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伊賀攻め
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緑の木々、豊かな草花。鬱蒼としているが、差し込む木漏れ日はまばゆい。
この森の情景には、畏怖と神々しさが同居していた。
綺麗な泉が湧いており、一頭の若い女鹿がその水を飲んでいる。
「!」
と、不穏な気配を察し、ビクッと頭をあげて耳を澄ます。
迫りくる巨大な殺意。
怯え、駆け去っていく。
伊賀国、阿波村。
森に面した場所に簡素な物見台がある。
「カーン! カーン! クヮーン!」
年老いた野良着姿の男が叩き鳴らす半鐘の音は、まるで恐怖の悲鳴のように響きわたる。
それを掻き消したのは、
「ドウォーーン」
という地鳴りのような鬨の声。
騎馬。
侍。
足軽。
雑兵。
森の中から溢れだした雲霞のごとき軍勢が、怒涛のように丘陵地を駆けおりてくる。
掲げている軍旗には、織田木瓜の紋と〝天下布武〟の文字。
──天正九年九月。
織田方総勢五万による、伊賀国への侵攻。いわゆる〈天正伊賀の乱〉である。
あちこちで激しい戦闘が繰り広げられる。
東部の荒地では、横列している織田の鉄砲隊がいっせいに発砲している。耳をつんざく雷のような銃声。
発砲を終えた一列目の鉄砲隊が、後方で待機していた二列目の鉄砲隊と入れ替わる。訓練で磨かれた機敏な動作。
鉄砲頭が采配を掲げて、
「狙いを定めえ―っ!」
鉄砲足軽隊は火縄銃をいっせいに構える。
「放てぇ―っ!」
再び、凄まじい一斉射撃。
奇襲に失敗して敗走していた伊賀兵たちは、背中を撃たれてバタバタと倒れていく。
織田方が欲しているのは、たんなる勝利ではない。此の国をすり潰すように蹂躙し、壊滅させたうえでの征服だ。
そのためには、最新の兵器をも繰り出す。
織田の陣に備えてある巨大な大砲が、凄まじい轟音とともに火を噴く。
砲弾が塀に命中し、伊賀衆多数がたてこもる丘の上の寺院の一部を破壊する。
もう一方の巨大大砲が、間をおかず凄まじい轟音とともに火を噴く。
またも命中し、破砕して、屋根の半分が倒壊する。
そこへさらに、弓隊が放った火矢が雨あられと降りそそぎ、寺院は激しい炎に包まれる。
──その頃。
伊賀より北へおよそ十五里。安土城、評定の間にて。
重臣二十名が、二列にわかれて対座している。緊迫した空気。軍評定の最中だ。
上段に鎮座しているのは、総大将織田信長。
「ええい、手ぬるい!」
信長はカリスマ的な威圧感を強烈に放ちながら、吠えるように指示する。
「闇夜を跋扈し、卑怯を宗とする魔性の一族に合戦の作法なぞ無用じゃ!」
さらに激しい嫌悪の情をむきだしにして、
「根を断て! 葉を枯らせ! 彼の地に生ける者は、たとえ女子供といえども容赦なく斬り捨てよ!」
再び伊賀。
中央に田畑が広がっており、周囲には転々と民家がある。実に素朴な典型的な伊賀の農村である。
だが今は、織田勢の一方的な襲撃により修羅場と化している。
織田勢は隊列を組まず、兵士各々が好き勝手に凄惨な殺戮を繰り返している。村人たちは恐慌状態に陥り、ただ逃げ惑うだけだ。
民家の陰では、若い娘が織田兵たちに着物を剥ぎ取られ、強姦されようとしている。
畑では、幼子を抱いている女が槍を構えて追ってくる織田兵から必死で逃げている。だがつまづいて転び、背後から織田兵に槍で一突きにされる。その切っ先は胴体を貫通したらしく、泣きわめく幼子をも無惨に沈黙させる。
この森の情景には、畏怖と神々しさが同居していた。
綺麗な泉が湧いており、一頭の若い女鹿がその水を飲んでいる。
「!」
と、不穏な気配を察し、ビクッと頭をあげて耳を澄ます。
迫りくる巨大な殺意。
怯え、駆け去っていく。
伊賀国、阿波村。
森に面した場所に簡素な物見台がある。
「カーン! カーン! クヮーン!」
年老いた野良着姿の男が叩き鳴らす半鐘の音は、まるで恐怖の悲鳴のように響きわたる。
それを掻き消したのは、
「ドウォーーン」
という地鳴りのような鬨の声。
騎馬。
侍。
足軽。
雑兵。
森の中から溢れだした雲霞のごとき軍勢が、怒涛のように丘陵地を駆けおりてくる。
掲げている軍旗には、織田木瓜の紋と〝天下布武〟の文字。
──天正九年九月。
織田方総勢五万による、伊賀国への侵攻。いわゆる〈天正伊賀の乱〉である。
あちこちで激しい戦闘が繰り広げられる。
東部の荒地では、横列している織田の鉄砲隊がいっせいに発砲している。耳をつんざく雷のような銃声。
発砲を終えた一列目の鉄砲隊が、後方で待機していた二列目の鉄砲隊と入れ替わる。訓練で磨かれた機敏な動作。
鉄砲頭が采配を掲げて、
「狙いを定めえ―っ!」
鉄砲足軽隊は火縄銃をいっせいに構える。
「放てぇ―っ!」
再び、凄まじい一斉射撃。
奇襲に失敗して敗走していた伊賀兵たちは、背中を撃たれてバタバタと倒れていく。
織田方が欲しているのは、たんなる勝利ではない。此の国をすり潰すように蹂躙し、壊滅させたうえでの征服だ。
そのためには、最新の兵器をも繰り出す。
織田の陣に備えてある巨大な大砲が、凄まじい轟音とともに火を噴く。
砲弾が塀に命中し、伊賀衆多数がたてこもる丘の上の寺院の一部を破壊する。
もう一方の巨大大砲が、間をおかず凄まじい轟音とともに火を噴く。
またも命中し、破砕して、屋根の半分が倒壊する。
そこへさらに、弓隊が放った火矢が雨あられと降りそそぎ、寺院は激しい炎に包まれる。
──その頃。
伊賀より北へおよそ十五里。安土城、評定の間にて。
重臣二十名が、二列にわかれて対座している。緊迫した空気。軍評定の最中だ。
上段に鎮座しているのは、総大将織田信長。
「ええい、手ぬるい!」
信長はカリスマ的な威圧感を強烈に放ちながら、吠えるように指示する。
「闇夜を跋扈し、卑怯を宗とする魔性の一族に合戦の作法なぞ無用じゃ!」
さらに激しい嫌悪の情をむきだしにして、
「根を断て! 葉を枯らせ! 彼の地に生ける者は、たとえ女子供といえども容赦なく斬り捨てよ!」
再び伊賀。
中央に田畑が広がっており、周囲には転々と民家がある。実に素朴な典型的な伊賀の農村である。
だが今は、織田勢の一方的な襲撃により修羅場と化している。
織田勢は隊列を組まず、兵士各々が好き勝手に凄惨な殺戮を繰り返している。村人たちは恐慌状態に陥り、ただ逃げ惑うだけだ。
民家の陰では、若い娘が織田兵たちに着物を剥ぎ取られ、強姦されようとしている。
畑では、幼子を抱いている女が槍を構えて追ってくる織田兵から必死で逃げている。だがつまづいて転び、背後から織田兵に槍で一突きにされる。その切っ先は胴体を貫通したらしく、泣きわめく幼子をも無惨に沈黙させる。
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