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4章
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しおりを挟む恒例となったロクサーヌ様のお屋敷でのお茶会。
今は社交シーズンなので大人数のパーティーが開かれることもあるけれど、今日のメンバーは私とロクサーヌ様とファイラ様、気楽な会だ。
ご息女アキエル様は現在お勉強中なので、終わり次第来られるとのこと。
話題はファイラ様の奉納会のことから、ララの事へと移った。
「なかなか難しいお話ですね。ララ様の父親は、ヴォラリー・イレーグル侯爵夫君なのでしょう?」
ファイラ様がお茶を置きながら言う。
サウス公爵家の力で、ララの出自は確認済み。
「ヴォラリー様もエリザベス様も在学期間が重なっていなくて、あまり詳しくは知らないのよね」
おっとり手を頬にあててロクサーヌ様が言う。
エリザベス・イレーグル侯爵はヴォラリー様の妻であり、現イレーグル家当主。
お二人とも、ロクサーヌ様より少し年上の三十五歳。
「ああそう言えば、私が卒業したあとでヴォラリー様が特別講師として学園に来られていたと聞いたことがあるわ。あの頃は生徒が多かったから人手が必要だったとか。ララ様のお母上は、私よりも少し年下よね。イレーグル侯爵夫君とは学園で出会われたのかしら」
「イレーグル侯爵家と言えば、トーノス様を除くと一番歴史の浅い侯爵家ですよね。確か商人からの成り上がりだったかと」
うちの兄、トーノス・サウス侯爵は初代サウス侯爵になる。
サウス公爵家の分家という扱いになっているんだけど、そのまま「サウス」を名乗っているものだから、ややこしくて仕方がない。
まあ「ブラックソード」とか「エクスカリバー」とか言い出されるよりマシだけど。うちの家系、センスがないからね。
「成り上がりと言っても五代続く侯爵家よ。でもそうね、なんとなく歴史が浅いのを気にしているように感じられることはあったわ」
あら、気持ちがそれてしまっていたわ。
お兄様より今はララのことね。
「パプル男爵もララ様をよく思っておられないのでしょう? 後ろ盾であるルルー様が亡くなられたら、除籍されてしまうかもしれないわね」
「そうですね。学園の入学金もかかりますし」
貴族である以上、十六歳になったら貴族学園に入学させる義務がある。
十七歳になるとデビュタントも控えている。
学費や滞在費、ドレス代などその年頃の貴族子女は特にお金がかかってくる。嫌いな妹の娘の為に莫大な費用を払うほど、パプル男爵家は豊かではない気がする。
「でも爵位がなくなると、今よりもっと危険な目にあうでしょうね」
「そうですね」
悲しいがな、人は平等ではない。
平民の子を誘拐しても大した罪には問われないけど、貴族を誘拐すれば厳重な罰が下される。
これまでララが何度も誘拐されかけたのは、孤児院に貴族が住んでいるなんて思わなかったからだと思う。
今はサウス公爵から警備を出しているけど、それも貴族の安全を守る為。
ララが平民になったら、建前がなくなってしまう。
それでも皇都内の警備をしている部署に誘拐事件多発の報告くらいはできるかな。
北の礼拝堂だけじゃ反感買うだろうし、東西南北の礼拝堂の代表に連絡して治安の報告上げてもらおう。
頭にメモ。
「今は十歳だったかしら? 皇城の子ども茶会にも参加できる年頃だけど」
「後ろ盾であるルルー様が神子である以上、ドレスを買うお金もないでしょう。それに見た目はとにかく、礼儀作法を勉強できていないのでは無理でしょうね」
ファイラ様がバッサリ切る。
厳しいというなかれ、これが現実なのである。
「あ、でも刺繍の腕は抜群ですよ」
私は先日会った時に購入した刺繍入りのハンカチを見せる。
可愛らしいお花と蝶の図案だ。
「へえ、十歳でこれはなかなかですね」
「ええ。刺繍の名手であるサウス公爵夫人にも見てもらったのかしら?」
「いえ、母にはまだ」
「お母様、ただいま戻りました。ロゼアお姉様、ファイラお兄様。ようこそおいでくださりました」
こんこん、と扉がノックされ、ロクサーヌ様に瓜二つの可憐な少女、アキエル様が正式なお辞儀を見せてくれる。
アキエル様は源氏物語で言うところの「秋好中宮」だ。
秋好中宮と言えば、葵上や夕顔を祟り殺した母親と共に斎宮として伊勢へ下り、戻ってきてから光源氏に口説かれつつ冷泉帝の元へ入内するヒロイン。
この世界でも、西隣の国に留学する話が出ていると聞く。
ただし、ここでこうして私とロクサーヌ様がお茶を飲む仲になった今、どうなるのかはわからないけれど。
「今日はなんのお話ですか?」
「孤児院にいる男爵家のご令嬢がね、とても可愛らしい子なのだけれど、このままだとあまり良くないことになりそうなの」
ロクサーヌ様が私の話をかいつまんで説明してくださる。
「そうなんですね。もし貴族学園に入学してくれたらお友達になれるかもしれないので、残念です」
二人は年が近いので、一緒に学園に通うこともあったかもしれない。
ラノベだとどうだったのかな?
「貴族として残ろうと思ったら……ファイラお兄様が養子に取ることはできないんですか?」
アキエル様の言葉にファイラ様が苦笑する。
「私は一代公爵なので、子どもには爵位が残せないんですよ」
「でも、誰かに嫁入りすればいいんですよね? 学園に通うことができれば、結婚相手が見つかるかもしれないし」
「それもそう、ですけど……十歳の女の子を育てられる気がしません」
言い淀むファイラ様。
実はファイラ様は結婚してすぐに奥様を亡くされている。
使用人がいるとはいえ、働き盛りのファイラ様がララを養子にとるのは難しいわよね。
そもそも、縁がなさすぎるし。
「ロゼアお姉様の養子にはできないんですか?」
「猫を拾うのとは話が違うんですよ」
ロクサーヌ様が窘める。
実際、養子に取る事を考えなかったわけではない。んだけど。
「養子に取るとしたら、親か当主の許可がいるでしょう?」
貴族が養子を取るとき。
その目的は大体「政略結婚の駒にするため」だ。
現在ララ様はイレーグル侯爵家からもパプル男爵家からも放置されているけれど、駒になれると気づかれてしまった場合、おそらく結婚できる年まで家に閉じ込められる。
学園は名前だけ入学させておけばいい。
そして卒業したら、縁づきたい家の後妻として送り出す。
彼女の美貌なら、それが可能になる。
今から磨きに磨いて、皇太子に輿入れという手も取れるかも。
貴族籍には残れるだろうけれど、ララはそれで幸せなのかな?
あの明るくて、ちょっぴり寂しがりやな、幸せな結婚に憧れる女の子に、そんな未来は相応しいのかな?
働き手として引き取りたいと言った場合も同じ。
サウス公爵家で働かせるよりは、自分の屋敷で下働きをさせたいと思うんじゃないかな。
この場合も、家から出られない生活が待っているよね。
「気の毒だけど仕方がないわね」
「そうなんですね」
あと考えられる策があるとしたら、ファイラ様が妻に迎えるために、成人まで手元に置いておく、という所だろうか。
一代公爵と縁づくことができるなら……。
ああでも、ララの父親のヴォラリー・イレーグル侯爵夫君も一代公爵の息子なんだわ。
もっと上の、公爵家か皇族じゃないと太刀打ちできないかな……。
我が家に誰か丁度いい人いたかなあ?
お兄様の第三夫人に推薦するとか?
マリーお姉様が黙ってないだろうなあ。
その時ふと思い至った考えがあったんだけど、ちょっと現実味にかけていたので、胸の奥にしまっておくことにした。
ところが、そのほんの数日後、ルルー様が亡くなられたとの情報が入り、事態は急激に動き出したのです。
後書き
VSララ・パプル編もいよいよクライマックスです。
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