ミライスムージー

胡桃檸檬

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第1話『9月20日』

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9月20日の午後3時。秋めく景色になりかけた空は雲ひとつ無い。ピーカン晴れとはこんな空の事だろう
その空を映す川の水面...そんな川のすぐ近くに7階建てのマンションがある。築59年と古い所だが、最上階は川だけでなく、街の景色を一望できるパノラマビューが見れるのだ。そこは最寄り駅と高架線だけでなく、商店街も住宅街も、そして川の向こう岸の方から高さ555mの『フューチャータワー』も遠目だが見える
そんな街並みに唯一と言っていいくらい古いこのマンションはくすんだグレーで、ツタが絡まりまくっていて、年季を感じる見た目だ。しかし壁は頑丈なのかひび割れなどはどこにも見当たらない
そのマンション前に1人の小柄で髪の長い女性が来た

『えーと...住所はここみたいだけど、本当に合ってるのかな?』

ピンク色のカバーをつけたスマホの地図を見ながらそう言う彼女の名前は霜月しもづきこのみ。彼女はまだ21歳の若さだが、福祉系の短期大学を卒業して就職し、正社員として福祉会社に勤めている。そんな彼女は旅行用の黒いボストンバッグやピンク色のキャリーなど大きな荷物を持ってマンションのエントランス前にいる
何やらマンションは合っていても、どの部屋かが分からない彼女は迷っている様子。そこに彼女よりかなり長身の男性がマンションのエントランスに入ってきた。このみはこの人に聞くしかないと思ったのか

『あ...あの!『胡蝶蘭寮こちょうらんりょう』ってどの部屋ですか?』

彼女はそう聞くが、彼は黙ったまま答えない。長身の彼はかなり若い男性で彼女と同じ20代くらい。赤いTシャツの上に黒いデニムジャケットを着ていた。髪は前髪長めの茶髪で顔はかなり男前。所謂『美男子』とはこういう顔なのかと思うこのみだった
そんな彼は無言でエレベーターのボタンを押す。ここは1階、彼は恐らく2~7階のいずれかの部屋の住人の様だ

『あの...胡蝶蘭寮って...』

そうこのみが言うとエレベーターがすぐ来た。彼が黙ってさっさと乗るが...何故か彼はエレベーターを閉めないで『開』のボタンを押しっぱなしにしている。

『あ…あの?』

このみが戸惑うと

『...ついて来な』

そう彼はボソッとぶっきらぼうながらもそう言った。どうやら彼は場所を知っている様だった

『あ...はい...』

そう言ってこのみは彼の言う通りエレベーターに乗る。すると彼は『閉』のボタンを押してすぐ『7』のボタンを押した。どうやら最上階へ行く様だ

『...あそこに何の用だ?』

彼がいきなりそう聞いてくる。キツくはないが、戸惑ってしまうのも無理ないくらいぶっきらぼうな言い方だ

『あの...あたし、新しい寮母として赴任します!でも見ず知らずのあたしに案内して下さるなんて...あなた優しいですね』

そうこのみがそう言うが、彼は何か引っかかったのか更に黙り込んだ

『あの...胡蝶蘭寮って7階のどの部屋なんですか?』

このみがそう聞くとエレベーターが7階に着いた。すると扉開いたその先は何故か扉が1枚だけ。明らかに他に部屋はなさそうだった

『...え?』

驚くこのみ。それは無理もないのだった。このマンションは1階にはエントランス挟んで両方に2部屋あり、2階から6階は1フロアに3部屋ずつ並んでいる。しかし最上階の7階だけはフロア全体が部屋になっているのだった

『...あの、ここって』

そうこのみが聞くと『開』のボタンを押しっぱなしにしている彼が

『お前から降りな。そんな大荷物を女1人で持ってるんだから』
『あ...はい...』

そう言ってこのみは言われた通りすぐ降りようとしたが、荷物が重すぎて少しよろけてしまう。すると彼は

『しっかりしろ』

そう言って彼はキャリーをこのみから預かって先に彼女を降ろした。ボストンバッグだけになった彼女はエレベーターを降りる
すると彼は彼女のキャリーを持ったままデニムジャケットのポケットから鍵を出して解錠する
そのドアを見ると胡蝶蘭の絵が描かれた札が掛かっていた。そう、このマンションの7階はフロア全体が胡蝶蘭寮の部屋だった。そして彼はその寮の住人の1人であったのだった
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