役立たずの【種子生成】スキルで追放されたので、辺境でもふもふドラゴンと自由に生きることにした

はぶさん

文字の大きさ
55 / 59

第二十話 夏の終わりと、収穫の唄 第1部『エールの目覚めと、祭りの提案』

しおりを挟む

僕たちの郷に、新しい季節が訪れていた。
あれほど猛威を振るった夏の太陽は、その勢いを和らげ、空はどこまでも高く、澄み渡っている。涼やかな風が、黄金色に色づき始めた木々の葉を揺らし、僕たちの畑では、丸々と太ったカボチャや、ずっしりと頭を垂れる小麦の穂が、収穫の時を今か今かと待っていた。
季節は、夏から秋へ。実りの季節だ。
そして、地下の醸造所(ブリュワリー)では、もう一つの実りが、静かに、その目覚めの時を待っていた。
「……よし。頃合いじゃな」
エールの仕込みから、数週間が過ぎたある朝。ギムレットさんが、満足げに、その見事な髭をこきながら言った。
その、確信に満ちた一言に、郷の仲間たち全員が、ゴクリと喉を鳴らす。
僕たちは、ギムレットさんに導かれ、ひんやりとした地下貯蔵庫(セラー)へと降りていった。そこには、ズボラが作った見事な樫の樽が、静かに出番を待っている。樽の表面には、熟成によって生まれた、うっすらとした白い粉が、まるで化粧のようにまとわりついていた。
ギムレットさんが、記念すべき最初の樽の栓に、木槌をそっと当てた。
コン、と乾いた音が響き、栓が抜かれる。
次の瞬間、僕たちは、言葉を失った。
樽の中から、むせ返るような、それでいて、どこまでも芳醇な香りが、溢れ出してきたのだ。
黄金の大麦の甘い香ばしさ、香りのホップがもたらす爽やかで高貴な香り、そして、僕たちのオリジナル酵母が生み出した、果実のような華やかな香り。その全てが、完璧に調和し、僕たちの鼻腔を優しく、しかし抗いがたく支配する。
「……うむ」
ギムレットさんは、味見用の小さな杯に、完成したばかりのエールを注ぐと、まずその色を吟味し、香りを確かめ、そして、ゆっくりと一口、口に含んだ。
工房に、長い、長い沈黙が流れる。僕も、ガラクも、ズボラも、誰もが、伝説の職人が下す、その審判を、固唾を飲んで見守っていた。
やがて、彼の厳つい顔が、くしゃりと、満面の笑みに変わった。
「……完成じゃ。わしの人生で、最高の出来栄えじゃ……!」
「やったー!」
「飲もう!飲もうぜ!」
ガラクやズボラが、自分のジョッキを手に、歓喜の声を上げる。
だが、ギムレットさんは、その樽の栓を、再び、静かに閉めた。
「待て」
彼の、威厳に満ちた声が、浮足立つ僕たちを制する。
「この祝杯は、まだ挙げん」
彼は、僕たちの顔を、一人一人、ゆっくりと見渡した。
「このエールは、わし一人の力でできたもんじゃない。シルヴァンの知恵と、龍たちの奇跡、ズボラの樽、そして、力を貸してくれたオークの連中の友情。その全てが、この一滴に詰まっておる。じゃから、この最初の樽は、この奇跡に関わった、最高の仲間たち全員と、共に分かち合うべきじゃ」
最高の瞬間は、最高の仲間たち全員と。
その、あまりにも職人らしく、そして、あまりにも仲間思いなギムレットさんの言葉に、僕の胸は熱くなった。
僕は、黄金色に輝く郷の畑と、誇らしげな仲間たちの顔を見渡す。
そうだ、最高の舞台が、ここにあるじゃないか。
「ギムレットさんの言う通りです!だから、やりましょう!」
僕は、仲間たちに向かって、高らかに提案した。
「最高の収穫と、最高の酒を、最高の仲間たちと共に祝う、僕たちの郷で、初めての『収穫祭』を!」
その言葉に、郷の仲間たちの顔が、収穫期の太陽のように、明るく、喜びに満ちて輝いた。
僕たちの郷の歴史上、最も盛大で、最も幸せな祭りの開催が、今、決まったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜

咲月ねむと
ファンタジー
息苦しい貴族社会から逃げ出して15年。 元公爵令嬢の私、リーナは「魔物の森」の奥で、相棒のもふもふフェンリルと気ままなスローライフを満喫していた。 そんなある日、ひょんなことから自分のレベルがカンストしていることに気づいてしまう。 ​「せっかくだし、冒険に出てみようかしら?」 ​軽い気持ちで始めた“冒険の準備”は、しかし、初日からハプニングの連続! 金策のために採った薬草は、国宝級の秘薬で鑑定士が気絶。 街でチンピラに絡まれれば、無自覚な威圧で撃退し、 初仕事では天災級の魔法でギルドの備品を物理的に破壊! 気づけばいきなり最高ランクの「Sランク冒険者」に認定され、 ボロボロの城壁を「日曜大工のノリ」で修理したら、神々しすぎる城塞が爆誕してしまった。 ​本人はいたって平和に、堅実に、お金を稼ぎたいだけなのに、規格外の生活魔法は今日も今日とて大暴走! ついには帝国の精鋭部隊に追われる亡国の王子様まで保護してしまい、私の「冒険の準備」は、いつの間にか世界の運命を左右する壮大な旅へと変わってしまって……!? ​これは、最強の力を持ってしまったおっとり元令嬢が、その力に全く気づかないまま、周囲に勘違いと畏怖と伝説を振りまいていく、勘違いスローライフ・コメディ! 本人はいつでも、至って真面目にお掃除とお料理をしたいだけなんです。信じてください!

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...