異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

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第6話 融和のラザニア~重なる想い、一つに紡ぐ絆~ (6-1)

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宿屋「木漏れ日の食卓亭」は、今や街で一番の繁盛店となっていた。
日向耕介の作る温かい料理を求めて、毎日のように多くの客が訪れる。その中には、二つの常連グループがいた。

一つは、リーダーのゴードンが率いる、ドワーフ族を中心としたパーティ『石の拳(ストーンフィスト)』。彼らは鉱山での採掘や、頑丈な体躯を活かした護衛任務を得意とする、豪快で一本気な男たちだ。
もう一つは、リーダーのシルヴァが率いる、エルフや軽装の斥候(せっこう)たちで構成されたパーティ『鋼の翼(スチールウィング)』。彼らは森での探索や、俊敏さを活かした偵察任務を得意とする、冷静沈着でプライドの高い集団だった。

この二つのグループ、実は昔から犬猿の仲として、この街では有名だった。
力の『石の拳』と、技の『鋼の翼』。価値観も、得意な戦法も、何もかもが正反対。宿屋で顔を合わせるたびに、互いに挑発的な視線を交わし、店の中にはピリピリとした緊張が走る。

「ちっ、今日もいるのかよ、あのスカした連中が」
ゴードンが、エールを呷りながら吐き捨てる。
「聞こえていますよ、そこの脳筋ドワーフさん。あなた方こそ、食事中にまで鉄クズの匂いを撒き散らすのはやめていただきたい」
シルヴァが、優雅にパンをちぎりながら、冷たく言い返した。

これまでは、お互いに悪態をつく程度で済んでいた。耕介の作る料理が美味しいためか、不思議と大きな揉め事には発展せずにいたのだ。
だが、その均衡が崩れる日が、ついにやってきた。

事の発端は、些細なことだった。
その日、俺は新作として『猪肉の豪快ロースト』を大皿で提供した。こんがりと焼き上げ、肉汁が滴るその一皿は、どちらのグループからも大人気だった。

「日向の旦那! こいつは最高だ! この肉の力強さは、まさに俺たち『石の拳』にふさわしい!」
ゴードンが、満足そうに肉塊を頬張る。
その言葉に、シルヴァの眉がぴくりと動いた。
「おや、それは聞き捨てなりませんね。この繊細な火入れと、ハーブの巧みな使い方……。力任せのあなた方には、到底理解できないでしょう。これは、我々『鋼の翼』が味わうべき一品です」
「ああん? 何だとこのヒョロ長エルフ!」
「事実を述べたまでですが? それが何か?」

ゴードンがテーブルを叩いて立ち上がり、シルヴァも静かに席を立つ。
二人の間には、一触即発の空気が流れた。他の客たちは息を呑み、リリィアは俺の服の袖を固く掴んで震えている。

「やめなさい、あんたたち!」

ベアトリスの怒声が響き渡るが、もはや二人の耳には届いていない。

(まずい……!)

このままでは、乱闘騒ぎになってしまう。そうなれば、この宿屋が築き上げてきた温かい雰囲気は、全て台無しだ。
俺は、二人の間に割って入った。

「お二人とも、お待ちください!」
「日向殿、どいてくれ! こいつらだけは、許しておけん!」
「そうだ。これは我々の誇りの問題だ」

俺は、二人のリーダーを真っ直ぐに見つめ返した。
「分かりました。では、お二人の誇り、俺がこの料理で預かります」
「……何?」
「明日、もう一度ここへ来てください。あなた方両方が、心の底から『参った』と言うしかない、最高の料理をご用意します。その一皿を食べてもなお、争うというのなら、俺はもう止めません」

俺の真剣な眼差しに、ゴードンとシルヴァは互いに顔を見合わせた後、ふん、と鼻を鳴らした。

「……面白い。そこまで言うなら、お前の料理、食ってやろうじゃねえか」
「ええ、期待していますよ。我々の舌を唸らせるだけのものが、本当にあるというのならね」

嵐のような緊張感を残し、二つのグループは宿屋を後にして行った。
食堂には、重い沈黙だけが残された。

「日向さん……どうするの……?」
リリィアが、泣きそうな声で尋ねた。

俺は、リリィアの頭を優しく撫でる。
「大丈夫だ。彼らに必要なのは、自分たちの正しさだけを主張することじゃない。自分とは違うものの良さを知り、認め合うことだ。だから、そんな料理を作ってやるのさ」

俺の頭の中には、すでに一つの料理が完成していた。
異なる食材、異なるソース、それらが何層にも重なり合い、一つの完璧な調和を生み出す、奇跡の一皿。

「なあ、モグモグ。今回ばかりは、お前の力が絶対に必要だ。彼らの頑なな心を解きほぐす、最高の『接着剤』を見つけてきてくれないか?」

俺の足元で、モグモグが「きゅいん!」と力強く鳴いた。
その瞳には、これから始まる大仕事への、確かな覚悟が宿っていた。

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