初夜に「君を愛することはない」と涙目で言われました

リオン(未完系。)

文字の大きさ
1 / 1

初夜に「君を愛することはない」と涙目で言われました

しおりを挟む
「君を愛することはない」

 そう言った夫はその大きな瞳に今にも溢れそうなほど涙を溜めており、私は言葉を失った。





 私、アルミ・ニーム。昨日まではアルミ・カンノーエ。

 昨日まではカンノーエ伯爵家の次女、そして今日からは次期ニーム伯爵夫人。

 夫であるストロ・ニームとは初等部からの同級生。ではあるが当時はあまり接点はなく、三年前、婚約者となってから改めてはじめましての挨拶をして交流を始めた仲である。

 ストロは本を読むのが好きで、暇さえあればなにか読んでいる。お気に入りは国の英雄譚らしい。大きな瞳が特徴的だが、優れてもない、劣ってもない、至って平凡で真面目な、時々抜けてる次期伯爵。

 私はおしゃべりとお洒落が好きな、ごく普通の伯爵令嬢。ストロはおしゃべり上手ではないが、私の話を静かに聞いてくれるので今のところ特に問題はない。ストロが歴史書を読みふける隣で私が流行りのロマンス小説を読むのは、デートのありふれたワンシーンである。



 話を戻そう。

 今のところストロとは燃えるような愛、はないけれどもそれなりに友好的な関係を築いてきたつもりだったけれど、「愛することはない」なんて言われてしまうとは驚きだ。

 他に好きな令嬢がいるのだろうか?この前読んだ「私の事を愛さないはずの夫にこっそり仕返ししていたつもりが溺愛されていました」は浮気相手を探っていたら実は生き別れの姉で密会の内容は惚気話(もちろんヒロインに対する)だったというオチだったわね。「君を愛することはない」は愛しの妻に緊張し過ぎて言ってしまったという…ちょっと残念なヒーローのお話だったわ。

 もう少し前のブームだった「愛されない妻は夫の呪いを解き明かす」では誰かを愛するとその人が死んでしまう呪いを受けた旦那様に恋した令嬢が聖なる力で呪いを解き改めて夫婦になるというお話で、こちらは「君を愛することはない」が「君を死なせたくない」という意味を持っていたわ。

 さらに前に流行った「戦死するなんてとんでもない!」では戦地へ行く直前に結婚した二人が愛の力で生き延びる話で…この話の「君を愛することはない」とは今から死地へ向かうヒーローが自分が死んでも悲しまないようにという言葉がけなのよね。「それでも私は、貴方と生きていくと決めたのです」というヒロインの返しは最高だったわ…。



 と言うところまで考えて気付く。

 この物語達は全て昔私がストロに熱く語った物語。

 共通点として「君を愛することはない」とヒーローが伝えて、ラストは二人が心から結ばれ、ハッピーエンドで終わる。



 ストロは時々「なんでそうなる?」という大ボケをかますことがある。



「…ねえ、ストロ」

「…なんだ」

「君を愛することはない、って、初夜に必ず言わなくてはいけない台詞ではないのよ?」

 ストロは大きめをさらに大きく開く。ついでとばかりに溜まっていた涙が一粒こぼれ落ちた。

「そうなのか? どんな物語にも出てくるから、てっきり夫婦仲睦まじく過ごすための呪文かなにかかと…」

「それで泣くほど嫌なのに言ってくれたの?」

「…嘘をつくのは思ったより辛くて…」



 私とストロの間には燃えるような愛はないと思っていたけれど。

 どうやら彼は泣くほど、私を愛してくれているようだ。



「もう…」

 そして私もこのちょっと抜けている旦那様が、とても可愛く見えてきた。



 それから私たちは社交界でも密かに憧れられるほどの仲睦まじい夫婦となった。

 「君を愛することはない」、もしかしたら本当に、ハッピーエンドの呪文だったかもしれないわ。



 なんてね。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです

有賀冬馬
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。 けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。 助けた騎士は、王の右腕。 見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。 王城で評価され、居場所を得ていく私。 その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。 「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。 選ばれるのを待つ時代は、終わった。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。

四季
恋愛
お前は要らない、ですか。 そうですか、分かりました。 では私は去りますね。

婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました

有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。 魔力が弱い私には、価値がないという現実。 泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。 そこで目覚めた彼は、私を見て言った。 「やっと見つけた。私の番よ」 彼の前でだけ、私の魔力は輝く。 奪われた尊厳、歪められた運命。 すべてを取り戻した先にあるのは……

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

処理中です...