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第十八話 ドワーフの石積みと、夏夜の夢 第1部『石壁の協奏曲と、小さな工夫』
しおりを挟む僕たちの郷の毎日は、新たな音の協奏曲で満たされていた。
一つは、厨房エリアから聞こえる、ガラクが奏でる調理の音と、仲間たちの賑やかな笑い声。
そしてもう一つが、建設現場から響き渡る、職人たちの仕事の音だ。
カーン!カーン!と、ギムレットさんが振るう小槌が、石材の表面を寸分の狂いもなく整えていく、甲高く澄んだ音。
コツ、コツ、コツ……と、その弟子となったズボラが、鑿(のみ)を使って、石材の接合部を丁寧に仕上げていく、真面目で、実直な音。
それらの音に、石材を運ぶオークたちの力強い労働歌が重なり、僕たちの郷は、まるで一つの巨大な生き物のように、活気に満ち溢れていた。
ギムレットさんの指導は、厳格を極めた。
「この石頭が!その角の角度では、十年後に崩れるわ!やり直さんか!」
「オークの小僧!お前の力はそんなもんか!わしが若い頃は、その三倍の石を一人で……」
だが、その厳しい叱咤には、弟子であるズボラと、助っ人であるオークたちへの、確かな愛情と信頼が込められている。だからこそ、誰もが、文句一つ言わずに、最高の仕事で応えようとしていた。
基礎工事は終わり、いよいよ壁を積み上げる工程が始まった。地下貯蔵庫(セラー)の壁が、一日、また一日と、着実にその高さを増していく。
だが、壁が人の背丈を超えた頃、僕たちは、新たな壁にぶつかった。
「高さ」という、物理的な壁だ。
「……くそっ、これ以上は、無理だ……!」
ズボラが、悔しそうに唸る。
オークたちの力をもってすれば、巨大な石材を持ち上げることはできる。だが、それを、三メートル以上も高い壁の上まで運び、ギムレットさんが指示する、コンマ数ミリ単位の正確な位置に、静かに下ろす。その作業は、もはや腕力だけではどうにもならない、神業の領域だった。
一度、オークの一人が足を滑らせ、持ち上げていた石材が、轟音と共に地面に落下した。幸い、怪我人はいなかったが、現場は、ひやりとした空気に包まれた。
作業は、完全に停滞してしまった。
その様子を見ていた僕の脳裏に、前世の記憶が、まるで稲妻のように閃いた。
高層ビルの建設現場。巨大な鉄骨を、軽々と吊り上げる、巨大な機械。物理の授業で習った、小さな力で、重いものを持ち上げるための、シンプルな法則。
(滑車(プーリー)と、テコの原理……!)
僕は、すぐに木の皮と木炭を手に取ると、頭の中にあるイメージを、夢中で描き出した。
一本の太い柱を軸にして、長い腕(アーム)を伸ばす。その先端に、蔓(つる)を編んで作った頑丈なロープと、滑車を取り付ける。そして、腕の根元に、重石(おもし)を置くことで、全体のバランスを取る。
僕がみんなに見せたのは、ごく簡易的な**「クレーン」**の設計図だった。
「……なんだ、こりゃあ?ただの棒切れじゃねえか」
ガラクが、不思議そうに首を傾げる。
だが、二人の職人の目は、違った。
「いや……待てよ。この滑車という仕組み……。ロープを引く力を、真上に持ち上げる力へと変換するのか?そして、この重石……。なるほど、これなら、最小限の力で、重い石を……」
ズボラが、その構造の持つ合理性に気づき、感嘆の声を漏らす。
ギムレットさんも、腕を組み、僕の設計図を、食い入るように見つめていた。
「ふん。小僧の考えそうな、奇妙な仕掛けじゃな。じゃが……理屈は、通っておる。ドワーフの知恵とは違うが、これもまた、一つの真理か」
ズボラが、僕の設計図を手に、力強く頷いた。
「シルヴァン、ギムレットの師匠!これなら、俺に作れる!」
ドワーフの石工術と、オークの木工術、そして、僕の異世界の知恵。
三つの技術が融合した、郷で初めての「建設機械」が、今、生まれようとしていた。
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