」は、今や街で一番の繁盛店となっていた。
日向耕介の作る温かい料理を求めて、毎日のように多くの客が訪れる。その中には、二つの常連グループがいた。

一つは、リーダーのゴードンが率いる、ドワーフ族を中心としたパーティ『石の拳(ストーンフィスト)』。彼らは鉱山での採掘や、頑丈な体躯を活かした護衛任務を得意とする、豪快で一本気な男たちだ。
もう一つは、リーダーのシルヴァが率いる、エルフや軽装の斥候(せっこう)たちで構成されたパーティ『鋼の翼(スチールウィング)』。彼らは森での探索や、俊敏さを活かした偵察任務を得意とする、冷静沈着でプライドの高い集団だった。

この二つのグループ、実は昔から犬猿の仲として、この街では有名だった。
力の『石の拳』と、技の『鋼の翼』。価値観も、得意な戦法も、何もかもが正反対。宿屋で顔を合わせるたびに、互いに挑発的な視線を交わし、店の中にはピリピリとした緊張が走る。

「ちっ、今日もいるのかよ、あのスカした連中が」
ゴードンが、エールを呷りながら吐き捨てる。
「聞こえていますよ、そこの脳筋ドワーフさん。あなた方こそ、食事中にまで鉄クズの匂いを撒き散らすのはやめていただきたい」
シルヴァが、優雅にパンをちぎりながら、冷たく言い返した。

これまでは、お互いに悪態をつく程度で済んでいた。耕介の作る料理が美味しいためか、不思議と大きな揉め事には発展せずにいたのだ。
だが、その均衡が崩れる日が、ついにやってきた。

事の発端は、些細なことだった。
その日、俺は新作として『猪肉の豪快ロースト』を大皿で提供した。こんがりと焼き上げ、肉汁が滴るその一皿は、どちらのグループからも大人気だった。

「日向の旦那! こいつは最高だ! この肉の力強さは、まさに俺たち『石の拳』にふさわしい!」
ゴードンが、満足そうに肉塊を頬張る。
その言葉に、シルヴァの眉がぴくりと動いた。
「おや、それは聞き捨てなりませんね。この繊細な火入れと、ハーブの巧みな使い方……。力任せのあなた方には、到底理解できないでしょう。これは、我々『鋼の翼』が味わうべき一品です」
「ああん? 何だとこのヒョロ長エルフ!」
「事実を述べたまでですが? それが何か?」

ゴードンがテーブルを叩いて立ち上がり、シルヴァも静かに席を立つ。
二人の間には、一触即発の空気が流れた。他の客たちは息を呑み、リリィアは俺の服の袖を固く掴んで震えている。

「やめなさい、あんたたち!」

ベアトリスの怒声が響き渡るが、もはや二人の耳には届いていない。

(まずい……!)

このままでは、乱闘騒ぎになってしまう。そうなれば、この宿屋が築き上げてきた温かい雰囲気は、全て台無しだ。
俺は、二人の間に割って入った。

「お二人とも、お待ちください!」
「日向殿、どいてくれ! こいつらだけは、許しておけん!」
「そうだ。これは我々の誇りの問題だ」

俺は、二人のリーダーを真っ直ぐに見つめ返した。
「分かりました。では、お二人の誇り、俺がこの料理で預かります」
「……何?」
「明日、もう一度ここへ来てください。あなた方両方が、心の底から『参った』と言うしかない、最高の料理をご用意します。その一皿を食べてもなお、争うというのなら、俺はもう止めません」

俺の真剣な眼差しに、ゴードンとシルヴァは互いに顔を見合わせた後、ふん、と鼻を鳴らした。

「……面白い。そこまで言うなら、お前の料理、食ってやろうじゃねえか」
「ええ、期待していますよ。我々の舌を唸らせるだけのものが、本当にあるというのならね」

嵐のような緊張感を残し、二つのグループは宿屋を後にして行った。
食堂には、重い沈黙だけが残された。

「日向さん……どうするの……?」
リリィアが、泣きそうな声で尋ねた。

俺は、リリィアの頭を優しく撫でる。
「大丈夫だ。彼らに必要なのは、自分たちの正しさだけを主張することじゃない。自分とは違うものの良さを知り、認め合うことだ。だから、そんな料理を作ってやるのさ」

俺の頭の中には、すでに一つの料理が完成していた。
異なる食材、異なるソース、それらが何層にも重なり合い、一つの完璧な調和を生み出す、奇跡の一皿。

「なあ、モグモグ。今回ばかりは、お前の力が絶対に必要だ。彼らの頑なな心を解きほぐす、最高の『接着剤』を見つけてきてくれないか?」

俺の足元で、モグモグが「きゅいん!」と力強く鳴いた。
その瞳には、これから始まる大仕事への、確かな覚悟が宿っていた。

---

ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになっています。これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

処理中です...