25年間の罪と罰

Y.

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第1章 開封の儀

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 錆びたスコップが土を掘り起こすたびに、歓声が上がった。

 藤野葵は、薄い日差しを避けるように目を細めた。彼女の立っている場所は、かつて通った小学校の校庭の、ただの更地だった。二十五年前に卒業した学び舎は、数年前に閉鎖され、今や再開発を待つばかりの野ざらしの土地になっている。

「出たぞ! おい、掘り出し物だ!」

 同窓会幹事の一人である、当時クラスで一番体格が良かった男が叫んだ。赤茶けた土の中から、巨大なプラスチック製の保存容器――タイムカプセルが姿を現す。

 葵は冷めた目でそれを見つめた。今日、この場に集まったのは総勢二十名。四半世紀という時を経ても、皆、一様に「見て見ぬふりをした、あの日の空気」を共有している気がした。

 容器の蓋が開けられると、古い卒業文集、カビ臭い雑誌の切り抜き、そして全員が書いた「未来の自分への手紙」が姿を見せた。ざわめきの中で、悟、当時のクラス委員長だった遠野悟が、どこか落ち着かない様子で周囲を見回しているのを、葵は見逃さなかった。悟は今、地元の市議会議員秘書という安定した職に就いている。

「これ、恵の手紙だ」

 誰かが、くすんだ薄紫の便箋を見つけ、声を上げた。

 瞬間、周囲の空気が凍り付いた。高梨恵。二十五年前、卒業直前に忽然と姿を消し、結局見つからなかった少女だ。当時の報道は「家出」で終わったが、皆、知っていた。あれは、自分たちの罪が生み出した失踪だったと。

 葵は反射的に悟を見た。悟の顔から血の気が引いていた。

「馬鹿な。あいつは……手紙なんて書いてないはずだ」

悟は低い声で呻くように言った。

 葵は悟から手紙を奪うように受け取った。震える文字で書かれたメッセージは、期待とは裏腹に、ごく普通の内容だった。しかし、便箋の隅に、細い鉛筆で書き加えられた、別の言葉を見つけた。

「もし、この手紙を読んでいるのが私じゃなかったら、【25】の秘密を探して」

 そして、手紙の下に無造作に押し込められた、手のひらサイズの黒い物体があった。

「なんだ、これ?」誰かが覗き込んだ。

 それは、時代遅れの、小型のデジタルレコーダーだった。表面には、2000年当時の製造ロットを示すかのような「25-D」という印字が薄く残っている。

 悟は、そのレコーダーを見た途端、獣のような表情に変わり、葵の手から奪おうと手を伸ばしてきた。

「触るな! それは、ただのガラクタだ!」

「ガラクタじゃないわ。これは、二十五年間の、私たちの罪の記録よ」

 葵は悟の手を振り払い、レコーダーの再生ボタンを押した。

『ピー――』

 スピーカーから、砂嵐のようなノイズに交じって、ノイズと共に、過去の、そして現在の音が流れ始めた。それは、二十五年という時間の空白をそのまま映し出す、不気味な証拠物件だった――。
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