世界最強の七賢者がお世話係の俺にだけはデレデレすぎる件

Y.

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第17話:アカデミーからの刺客。天才教授と、お世話係のプライドを賭けた講義!

 虹色の魔力「生活魔法(マスター・ドメスティック)」に目覚めてから数日。俺の日常は、便利になったというよりは、さらに「賑やか」を通り越して「激動」の渦中にあった。指先一つで頑固な油汚れが消え、シーツは常に新品同様の弾力を保つ。掃除の時間は劇的に短縮されたが、その分、浮いた時間はすべて七賢者たちの「お世話(という名の甘えタイム)」に吸収されていた。だが、そんな平和な魔導塔の静寂を切り裂くように、今朝、塔の正門前には見たこともないほど豪華な、王立魔導アカデミーの紋章を刻んだ魔導馬車が連なっていた。

「……何の騒ぎだ? 買い出しに行けないじゃないか」

 エプロン姿のまま玄関ホールへ向かうと、そこには十数名の精鋭魔導師たちを従えた一人の男が立っていた。細身の体に、仕立ての良い漆黒の教授服。眼鏡の奥に潜む知的な瞳は、再会した瞬間に冷徹な光を放った。

「久しいな、アルト。……いや、今は『お世話係』と呼ぶべきか」

 ヴィンセント。かつて王立魔導学院で俺と首席を争い、共に「国の双翼」とまで謳われた、俺の親友であり、最大のライバルだった男だ。

「ヴィンセント……? どうしてこんなところに」

「決まっているだろう。君を連れ戻しに来た。君ほどの『全属性適合者』が、このような人里離れた塔で、女たちの身の回りの世話にうつつを抜かしているなど、歴史的な冒涜だ。アカデミーの理事会も、君の『変異した魔力』に注視している」

 ヴィンセントは、俺の指先から漏れる微かな虹色の残光を凝視した。

「聞いたぞ。何やら奇妙な、戦闘にすら使えぬ『生活魔法』とやらに目覚めたそうじゃないか。滑稽だよ、アルト。君のその稀代の回路が、雑用をこなすための道具に成り下がるなど。さあ、戻るんだ。君の魔導を、私が再構築(リビルド)してやる」

「……悪いけど、ヴィンセント。俺はここを離れるつもりはないよ。今の俺にとって、この魔法こそが――」
「黙れッ!」

 ヴィンセントが、激昂と共に杖を振り抜いた。瞬間、彼の背後に巨大な魔法陣が展開され、超高熱の『火の鳥(フレア・フェニックス)』が形成される。

「君が自分の価値を忘れたというなら、力ずくで思い出させてやる! 君のその『おままごと魔法』が、真の魔導の前にいかに無力かを知るがいい!」

 絶叫と共に、火の鳥が俺を焼き尽くさんと襲いかかる。背後で、騒ぎを聞きつけたフレア様やシエル様たちが飛び出してくるのが分かった。

「アルトに手を出すな、この眼鏡男!」

「……許可なく、アルトを焼くのは、万死に値します」

 彼女たちが魔法で迎撃しようとした、その時。俺の体が無意識に反応した。かつての天才としての直感ではない。数年間、染み付いた「お世話係」としての本能だ。目の前の火の鳥が、まるで「換気不足で煙たい厨房」のように見えた。

「……あ、換気(ベンチレーション)と、埃払い(ダスト・パージ)」

 俺は指先を軽く払い、虹色の魔力を放った。
 
 ――シュンッ!

 虹色の風が吹き抜けた瞬間、会場の空気が一変した。ヴィンセントが放った最高位の攻撃魔法は、着弾する直前、虹色の光に包まれて霧散した。……いや、霧散したのではない。それは、「不快な熱気」を完全に取り除いた「心地よい暖房の風」へと浄化され、さらにはヴィンセントの教授服に付着していた数年前の微細な汚れや、彼の精鋭たちが纏っていた旅の砂埃までもを一瞬で消滅させたのだ。

「な……な、なんだと!? 私の『火の鳥』が……解体されたのか? 攻撃性がないのに、術式そのものが『清掃』された……!?」

 ヴィンセントが、呆然と自分の杖を見つめた。彼の背後にいた魔導師たちも、自分たちの服が新品同様にピカピカになっていることに気づき、混乱の極致にいた。

「……アルト。アンタ、今、攻撃魔法を『換気』したの?」

「……ええ。なんだか、空気が淀んでいた気がして」

 俺が苦笑いして答えると、シエル様とルミナ様が顔を見合わせ、それから不敵な笑みを浮かべた。

「ふふ……。ヴィンセント教授、とおっしゃいましたかしら。私たちの自慢の家庭教師(アルト)に、アカデミーの古臭い理論を押し付けようとした無礼、許しがたいですが……」

 ルミナ様が、完璧な聖女の微笑みでヴィンセントに近づく。

「せっかく遠くからお越しいただいたのです。アルトさんの『生活魔法』の真髄を、身をもって体験していただこうではありませんか。さあ、塔の中へ。おもてなし(処刑)の時間ですわ」

 一時間後。塔の応接室には、毒気を抜かれてソファに沈み込んでいるヴィンセントと、彼の部下たちの姿があった。俺は「生活魔法」を駆使して、彼らへの「おもてなし」を開始した。
 
「どうぞ、ヴィンセント。虹色の魔力で茶葉の苦味を抽出し、甘みだけを極限まで引き出した特製の紅茶です」

「……フン、こんなもの。私は最高級の宮廷茶しか認めな……っ、は、あぁぁ……っ!?」

 一口啜った瞬間、ヴィンセントの眼鏡が曇った。虹色の光を纏った雫が彼の身体を駆け巡る。生活魔法の効果は絶大だ。長年の研究で凝り固まった肩こりが一瞬で消滅し、精神的なストレスが強制的に浄化されていく。

「何だ……このお茶は……! 脳内のニューロンが、優しく……、優しく洗われていくようだ。思考が、かつてないほどにクリアにっ、不本意だ、不本意だが……美味すぎる!」

「……さらに、これ。魔法の、足湯。……重力調整、付き」

 ガイア様が床から出した岩の桶に、俺が魔法で「最適な温度と癒やしの波動」を込めたお湯を注ぐ。ヴィンセントの部下たちは、すでに「あぁ……もう帰れない……」「アカデミーの硬い椅子には戻れない……」と、幸せそうな顔で白目を剥いて脱落していた。

「ヴィンセント教授。貴方の研究している『高難度術式』も素晴らしいですが、アルトのこの魔法は、世界を平和にする力です。どうですか、まだ彼を連れ戻すなんて、野暮なことを言いますか?」

 フレア様が俺の腕に抱きつきながら、勝利を確信したように告げた。ヴィンセントは震える手でカップを置き、俺を――いや、俺の後ろに控える七賢者たちの幸せそうな表情を見つめた。

「……アルト。君は……本気なのか。あの日、君は……魔法界の頂点を、私たちの夢を背負っていたはずだ! なぜ……なぜ捨てた!」

 ヴィンセントが絞り出すように叫んだ。俺は、カップを置いて静かに彼を見つめ返した。

「ヴィンセント。俺は捨てたんじゃない。あの日、彼女たちの『暴走』を止めるために魔導回路を使い果たした時、俺は確信したんだ。俺の本当の役割は、世界を動かすことじゃない。……目の前にいる、こいつらの『笑顔』を守ることなんだって」

 俺は右手に、虹色の魔力を灯した。それは攻撃のための力ではない。誰かの涙を拭い、誰かの疲れを癒やし、誰かの日常を彩るための、世界で最も優しい力だ。

「今のこの生活魔法は、かつての全属性適性よりも、ずっと俺に馴染んでいる。俺は今、お世話係として、世界で一番幸せな魔法使いだよ」

「…………」

 ヴィンセントは、沈黙した。やがて、彼は深いため息をつき、膝を崩した。

「負けだ。完敗だよ、アルト。君の言う通りだ。これほどの『幸福な魔力』を見せつけられては、アカデミーの理論など、ただのゴミクズに見えてしまう……」

 彼は眼鏡を拭い、居住まいを正した。だが、その瞳には、かつてとは違う「別の執着」が宿っていた。

「……だが。この『生活魔法』。極めて興味深い。魔導学的に、未知の領域すぎる。アルト、私は決めたぞ」

「……え、何を?」

「この魔法の正体を解明し、論文にまとめるまでは、私はアカデミーには戻らん! おい、部下たち! 塔の空き部屋を確保しろ! 私も今日からここで、君の『お世話』を研究させてもらう!」

「「「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」」」

 七賢者全員の声が揃った。

「ダメよ! 居候が増えるなんて、アルトの負担が増えるじゃない!」

「……ヴィンセント。……埋める。……今すぐ」

「あらあら、ヴィンセント教授。私たちのアルトさんを独占する時間は、秒単位で予約が埋まっておりますのよ?」

「構わん! 私は雑用でも何でもこなす! アルトのお世話テクニックを盗み、生活魔法の根源を暴くまでは死ねん!」

 結局。王都のエリート教授であったヴィンセントは、その日から塔の「第2のお世話係見習い(自称)」として、カイルと一緒に雑巾を絞る日々をスタートさせた。
 
 俺の虹色の魔力は、かつての親友さえも「お世話」の魔力で骨抜きにしてしまったらしい。
 
「……アルト、またお茶。……おかわり」

「お兄様、ヴィンセント先生が廊下で計算式を書き殴ってて邪魔です!」

「あー、もう! 皆さん、廊下は魔法を使わずに静かに歩いてくださいって言ったでしょう!」

 賑やかさは、ついに限界突破した。しかし、塔の内部でのドタバタとは裏腹に、アルトが「第8の属性」に目覚めたという噂は、大陸中の闇の勢力をも呼び寄せようとしていた。生活を癒やす魔法。それは、負のエネルギーに蝕まれた者たちにとって、究極の「毒」であり「薬」でもある。
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