56 / 59
第二十話 夏の終わりと、収穫の唄 第2部『収穫祭の準備と、それぞれの成長』
しおりを挟む収穫祭の開催が決まった翌日から、僕たちの郷は、これまでにないほどの活気と、温かい興奮に包まれた。
まずは、僕たちの祭りに、大切な仲間たちを招待するところから始まった。
僕が、薬草図鑑と同じ革で丁寧に綴じた招待状(木の皮)を、コハクが「僕に任せろ!」とばかりに誇らしげにくわえて、国境の村と、オークの集落へと駆けていく。知らせを受け取った村の長老やドガたちは、我が事のように喜び、「おお、それはめでたい!最高の土産を持って、必ず駆けつける!」と、力強く約束してくれた。
祭りの準備は、まさに、これまでの僕たちの成長の集大成だった。
僕と世話係のヒロイくんは、二人で畑へと向かう。夏の太陽と、龍たちの恵みをたっぷりと浴びた野菜たちは、僕の想像を遥かに超える大きさへと育っていた。赤子の頭ほどもあるカボチャ、大人の腕ほどもあるニンジン。**二人で「よいしょ、よいしょ!」と掛け声を合わせなければ、とても収穫できないほどの、見事な豊作だった。**
厨房では、ガラクが、山のように積まれた食材を前に、腕を組んで唸っていた。**「猪肉は、エールで煮込めば最高のシチューになるはずだ。カボチャは……デザートとして甘い焼き菓子に。待てよ、あの村の陶器を使えば、プリンのようなものも作れるかもしれねえ……!」**彼の頭の中では、収穫された全ての食材を使い、祭り当日に振る舞う、壮大な饗宴の献立が、凄まじい勢いで組み立てられているのだろう。その横顔は、真剣そのものだった。
建設現場では、ズボラが、オークたちと共に、祭りの会場設営を進めていた。彼らが作っているのは、郷の仲間と、村人、そしてオークたち全員が、一つのテーブルを囲めるほどの、巨大な長テーブルと、人数分の椅子。**ズボラの繊細な木工技術と、オークたちの力強い仕事ぶりが、見事に融合し、ただの家具ではない、祭りのための芸術品を生み出していく。**
そして、聖域(ブリュワリー)では、ギムレットさんが、静かにその時を待っていた。祭り当日に、最高の一杯を振る舞うため、樽の温度管理に、全神経を集中させている。彼の存在が、この祭りに、一本の太い芯を通わせてくれていた。
そんな、それぞれの専門家たちが最高の仕事に打ち込む中、僕は、僕にしかできない、新しい役割を考えていた。
(最高の収穫、最高の料理、最高の酒、最高の仲間。全てが揃った。だけど、何か、もう一つだけ……この最高の祭りを、永遠に心に刻むための、何かが足りない……)
僕が思い出したのは、前世の記憶。収穫を祝い、火を囲んで、誰もが笑顔で歌い、踊っていた、遠い日の祭り。
そうだ、「文化」だ。
僕は、その日から、夜な夜な、仲間たちを集めて、僕が知る素朴な歌と、簡単なステップで踊れる陽気な踊りを、教え始めた。
最初は「柄じゃねえ!」と照れていたガラクも、「俺は、そういうのは苦手だ……」と俯いていたズボラも、僕が楽しそうに歌い、踊る姿を見て、少しずつ、その輪に加わってくれる。**最初はぎこちなかった歌声は、やがて力強い合唱となり、不格好だったステップは、いつしか、この郷だけの、温かいリズムを刻み始めていた。**そこには、僕たちが初めて自分たちの手で生み出す「文化」の、温かい芽吹きが、確かにあった。
祭り前夜。
郷には、ガラクが試作する料理のいい匂いと、仲間たちの期待と興奮が満ち溢れている。
ズボラが作った長テーブルには、僕たちの食器が並べられ、ギムレットさんのエールの樽が、静かに出番を待っている。
全ての準備は、整った。
僕たちの郷の、最高の物語が、いよいよ始まろうとしていた。
20
あなたにおすすめの小説
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
小さな貴族は色々最強!?
谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。
本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。
神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。
その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。
転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。
魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。
ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。
公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜
咲月ねむと
ファンタジー
息苦しい貴族社会から逃げ出して15年。
元公爵令嬢の私、リーナは「魔物の森」の奥で、相棒のもふもふフェンリルと気ままなスローライフを満喫していた。
そんなある日、ひょんなことから自分のレベルがカンストしていることに気づいてしまう。
「せっかくだし、冒険に出てみようかしら?」
軽い気持ちで始めた“冒険の準備”は、しかし、初日からハプニングの連続!
金策のために採った薬草は、国宝級の秘薬で鑑定士が気絶。
街でチンピラに絡まれれば、無自覚な威圧で撃退し、
初仕事では天災級の魔法でギルドの備品を物理的に破壊!
気づけばいきなり最高ランクの「Sランク冒険者」に認定され、
ボロボロの城壁を「日曜大工のノリ」で修理したら、神々しすぎる城塞が爆誕してしまった。
本人はいたって平和に、堅実に、お金を稼ぎたいだけなのに、規格外の生活魔法は今日も今日とて大暴走!
ついには帝国の精鋭部隊に追われる亡国の王子様まで保護してしまい、私の「冒険の準備」は、いつの間にか世界の運命を左右する壮大な旅へと変わってしまって……!?
これは、最強の力を持ってしまったおっとり元令嬢が、その力に全く気づかないまま、周囲に勘違いと畏怖と伝説を振りまいていく、勘違いスローライフ・コメディ!
本人はいつでも、至って真面目にお掃除とお料理をしたいだけなんです。信じてください!
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~
ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。
そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。
「荷物持ちでもいい、仲間になれ」
その言葉を信じて、俺は必死についていった。
だけど、自分には何もできないと思っていた。
それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。
だけどある日、彼らは言った。
『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』
それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。
俺も分かっていた。
だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。
「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」
そう思っていた。そのはずだった。
――だけど。
ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、
“様々な縁”が重なり、騒がしくなった。
「最強を目指すべくして生まれた存在」
「君と一緒に行かせてくれ。」
「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」
穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、
世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい――
◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる