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第2章:焦げた楽譜と届かなかったメロディ
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1. 懺悔の炎の香り
『巡星』の仕事に就いて一ヶ月が過ぎた。
暦は、他人の後悔を解くという奇妙な日常に慣れ始めていた。依頼人の抱える感情の重さを感じることは相変わらず疲弊したが、その感情が解消に向かう瞬間の清々しさが、彼女の支えになっていた。
ある日の午後、秋雨が冷たい音を立てて窓を濡らしているとき、二つ目の落とし物が届いた。
扉のベルは鳴らず、いつの間にか木箱が置かれていた。中には、A4サイズの手書きの楽譜が一枚。ピアノ三重奏曲のものらしい。全体的に古びており、隅には「To Y」と走り書きがあった。
暦が楽譜に触れると、指先から熱ではなく、微かな苦い香りが伝わってきた。
「煙草の匂いかな?」
暦は呟き、楽譜の右下に目を留めた。そこには、数箇所、紙が炭化して黒く変色した焦げ跡があった。
「これは、焦燥と、悲しみだ」
暦は顔を顰めた。
「飯島さんの時と同じ、強い感情だけど、方向が違う。あの時は外に向かう怒りだったけど、これは内に向かう後悔、自己への罰のような感情よ」
湊が淹れたてのコーヒーを置きに来た。
「今度はメロディか。弾いてみようか?」
湊が楽譜を覗き込み、メロディラインを鼻歌で辿る。
「美しい曲だ。どこか切なくて、懐かしい」
その時、暦は焦げ跡を虫眼鏡で観察していて、ある事実に気づいた。
「湊、これを見て。この焦げ跡は、タバコの火を押しつけた跡じゃないわ」
「違うのか?」
「ええ。もし押しつけて消したのなら、中心が最も濃く、炭化するはず。でもこれは、火種が紙の上に落ちて、自然に燃え広がろうとした跡よ。そして、慌ててそれを手で払いのけたような、不均等な焦げ方をしている」
焦げ跡が示す情景。それは、誰かがこの楽譜を眺めながら、深く悩み、タバコを吸い、その灰や火種が落ちても気づかないほど、別の感情に心を奪われていた瞬間だ。
「この楽譜の持ち主は、この曲を誰かに渡すかどうか、激しく葛藤していたんだわ」
2. 拒否するライター
数日後、湊が喫茶店で聞き込みをした情報から、落とし物の持ち主らしき人物が見つかった。
榊原 晶(さかきばら あきら)。30代半ばのフリーライターで、かつては音楽活動をしていたが、現在はその道を諦めている。
湊の案内で喫茶店へやってきた榊原は、疲労の色が濃い顔をしていた。
暦は慎重に本題に入った。
「榊原さん、あなたがお探しのものは、これではありませんか?」
作業台の上の楽譜を見せると、榊原は一瞬、硬直した。彼の瞳の奥に、強い動揺の嵐が走ったのを、暦は見逃さなかった。
「……こんなものは知りません。私はもう、音楽とは縁がない」
榊原は、楽譜から目を逸らし、拒否するように立ち上がった。
「失礼ですが、楽譜の右下の『To Y』は、どなたかではありませんか?」
その言葉に、榊原は弾かれたように暦を見た。
「関係ないと言っているでしょう!これはただの古紙だ!」
彼は声を荒らげ、逃げるように喫茶店へ戻ろうとした。
「落ち着いてください。その『Y』という方が、あなたの親友で、数年前に亡くなった方ではありませんか」
暦は、楽譜から感じ取った深い悲しみを、あえてぶつけた。
榊原は再び椅子に座り込んだ。
彼は語り始めた。高校時代からの親友Yは、病で長期入院していた。彼はYを励ますため、そして自分たちの夢を諦めない証として、この曲を作った。しかし、彼は「未熟な曲だ」と恥じ、渡すことをためらい続けた。
「渡そうと、鞄に入れて持っていった日もあった。でも、結局勇気が出なかった。そして、その翌朝、Yは……逝ってしまった」
榊原は、渡せなかった楽譜を見ては、自分の弱さを責め続けた。そして、この焦げ跡は、病院の屋上にある喫煙所で、渡す決意ができずに悩み、タバコを吸っていた時のものだという。
「私の後悔は、渡しそびれたこと、ただそれだけです。この楽譜がここにあるのは、あの時に戻りたいという、私の弱い願いのせいでしょう」
3. 届かなかったメロディ
暦は楽譜を広げた。「榊原さん。あなたは、この曲は『未完成』だと思っていませんか?」
「ええ。未熟だし、何より、肝心の彼に届いていない」
「いいえ。湊」
暦は湊に目配せをした。
湊はすぐに楽譜を受け取り、落ち着いた手つきで鍵盤を模したカウンターを叩き、メロディを口ずさみ始めた。
「この曲のサビのコード進行、どこか聞いたことがあるんだ。榊原さんとYさんが高校時代に夢中になっていた、特定のバンドの曲のモチーフに酷似している」
榊原の顔色が変わった。
「その曲は、Yが最も大切にしていた曲です」
暦は続けた。
「あなたは、Yさんがその曲を愛していたことを知っていたから、そのモチーフを使った。つまり、この曲はただの励ましではなく、『これは僕たちの曲だ。だから、君は一人じゃない』という、メッセージだった」
暦は、希が姿を現さないことに気づきながらも、核心へ迫った。
「あなたは、この楽譜を渡せなかったことを後悔しています。でも、考えてみてください。あなたがその曲を作ったという事実、そして病院の屋上で『渡そう』と決意したあなたの魂は、Yさんに届いていなかったでしょうか?」
そして、この章の鍵となる、希の言葉が脳裏に蘇る。
――「メロディは、誰かに届いた瞬間に完成する」
暦は確信した。
「榊原さん。Yさんは、きっと知っていました。この楽譜の焦げ跡は、あなたが自分を責めていた証拠ではない。これは、あなたが、渡すかどうか悩みながらも、確かに彼のそばに居たという証拠です」
「あなたの曲は、物理的に渡せなくても、あなたの想いは、あの時、彼の心を打っていたはずです。この曲が『未完成』なのではなく、『彼の死という悲しみによって、完成が阻まれていた』だけではないでしょうか」
榊原は楽譜を抱きしめ、嗚咽した。彼は初めて、自分が抱えていた後悔が「自己満足の罪悪感」ではなく、「親友の愛に応えられなかったという悲しみ」であったことを理解した。
4. 完成するメロディ
「この楽譜は、あなたの過去を終わらせるために、ここへ届いたんです」
暦は、楽譜を榊原に手渡した。彼は深呼吸をし、焦げ跡のある楽譜を、もう逃げずに見つめられるようになっていた。
「この曲を……完成させます。彼に届くように」
榊原は、フリーライターの仕事で出会った若手の音楽家にこの曲を託し、Yへのメッセージとして世に出すことを決意した。彼は、過去を清算したのではなく、過去の未完成だった思いに、未来という名の答えを与えたのだ。
榊原が去った後、暦は喫茶店で湊と向き合っていた。
「今回も、希くんの姿は見えなかったな」
湊がコーヒーを淹れながら言った。
「ええ。でも、彼の言葉は聞こえた気がする。『完成』の意味が分かったわ。後悔とは、過去を変えることではなく、未完成のまま止まってしまった感情を、今、動かし始めることなんだと」
暦は、祖父から継いだ預かり所の役割を深く理解し始めていた。
その晩、誰もいない預かり所の書斎で、暦はぼんやりと天井を見上げていた。
(未完成のまま止まっている感情……)
彼女の頭の中に、幼い頃の海辺の光景が、再び、強く蘇った。祖父の優しすぎる横顔と、波の音。そして、自分が祖父から目を逸らした、
「あの時、もっとそばにいればよかった」という、後悔の片鱗。
暦は、無意識に、祖父の書斎の奥にある、鍵のかかった扉を見つめていた。その扉の向こうにこそ、自分自身の落とし物があるのではないか、と。
『巡星』の仕事に就いて一ヶ月が過ぎた。
暦は、他人の後悔を解くという奇妙な日常に慣れ始めていた。依頼人の抱える感情の重さを感じることは相変わらず疲弊したが、その感情が解消に向かう瞬間の清々しさが、彼女の支えになっていた。
ある日の午後、秋雨が冷たい音を立てて窓を濡らしているとき、二つ目の落とし物が届いた。
扉のベルは鳴らず、いつの間にか木箱が置かれていた。中には、A4サイズの手書きの楽譜が一枚。ピアノ三重奏曲のものらしい。全体的に古びており、隅には「To Y」と走り書きがあった。
暦が楽譜に触れると、指先から熱ではなく、微かな苦い香りが伝わってきた。
「煙草の匂いかな?」
暦は呟き、楽譜の右下に目を留めた。そこには、数箇所、紙が炭化して黒く変色した焦げ跡があった。
「これは、焦燥と、悲しみだ」
暦は顔を顰めた。
「飯島さんの時と同じ、強い感情だけど、方向が違う。あの時は外に向かう怒りだったけど、これは内に向かう後悔、自己への罰のような感情よ」
湊が淹れたてのコーヒーを置きに来た。
「今度はメロディか。弾いてみようか?」
湊が楽譜を覗き込み、メロディラインを鼻歌で辿る。
「美しい曲だ。どこか切なくて、懐かしい」
その時、暦は焦げ跡を虫眼鏡で観察していて、ある事実に気づいた。
「湊、これを見て。この焦げ跡は、タバコの火を押しつけた跡じゃないわ」
「違うのか?」
「ええ。もし押しつけて消したのなら、中心が最も濃く、炭化するはず。でもこれは、火種が紙の上に落ちて、自然に燃え広がろうとした跡よ。そして、慌ててそれを手で払いのけたような、不均等な焦げ方をしている」
焦げ跡が示す情景。それは、誰かがこの楽譜を眺めながら、深く悩み、タバコを吸い、その灰や火種が落ちても気づかないほど、別の感情に心を奪われていた瞬間だ。
「この楽譜の持ち主は、この曲を誰かに渡すかどうか、激しく葛藤していたんだわ」
2. 拒否するライター
数日後、湊が喫茶店で聞き込みをした情報から、落とし物の持ち主らしき人物が見つかった。
榊原 晶(さかきばら あきら)。30代半ばのフリーライターで、かつては音楽活動をしていたが、現在はその道を諦めている。
湊の案内で喫茶店へやってきた榊原は、疲労の色が濃い顔をしていた。
暦は慎重に本題に入った。
「榊原さん、あなたがお探しのものは、これではありませんか?」
作業台の上の楽譜を見せると、榊原は一瞬、硬直した。彼の瞳の奥に、強い動揺の嵐が走ったのを、暦は見逃さなかった。
「……こんなものは知りません。私はもう、音楽とは縁がない」
榊原は、楽譜から目を逸らし、拒否するように立ち上がった。
「失礼ですが、楽譜の右下の『To Y』は、どなたかではありませんか?」
その言葉に、榊原は弾かれたように暦を見た。
「関係ないと言っているでしょう!これはただの古紙だ!」
彼は声を荒らげ、逃げるように喫茶店へ戻ろうとした。
「落ち着いてください。その『Y』という方が、あなたの親友で、数年前に亡くなった方ではありませんか」
暦は、楽譜から感じ取った深い悲しみを、あえてぶつけた。
榊原は再び椅子に座り込んだ。
彼は語り始めた。高校時代からの親友Yは、病で長期入院していた。彼はYを励ますため、そして自分たちの夢を諦めない証として、この曲を作った。しかし、彼は「未熟な曲だ」と恥じ、渡すことをためらい続けた。
「渡そうと、鞄に入れて持っていった日もあった。でも、結局勇気が出なかった。そして、その翌朝、Yは……逝ってしまった」
榊原は、渡せなかった楽譜を見ては、自分の弱さを責め続けた。そして、この焦げ跡は、病院の屋上にある喫煙所で、渡す決意ができずに悩み、タバコを吸っていた時のものだという。
「私の後悔は、渡しそびれたこと、ただそれだけです。この楽譜がここにあるのは、あの時に戻りたいという、私の弱い願いのせいでしょう」
3. 届かなかったメロディ
暦は楽譜を広げた。「榊原さん。あなたは、この曲は『未完成』だと思っていませんか?」
「ええ。未熟だし、何より、肝心の彼に届いていない」
「いいえ。湊」
暦は湊に目配せをした。
湊はすぐに楽譜を受け取り、落ち着いた手つきで鍵盤を模したカウンターを叩き、メロディを口ずさみ始めた。
「この曲のサビのコード進行、どこか聞いたことがあるんだ。榊原さんとYさんが高校時代に夢中になっていた、特定のバンドの曲のモチーフに酷似している」
榊原の顔色が変わった。
「その曲は、Yが最も大切にしていた曲です」
暦は続けた。
「あなたは、Yさんがその曲を愛していたことを知っていたから、そのモチーフを使った。つまり、この曲はただの励ましではなく、『これは僕たちの曲だ。だから、君は一人じゃない』という、メッセージだった」
暦は、希が姿を現さないことに気づきながらも、核心へ迫った。
「あなたは、この楽譜を渡せなかったことを後悔しています。でも、考えてみてください。あなたがその曲を作ったという事実、そして病院の屋上で『渡そう』と決意したあなたの魂は、Yさんに届いていなかったでしょうか?」
そして、この章の鍵となる、希の言葉が脳裏に蘇る。
――「メロディは、誰かに届いた瞬間に完成する」
暦は確信した。
「榊原さん。Yさんは、きっと知っていました。この楽譜の焦げ跡は、あなたが自分を責めていた証拠ではない。これは、あなたが、渡すかどうか悩みながらも、確かに彼のそばに居たという証拠です」
「あなたの曲は、物理的に渡せなくても、あなたの想いは、あの時、彼の心を打っていたはずです。この曲が『未完成』なのではなく、『彼の死という悲しみによって、完成が阻まれていた』だけではないでしょうか」
榊原は楽譜を抱きしめ、嗚咽した。彼は初めて、自分が抱えていた後悔が「自己満足の罪悪感」ではなく、「親友の愛に応えられなかったという悲しみ」であったことを理解した。
4. 完成するメロディ
「この楽譜は、あなたの過去を終わらせるために、ここへ届いたんです」
暦は、楽譜を榊原に手渡した。彼は深呼吸をし、焦げ跡のある楽譜を、もう逃げずに見つめられるようになっていた。
「この曲を……完成させます。彼に届くように」
榊原は、フリーライターの仕事で出会った若手の音楽家にこの曲を託し、Yへのメッセージとして世に出すことを決意した。彼は、過去を清算したのではなく、過去の未完成だった思いに、未来という名の答えを与えたのだ。
榊原が去った後、暦は喫茶店で湊と向き合っていた。
「今回も、希くんの姿は見えなかったな」
湊がコーヒーを淹れながら言った。
「ええ。でも、彼の言葉は聞こえた気がする。『完成』の意味が分かったわ。後悔とは、過去を変えることではなく、未完成のまま止まってしまった感情を、今、動かし始めることなんだと」
暦は、祖父から継いだ預かり所の役割を深く理解し始めていた。
その晩、誰もいない預かり所の書斎で、暦はぼんやりと天井を見上げていた。
(未完成のまま止まっている感情……)
彼女の頭の中に、幼い頃の海辺の光景が、再び、強く蘇った。祖父の優しすぎる横顔と、波の音。そして、自分が祖父から目を逸らした、
「あの時、もっとそばにいればよかった」という、後悔の片鱗。
暦は、無意識に、祖父の書斎の奥にある、鍵のかかった扉を見つめていた。その扉の向こうにこそ、自分自身の落とし物があるのではないか、と。
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