第四創世主は殺人衝動を性欲で捻じ伏せるらしい~最強の力を得た凡人、仕方なくイヤイヤ成り上がっていったら世界を救うことになりました~

文場凡

文字の大きさ
8 / 120
第一章:慈愛の救世主

六話:審問

しおりを挟む
 「これより、イマイソウタへの審問をはじめる」

 真ん中に座っている老齢の男性――裁判長的な位置付けだろうか――が声高に宣言する。

 「エリウス大司教、メリシア枢機卿の両名はこれへ」

 上半身だけで振り返ると、背後の扉が開き、エリウスとメリシアちゃんが入ってくるのが見えた。
 エリウスは変わった様子が見られないものの、メリシアちゃんは眉間に深いしわを寄せて、何やら深刻そうな表情をしている。
 二人はそのままこちらを一瞥もせず通り過ぎると、裁判長っぽいジイさんと俺の、ちょうど中間くらいのところで止まった。

 「メリシア・コーネルス、まかり越しました」
 「エリウス・フリュイアーノ、まかり越しました」
 「メリシア枢機卿、宵闇の使徒としての疑いがある者を連れてきたというが、その経緯から説明して貰っても良いかな」
 「はい、巡礼中に野営していたところ、突然襲われ、さらに聖鎧せいがいフェスティスをまるで真綿の如く引き裂かれ……失いました」

 そこで、ザワザワと動揺の声が広がる、と――

 「聖鎧フェスティスにはシャイア様の加護が宿り、この聖堂にて代々継承されてきた聖なるまといのひとつでした」

 その声を掻き消すかのように、エリウスが芝居じみた演説をはじめる。

 「聖典には、宵闇の使徒はおよそ人とは思えない力を持ち、対話は出来ず、その姿はまさしく破壊と殺意に塗れ穢れた存在である、とあります」

 後ろにいる俺を振り返りもせずに片手だけで指す。

 「しかし、イマイソウタとは一応の対話が可能、さらに今の所は従順のように装っておりますので、一旦話を聞いてみてもよろしいかと考えますが、いかがでしょう」

 それを受けて、ジイさんが口を開いた。

 「そうじゃな……イマイソウタ、申し開きはあるか」
 「えっ、えーと、ちょっとその前に……審問って、今やってるこの裁判みたいなことがそうなんでしょうか」
 「……他国では人が人を裁くようじゃが、我々は違う。シャイア様の加護の元で真実を求め、聖典に従い教えを説き、人ではなく穢れを罰するのが、ここオールタニアでの審問となっておる」
 「な、なるほど……」

 それって裁判と何が違うんだ?
 もっともらしく言い回しても、結局、人が人を裁いてるのには変わり無いような……と思ったが、そんなことはとても言える空気ではない。
 というかそもそも何をどこまで、どうやって申し開けばいいんだ。
 メリシアちゃんへの暴行について? どうしてあんなことをしたのか自分でも分からん。
 鎧を壊したことか? 脱がし方が分からなかったからだが、言い訳にすらならないだろう。
 俺がヨイヤミのシトとやらじゃないことについての説明をすればいいのか? ヨイヤミのシトが何なのかがそもそも分からん。
 グルグルと思考がまわってるようで、その実、堂々巡りを繰り返すだけの脳は、早くも限界を迎えようとしていた。

 「イマイソウタ、宵闇の使徒としての自覚はあるか?」

 自分の裁判だというのに自己弁護をしようとしない俺を見かねたのか、メリシアちゃんが助け舟を出してくれた。

 「いや、無い、です。というより、さっきの話からすると、そもそもそういうヤツだったら会話にならないんですよね? なら俺じゃないと思うのですが……」
 「ふむ、メリシア枢機卿への暴挙についてはどうじゃ?」
 「鎧を壊したり、メリシアちゃんを殺そうとしたことは事実です……心から反省しています。ただ、そのときのことは俺自身、状況が把握できてなくてワケが分からなかったというか、混乱していたのもあるかもしれませ――」

 ウソを言ってもしかたが無いし、自分がやってしまったことについては罪を償わなければいけないと思っているため、本当のことだけを真摯に話していると、エリウスが遮るようにして口を挟んできた。

 「――この、本人でも自覚できない突然の殺意。そして異常ともいうべきその膂力りょりょくが、何よりの証拠では無いかと私は考えます。確かに聖典には対話ができないとありますが、メリシア様曰く、目の前に突然現れ、言葉を交わしている最中に前触れ無く襲われたそうです」

 時折、身ぶりや手振りを交えながら大仰に続ける。

 「そもそも……聖鎧を破壊できたことのみをもってしても、宵闇の使徒であると断ずるに疑いの余地は無いのではございませんか?」
 「この者が暴れたのは一度キリで、ここまでの道程では大人しくしていた事実についてはどう説明する」

 結論を急ぐかのようにまくしたてるエリウスをたしなめるように、メリシアちゃんが再度助け舟を出してくれた。

 「それについ――」
 「お言葉を返すようですが、回数の問題ではございません」

 説明をするため口を開こうとするが、再び遮られる形でエリウスが発言し始める。
 ははぁん、こいつ俺に弁解させる気ねぇなクソッタレ!

 「信徒同士による喧嘩ならいざ知らず、枢機卿への暴行とあらば、もちろん一度たりとて許されるものではございません」
 「クッ……枢機卿は特権階級というわけではない、単なる職務だ! ソレに害したからという理由で宵闇の使徒だと断ずるのは教義に反すると言っている!」
 「では聖鎧損失については如何お考えでしょうか」
 「それ、は……」
 「ワタクシの考えですと、聖鎧の纏うシャイア様の加護に、その堕落した邪悪な精神が反応を示したのではないか、と」
 「それこそ貴様の思い込みだ! フェスティスへ付与された加護は――」
 「静粛に。神の御前である」

 裁判長っぽい爺さんが少し荒げた声で制止すると、メリシアちゃんは舌打ちするかのように息を吐き出し、下を向いた。
 どうも、自分が殺されそうになったのにも関わらず、その当事者を庇おうとしてくれているらしい心優しい聖女メリシアちゃんに対して、塩顔薄ら笑いはそれを阻止せんとしているようだ。
 自分を殺そうとした相手を助けようとするなんて……。
 状況が状況だというのに胸がキュンキュンしてしまうが、ここにきて、メリシアちゃんが眉間に皺を作っていた理由に気付きはじめる。
 恐らく、俺を宵闇の使徒だということにしておきたい塩顔エリウスと、そうしたくないメリシアちゃんという構図が、既に前室で完成していたのだろう。

 「……さて。メリシア枢機卿、そこまで言うのには何か考えがあってのことであろう? 聞かせて貰えるかね」
 「はい、シャイア様の教えに恭順を示すことこそ我が本懐。なれば教典に記載されし事柄のみを鑑み、この者……お方は、宵闇の使徒ではなく……全く別の存在なのでは、というのが私の見解です」
 「ほほぅ。別の存在、というと?」
 「……救主様では、と」

 メリシアちゃんの発言に、壇上がざわつきはじめる。

 「メ、メリシア様?」

 隣にいるエリウスも慌てた様子で、訝しげな視線をメリシアちゃんに送っている。
 裁判長が両脇にいる裁判官達と何ごとかを相談し、暫くしてからこちらに向き直り、咳払いを一つ置いたあと重々しく口を開いた。

 「イマイソウタを宵闇の使徒として認定する。なお、聖宝損壊、第一級者殺人未遂の為、明日、正面広場にて斬首刑を執行する。以上」

 突然にしてアッサリと、審問という名の茶番劇に幕が下ろされた。
 ことここに至っても、余りの現実味の無さに俺の心はどこか冷静だった。
 死んだかと思ったら突然絶世の美少女メリシアちゃんが目の前にいて、さらにそれを殺そうとしたり、スマホを握り潰したり、馬的謎生物に跨ったおっさんにパンチされたり、挙句の果てには裁判のようなものに参加させられた結果が斬首刑て。
 やっぱ夢だコレ。しかもかなり悪夢だから早く目を覚ませ俺。

 「お待ちください! 宵闇の使徒では、いえ斬首とはあまりに――」
 「メリシア様、審問は終了しました」

 メリシアちゃんが抗議の声を上げるが、エリウスがそれを遮る。
 裁判長達はメリシアちゃんの声が聞こえているのかいないのか……いや、アレは聞こえてて無視してるか。そのまま両脇の扉からそそくさと出て行ってしまった。
 冷静沈着なメリシアちゃんがうろたえるのを見て、ムクムクと恐怖心が芽生えてくる。
 先ほど裁判長から言われた斬首という聞き慣れない単語も、メリシアちゃんを介して反芻させられたことで現実味を帯び、飲み込まさせられる。
 終わった。
 再びあの恐怖を味わうことになるのか……トラックに腕と足を吹き飛ばされたあとは? 首だって? ハハッ。
 絶望の谷に落ちていくように血の気が失せていく――が、そこでフッとトルキダスのおっさんが言っていたことを思い出した。

 「……沙汰が降りたあと来い、とか言ってたよな、確か」

 もしかして、あのおっさんはこうなることを見越していたんじゃないか?
 でなく、って、要はそういうことだよな?

 「そうだよ……でも本当にいいのか? というか、できるのか?」

 そういえばメリシアちゃんの鎧……代々受け継がれてきた、罪状になるくらい大層な代物だったらしい。
 ということは、鉄どころかこの世界に存在する貴重な何かで作られた物だった可能性が高いワケだが、俺はそれを簡単に引き裂いた。
 俺のスマホにしても、軽く握っただけでクシャクシャになっていた。せめてクラウドに保存してある色んなアレを綺麗にしたかった……。
 そして、おっさんのパンチ。
 あんな筋肉モリモリの大男に助走付きで殴られたのに身じろぎ一つしなかった。
 単純に力だけでは言い表せない、異常な出来事の数々……そんな、一昨日から今日にかけて俺の身に起こったことを思い返す。
 しかし……今考えていることを実行に移すと、今度はおっさんに迷惑を掛けるんじゃないか?
 でも、分からないことや知りたいことが大量に残っている今……このタイミングでは、さすがにまだ死ねない。死にたくない。
 俺の身に起こっている不思議な現象は何なのか?
 どうしてこの世界にきたのか?
 なぜメリシアちゃんを殺そうとしたのか?
 メリシアちゃんに彼氏はいるのか?
 ――そんなことも知らないまま死ねるか!
 決意を固め、万歳するような感じで力を篭めながら両腕を持ち上げていく。

 ギン――ビギギン――

 すると、台と手首を繋ぐ鎖がいとも簡単に切れていった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...