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第一章:慈愛の救世主
五話:呉下の阿蒙
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ガゴォォォン……ォォォン……ォォン……
反射物が無い草原にも関わらず木霊のように音が反響し、少しの余韻を残してやがて鳴り止んだ。
金属が嘶いているような独特の振動が微かに伝わってきたことで、音の出所がおっさんのコブシを覆っている防具であることに気が付く。
「ムゥゥン……ググググ……」
ガードしている腕の隙間から様子を伺うと、おっさんが唸りながら額に汗を滲ませ、苦悶の表情を浮かべていた。
「なる、ほど……ッ」
そして何に納得したのかコクリと頷くと、未だに少しだけブルブル震えている手を引っ込め、メリシアちゃんへと振り返った。
「疑って申し訳ございませんでした。我が力を持ってしても及ばず、確認する術はありませんが……過去に討滅したいずれの宵闇の使徒とも異なりますゆえ、恐れながらそういう類のモノでは無いのでは、と愚推いたします」
「そうか……うん、分かった」
「小僧、いやイマイソウタ。お主のような強者がなにゆえ埋もれていたのかは、あい分からぬ。メリシア様への愚行については、審問の後、しかるべき処遇が言い渡されるであろうが……このオレは強者には相応の敬意を払っている」
「は、はぁ」
「よって、審問による沙汰が降りた後、ここを訪ねよ」
話しながら、腰にぶら下げた袋から羽がついたペンとインク、丸まった紙を取り出して、チマチマ何かを書き込んでから差し出してきた。
「なに、悪いようにはせん……待っておるぞ」
いったい何が起きたのか?
おっさんは何を言っているのか?
訳が分からず呆気に取られている俺の手に半ば強引にその紙を握らせると、おっさんは踵を返して馬的生物の所へと戻っていった。
間髪入れずに横付けされた、見るからに豪奢な馬車へとメリシアちゃんが乗り込んだため、無意識に後を追う……が、すぐに俺の方へ兵士が駆け寄ってきて、メリシアちゃんが乗ったモノとは造りが違う貧相な馬車、というか荷車へと促された。
ですよねー。
「帰還するぞ!」
おっさんの号令で荷車が動き出す……恐らくあの建造物へと行くのだろう。
未舗装の道をそれなりの速度で進む荷車にガッタンゴットン揺られながら、俺は今まで起きた一連の出来事を改めて思い返した。
メリシアちゃんは、多分めちゃ身分の高い人で、トルキダスのおっさんはかなりの武人なのだろう。
そんな二人の会話に……おっさんが言った強者という言葉……。
「さっきは、マジに殴られてたってことか?」
呟いて、あまりの有り得なさに自嘲気味に笑う。
「ぷっ……しかも強者とか言ってたよな。喧嘩もまともにしたことがないのに?」
しかし、ちょっと力を入れるだけで鎧を引き裂きスマホを握り潰すような俺が、自分の頬を割と強めにつねった時は普通に痛いくらいで済んだのだ。おっさんのパンチに身じろぎ一つしなかったことも、一応頷けなくはない。
……もしかして、単純に力が強いってだけじゃなく、俺は本当にとんでもない能力を持っているんじゃないのか?
そんな自惚れた気持ちが沸々と湧いてくる、が
「……そういうことじゃないだろ。メリシアちゃん殺そうとしてるから」
と、すぐに自戒する。
昔から自分の……こういう空気の読めないところが好きになれない。
学生時代にもそれが原因で友人を一人失ってるっていうのに、全く懲りないな――なんて、そのときの苦い記憶がよみがえる。
あれは高校二年の秋だったか。
友人とその彼女が一緒にいるところに、そいつの彼女だと気付かずいつもの感じで結構どぎつい陵辱エロゲー話を持ち掛けてしまい、それがキッカケで二人は別れることになってしまった。
その友人は「あれくらいのジャブ一発で沈むような関係ならどうせ長くもたなかったよ」と、力なく笑って許してくれた。
しかしその数日後、やはり目に見えて落ち込んでいる友人の元気を出させようと、恋愛ゲーの選択肢を間違えて最初からやり直しになった話などしたものだから「てめぇは呉下の阿蒙だな」と言われ……それっきり距離を置かれるようになった。
ごかのあもう……その場では意味が分からなかったが、帰宅後調べてみたら”同じ失敗を繰り返して全く成長しない奴”という意味だと知って、俺にピッタリだと思った。
そもそも俺が別れさせたようなものなのに、その本人がゲーム感覚で捉えていたというのも問題な上、ゲームと違って現実にはコンティニューという概念が無いのだから怒るのは当然である。
良い奴だったのに――
「はぁ、馬鹿は死んでも直らないんだな……」
一人、馬車の中で荷物と一緒に揺られながら鬱々としていると、徐々に揺れが小さくなり、やがて止まった。
「降りろ」
兵士が後ろの天幕の隙間から顔を覗かせ短くそう言うと、荷物留めの板を外し降り易いようにしてくれる。
てっきり手錠みたいなものをはめられて無理矢理に連行されていくのだと思っていたが、特にそんなことはなく、降りて周囲を見回すと兵士たちがこっちをチラチラ盗み見ながら、むしろ色めき立っているのが分かった。
おっさんとの一件が良い意味でも悪い意味でも効いているようだ。
「メリシア様、巡礼お疲れ様でした」
不意に、目の前の数十段ある階段の上から男の声が響き渡ってきた。
距離にするとここから三十メートルから四十メートルはありそうだが、別段張り上げたような声でもない割にはっきり聞こえたため不思議に思って周囲を見回してみると、コンサートホールのような感じで扇形になっている広場を、背の高いレンガ作りの建物が囲っていた。
なるほど、声が反響するようにちゃんと計算されてんだな……などと感心半分、興味半分でキョロキョロ見ていると、おっさんがズシズシとメリシアちゃんの馬車まで移動し、扉の横でひざまずいた。
次いで、兵士が扉を開け歩哨の様に馬車の横に立つ。
「ご苦労」
メリシアちゃんが扉を開けた兵士とおっさんに向けて労いの言葉を掛け、ゆったりと馬車を降りてから階段に向けて歩き出した。
すると兵士が一斉に走り出し、メリシアちゃんが階段を上るか上らないかくらいのタイミングで、一段一段の両隅にスッスッと待機していく。
それをいつの間にか顔を上げていたおっさんが跪いたまま見守っている。
その一連の動作、所作が演劇じみていて美しく、つい見入ってしまう。
「歩け」
そんな荘厳な雰囲気に水を差すように背後から声を掛けられ、我に返る。
慌てて歩き出すと両脇に別の兵士がやって来てピッタリとマークされ、そのまま階段も一緒に上りはじめた……のだが、ちょっと待って。これめちゃくちゃ恥ずかしい。
メリシアちゃんほどの美人なら絵になるだろうが、こんなショボいルックスの微ヲタリーマンがこの状況で、いったいどんな顔をすればいいというのか。
一気に駆け上がりたいところだったが、前を行くメリシアちゃんを抜き去るわけにもいかず、一段ずつゆっくり踏みしめることになる。
もう勘弁してくれ、と四回くらい思ったところでようやく上りきると、目の前に先ほど声をかけてきたと思われる男――いかにもモテそうな塩顔の優男――がいて、メリシアちゃんに恭しく頭を下げているところだった。
「おかえりなさいませ」
「エリウス、審問の用意をしろ」
「審問、ですか……それはまた、理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「宵闇の使徒の疑義がある者を連行した。真偽を見定めて欲しい」
「さて。枢機卿のメリシア様が見抜けぬ事象を、我々信徒が見定めるなどおこがましいことではございますね」
「世辞はいい、急げ」
「かしこまりました。それでは参りましょう」
見事なステンドグラスが前面に配され、天使っぽいアレや、神様っぽいソレの彫刻がいたる所に施された、これぞ大聖堂といった趣の建物へと促されて後に付いていく。
中は意外にも明るく、礼拝者用と思われる長椅子が連なった先には一段高くなっている箇所があり、祭壇や説教台のようなものも置いてある。
天井には羽が生えた四人の従者を引き連れた騎士が恐ろしげな怪物と戦う様子が美しく描かれていて、テレビなどで時々見かける、バチカンとかにあるキリスト教のでかい教会に雰囲気が似ているように感じる。
しかし、十字架などのシンボルや、仏像のようなハッキリとした信仰対象のようなものが見当たらないため、何を信仰しているのかまでは分からない。
偶像崇拝禁止の宗教なのだろうか。
「どうぞ、こちらです」
物珍しさから、美しい装飾の数々に思わず目を奪われていると、説教台の脇にあった両開きの立派な扉が開いて、エリウス、メリシアちゃん、修道士、兵士と次々に中へ入っていく。
列の最後尾にいる俺が扉を通ると、背後で扉が閉じる重い音が響いた。
「メリシア様はこの部屋で暫しお待ちください」
扉を抜けてすぐの十字路を右に曲がったところには比較的こじんまりとした扉があり、丁度エリウスがメリシアちゃんを招き入れているところだった。
反射的に部屋の中を覗き込もうとして体を傾けたところで
「お前はそのまま真っ直ぐ進め」
と、隣にいる兵士から言われ、慌てて視線を前に戻す。
廊下の突き当たりには天井に達するほど馬鹿でかい扉があり、両脇にいた兵士が二人がかりで扉を押し開く。
「なんだ……ここ……」
扉の先にあったのが、想像と違い部屋と呼ぶには広すぎる空間だったため、驚愕が口から漏れ出てしまう。
無駄に高い天井の端には左右とも通路があり、弓を持った重武装の兵士が等間隔に立っている。
窓は壁の一番下に通気用と思われる小さなモノが点々と並んでいて、全体的にちょっとした体育館みたいな作りになっているようだ。
正面奥の四~五メートル高くなった場所には段差が三段有り、それぞれ長机と椅子が用意されていて、両脇の扉からどこか儀式じみた黒い服を着た男女がゾロゾロと入ってきては、奥のほうから順番に席を埋めていく。
俺はその広い空間の手前、入ってきた扉からだと十数歩進んだ場所にある台の上に登らされ、台と鎖で繋がっている鉄製の枷を両手首にはめられた。
なるほど――いかにもこれから裁判しますみたいな様相を呈してきたな。
反射物が無い草原にも関わらず木霊のように音が反響し、少しの余韻を残してやがて鳴り止んだ。
金属が嘶いているような独特の振動が微かに伝わってきたことで、音の出所がおっさんのコブシを覆っている防具であることに気が付く。
「ムゥゥン……ググググ……」
ガードしている腕の隙間から様子を伺うと、おっさんが唸りながら額に汗を滲ませ、苦悶の表情を浮かべていた。
「なる、ほど……ッ」
そして何に納得したのかコクリと頷くと、未だに少しだけブルブル震えている手を引っ込め、メリシアちゃんへと振り返った。
「疑って申し訳ございませんでした。我が力を持ってしても及ばず、確認する術はありませんが……過去に討滅したいずれの宵闇の使徒とも異なりますゆえ、恐れながらそういう類のモノでは無いのでは、と愚推いたします」
「そうか……うん、分かった」
「小僧、いやイマイソウタ。お主のような強者がなにゆえ埋もれていたのかは、あい分からぬ。メリシア様への愚行については、審問の後、しかるべき処遇が言い渡されるであろうが……このオレは強者には相応の敬意を払っている」
「は、はぁ」
「よって、審問による沙汰が降りた後、ここを訪ねよ」
話しながら、腰にぶら下げた袋から羽がついたペンとインク、丸まった紙を取り出して、チマチマ何かを書き込んでから差し出してきた。
「なに、悪いようにはせん……待っておるぞ」
いったい何が起きたのか?
おっさんは何を言っているのか?
訳が分からず呆気に取られている俺の手に半ば強引にその紙を握らせると、おっさんは踵を返して馬的生物の所へと戻っていった。
間髪入れずに横付けされた、見るからに豪奢な馬車へとメリシアちゃんが乗り込んだため、無意識に後を追う……が、すぐに俺の方へ兵士が駆け寄ってきて、メリシアちゃんが乗ったモノとは造りが違う貧相な馬車、というか荷車へと促された。
ですよねー。
「帰還するぞ!」
おっさんの号令で荷車が動き出す……恐らくあの建造物へと行くのだろう。
未舗装の道をそれなりの速度で進む荷車にガッタンゴットン揺られながら、俺は今まで起きた一連の出来事を改めて思い返した。
メリシアちゃんは、多分めちゃ身分の高い人で、トルキダスのおっさんはかなりの武人なのだろう。
そんな二人の会話に……おっさんが言った強者という言葉……。
「さっきは、マジに殴られてたってことか?」
呟いて、あまりの有り得なさに自嘲気味に笑う。
「ぷっ……しかも強者とか言ってたよな。喧嘩もまともにしたことがないのに?」
しかし、ちょっと力を入れるだけで鎧を引き裂きスマホを握り潰すような俺が、自分の頬を割と強めにつねった時は普通に痛いくらいで済んだのだ。おっさんのパンチに身じろぎ一つしなかったことも、一応頷けなくはない。
……もしかして、単純に力が強いってだけじゃなく、俺は本当にとんでもない能力を持っているんじゃないのか?
そんな自惚れた気持ちが沸々と湧いてくる、が
「……そういうことじゃないだろ。メリシアちゃん殺そうとしてるから」
と、すぐに自戒する。
昔から自分の……こういう空気の読めないところが好きになれない。
学生時代にもそれが原因で友人を一人失ってるっていうのに、全く懲りないな――なんて、そのときの苦い記憶がよみがえる。
あれは高校二年の秋だったか。
友人とその彼女が一緒にいるところに、そいつの彼女だと気付かずいつもの感じで結構どぎつい陵辱エロゲー話を持ち掛けてしまい、それがキッカケで二人は別れることになってしまった。
その友人は「あれくらいのジャブ一発で沈むような関係ならどうせ長くもたなかったよ」と、力なく笑って許してくれた。
しかしその数日後、やはり目に見えて落ち込んでいる友人の元気を出させようと、恋愛ゲーの選択肢を間違えて最初からやり直しになった話などしたものだから「てめぇは呉下の阿蒙だな」と言われ……それっきり距離を置かれるようになった。
ごかのあもう……その場では意味が分からなかったが、帰宅後調べてみたら”同じ失敗を繰り返して全く成長しない奴”という意味だと知って、俺にピッタリだと思った。
そもそも俺が別れさせたようなものなのに、その本人がゲーム感覚で捉えていたというのも問題な上、ゲームと違って現実にはコンティニューという概念が無いのだから怒るのは当然である。
良い奴だったのに――
「はぁ、馬鹿は死んでも直らないんだな……」
一人、馬車の中で荷物と一緒に揺られながら鬱々としていると、徐々に揺れが小さくなり、やがて止まった。
「降りろ」
兵士が後ろの天幕の隙間から顔を覗かせ短くそう言うと、荷物留めの板を外し降り易いようにしてくれる。
てっきり手錠みたいなものをはめられて無理矢理に連行されていくのだと思っていたが、特にそんなことはなく、降りて周囲を見回すと兵士たちがこっちをチラチラ盗み見ながら、むしろ色めき立っているのが分かった。
おっさんとの一件が良い意味でも悪い意味でも効いているようだ。
「メリシア様、巡礼お疲れ様でした」
不意に、目の前の数十段ある階段の上から男の声が響き渡ってきた。
距離にするとここから三十メートルから四十メートルはありそうだが、別段張り上げたような声でもない割にはっきり聞こえたため不思議に思って周囲を見回してみると、コンサートホールのような感じで扇形になっている広場を、背の高いレンガ作りの建物が囲っていた。
なるほど、声が反響するようにちゃんと計算されてんだな……などと感心半分、興味半分でキョロキョロ見ていると、おっさんがズシズシとメリシアちゃんの馬車まで移動し、扉の横でひざまずいた。
次いで、兵士が扉を開け歩哨の様に馬車の横に立つ。
「ご苦労」
メリシアちゃんが扉を開けた兵士とおっさんに向けて労いの言葉を掛け、ゆったりと馬車を降りてから階段に向けて歩き出した。
すると兵士が一斉に走り出し、メリシアちゃんが階段を上るか上らないかくらいのタイミングで、一段一段の両隅にスッスッと待機していく。
それをいつの間にか顔を上げていたおっさんが跪いたまま見守っている。
その一連の動作、所作が演劇じみていて美しく、つい見入ってしまう。
「歩け」
そんな荘厳な雰囲気に水を差すように背後から声を掛けられ、我に返る。
慌てて歩き出すと両脇に別の兵士がやって来てピッタリとマークされ、そのまま階段も一緒に上りはじめた……のだが、ちょっと待って。これめちゃくちゃ恥ずかしい。
メリシアちゃんほどの美人なら絵になるだろうが、こんなショボいルックスの微ヲタリーマンがこの状況で、いったいどんな顔をすればいいというのか。
一気に駆け上がりたいところだったが、前を行くメリシアちゃんを抜き去るわけにもいかず、一段ずつゆっくり踏みしめることになる。
もう勘弁してくれ、と四回くらい思ったところでようやく上りきると、目の前に先ほど声をかけてきたと思われる男――いかにもモテそうな塩顔の優男――がいて、メリシアちゃんに恭しく頭を下げているところだった。
「おかえりなさいませ」
「エリウス、審問の用意をしろ」
「審問、ですか……それはまた、理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「宵闇の使徒の疑義がある者を連行した。真偽を見定めて欲しい」
「さて。枢機卿のメリシア様が見抜けぬ事象を、我々信徒が見定めるなどおこがましいことではございますね」
「世辞はいい、急げ」
「かしこまりました。それでは参りましょう」
見事なステンドグラスが前面に配され、天使っぽいアレや、神様っぽいソレの彫刻がいたる所に施された、これぞ大聖堂といった趣の建物へと促されて後に付いていく。
中は意外にも明るく、礼拝者用と思われる長椅子が連なった先には一段高くなっている箇所があり、祭壇や説教台のようなものも置いてある。
天井には羽が生えた四人の従者を引き連れた騎士が恐ろしげな怪物と戦う様子が美しく描かれていて、テレビなどで時々見かける、バチカンとかにあるキリスト教のでかい教会に雰囲気が似ているように感じる。
しかし、十字架などのシンボルや、仏像のようなハッキリとした信仰対象のようなものが見当たらないため、何を信仰しているのかまでは分からない。
偶像崇拝禁止の宗教なのだろうか。
「どうぞ、こちらです」
物珍しさから、美しい装飾の数々に思わず目を奪われていると、説教台の脇にあった両開きの立派な扉が開いて、エリウス、メリシアちゃん、修道士、兵士と次々に中へ入っていく。
列の最後尾にいる俺が扉を通ると、背後で扉が閉じる重い音が響いた。
「メリシア様はこの部屋で暫しお待ちください」
扉を抜けてすぐの十字路を右に曲がったところには比較的こじんまりとした扉があり、丁度エリウスがメリシアちゃんを招き入れているところだった。
反射的に部屋の中を覗き込もうとして体を傾けたところで
「お前はそのまま真っ直ぐ進め」
と、隣にいる兵士から言われ、慌てて視線を前に戻す。
廊下の突き当たりには天井に達するほど馬鹿でかい扉があり、両脇にいた兵士が二人がかりで扉を押し開く。
「なんだ……ここ……」
扉の先にあったのが、想像と違い部屋と呼ぶには広すぎる空間だったため、驚愕が口から漏れ出てしまう。
無駄に高い天井の端には左右とも通路があり、弓を持った重武装の兵士が等間隔に立っている。
窓は壁の一番下に通気用と思われる小さなモノが点々と並んでいて、全体的にちょっとした体育館みたいな作りになっているようだ。
正面奥の四~五メートル高くなった場所には段差が三段有り、それぞれ長机と椅子が用意されていて、両脇の扉からどこか儀式じみた黒い服を着た男女がゾロゾロと入ってきては、奥のほうから順番に席を埋めていく。
俺はその広い空間の手前、入ってきた扉からだと十数歩進んだ場所にある台の上に登らされ、台と鎖で繋がっている鉄製の枷を両手首にはめられた。
なるほど――いかにもこれから裁判しますみたいな様相を呈してきたな。
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