17 / 120
第一章:慈愛の救世主
十四話:激昂
しおりを挟む
あれから鍛冶屋には体感で数分もしないうちに着いたのだが……店の入り口は閉ざされていて何度ノックしても誰も出てこず(よくあるらしい)、しかたなく踵を返し、隠れ家近くの道具屋にでも帰りついでに行こうかと歩き出した――そのとき、この街では数少ない見知った顔……エリウスとバッタリ出くわしてしまった。
「おや、メリシア様……と、護衛の方ですかね?」
エリウスは、護衛の方ですかねと言っている時でさえこちらに目を向けない。
最初に見た時もそうだったが、メリシアがいるときはメリシアにだけ視線を合わせている。
なんだこいつ、メリシアに惚れてんのか? 気持ち悪い目で見るんじゃねえ、汚れるだろ。などと、自分のことは棚にあげた上で、目で威嚇する。
「エリウス、このような場所で何をしている」
「いえ、逃走中の宵闇の使徒を捜索中でございましてね」
「貴様が一人で……か?」
おお、メリシアの凛々しい感じが、昨日の今日なのに妙に新鮮に感じる!
今日はデレばっかだったからな。ツン成分も欲しい、いや、ツンばかり欲しい俺としては、砂漠に突然降ってきた雨のように鼓膜へと染み渡ってくる。
「どうやら宵闇の使徒はこの辺りに隠れているようなのですが、なぜか今いる近衛兵達は私の指示通りに動いてくれないものですから」
わざとらしく右手を額にやってから、やれやれと首を振る。
「しかたなく私自ら捜索をしているという訳なのです」
「ふん……ご苦労な事だ。せいぜい頑張って探すがいい」
「はい。メリシア様におかれましても、くれぐれもご用心くださいますよう」
そう言って恭しくお辞儀をすると、エリウスは隠れ家と反対の方角へ歩いていった。
「危なかったですね」
元の調子に戻ったメリシアの声は、しかしまだ緊張を保ったままだった。
「そうなのか?」
「はい、エリウスがここに居たとなると、恐らくトルキダスは既に疑われていると考えて良いでしょう」
「マジか」
忌々しいが、エリウス仕事出来そうな顔してるもんなぁ。
おっさんには迷惑を掛けたくないが……。
「とりあえずは、一旦戻りましょう」
「そうだな、急ごう」
足早に歩き出したその時、おっさんの隠れ家がある方角の路地から、何人もの人が血相を変えて走って来た。
「か、火事だあああぁぁぁぁ!!」
エリウスに会った直後という、このタイミングで……おっさん家のほうで火事?
嫌な予感しかしない。
「行こう!」
「はいっ、ソウタ様は私など気になさらず先に行ってください!」
「えっ? あ、あぁ! 分かった、おっさん家で会おう!」
一瞬、一緒に走り出そうとしてしまったが、メリシアの言葉で力の事を思い出す。
人にぶつかってはマズイ。力は抑え気味に、ひとまず真上に向かって垂直に跳ぶ――が、例に漏れず石畳を円形に凹ませながら建物を大きく超えて跳んでしまった。
メリシアが隠れ家に向かって一直線に走っていくのが眼下に見える。
そのまま視線を道の先のほうに移すと
「くそっ!」
嫌な予感は見事に的中し、おっさんの隠れ家を含めた区画が丸ごと、煙を上げながら燃えているのが見えた。
落下中、ちょうど建物の煙突に脚が届いたため、煙突を蹴って隠れ家まで一気に跳ぼうとする――
バゴンッ!
が、レンガ作りの煙突は、蹴ったところを中心に三分の二程度吹き飛んでしまい、蹴り脚の力が逃げて上手く飛べず、右足だけ伸ばした不恰好な体勢で落下していってしまう。
「くっ、脆過ぎるだろ!」
いや違う、俺が力を入れ過ぎてるんだ!
早く、早く……と気ばかり焦ってしまうが、気付けば周囲は例のスローモーション状態になっていて、落下中に体勢を立て直して再び建物の壁、それも柱が二本重なった丈夫そうなところを狙って跳び直す余裕ができた。
ボヒュ――ゴガガガッ!
今度は上手く跳ぶ事に成功し、風を切りながら隠れ家の手前の道に着地する。
しかし勢いが付き過ぎてすぐには止まれず、石畳を数メートル削ってしまった。
「おっさん! 婆さん!!」
入り口の外から呼びかけてみるが、応答は無い。
先程、かなり手前でメリシアを追い越したため、ここに来るまでもう少しかかるだろう。メリシアには悪いが、到着を待っていては手遅れになりかねない。
緊張からか突然分泌量が増えた唾液をゴクリと飲み込んでから、意を決して家の中へと飛び込む。
「チッ!」
居間には誰もいないか――
「っ……っろ……」
中庭の方から微かに何か……これ人の話し声じゃないか!?
「くっそ、ジャマだ!」
視界が悪く音も聞こえづらい兜を強引に脱ぎ捨て、駆け出しそうになるのを堪えながら足早に中庭へ出ると、さっきまでおっさんがぶら下がっていた木の近くに、上半身裸で、顔も含めて全身タトゥーだらけの男が立っていた。
おっさんは――折れているのか――腕をだらんと下げ、両ヒザを地に付けながらも、男を鋭く見ていた。
「おっ、おっさん! そ、その怪我……大丈夫なのか!? っつーかお前誰だよ!」
「なんだぁ? 野郎のほうかぁ?」
刺青男は見た目通りにガラの悪そうな言葉遣いで、テンプレ通りに下から上へ頭を動かしながら睨み付けてきた。
「ぐっ……来る、でっ……ない……逃げ――ぬぐぅっ!」
おっさんが息も絶え絶えといった様子で必死に力を振り絞りながら何か言い掛けるも、男に腹部を蹴られ、苦しそうに呻きながらうつ伏せに倒れてしまった。
「おっさん!」
「ヒィッヘッヘェ、だっせぇ鎧ぃ、枢機卿の女じゃぁねぇならぁ……殺してもいいよなぁ?」
「さ、せる……ものかっ……」
それを聞いてググッと上体を上げようとするおっさんの背中を、男が心底愉快そうに蹴り潰す。
「ぐがっ……ぐぅっ……」
「や、やめろ!」
「ヒィッヘッヘッヘッヘェ! きんもちいぃ~~!!」
男がグリグリと脚に込める力を強くしていくと、おっさんの口から、苦痛が絶叫となって溢れ出した。
「ッぐがあああぁぁぁ!!」
「ザコをいたぶるのってぇ、なぁんでこんなにぃィキモティイイィんだろうぅなぁぁぁ!? やっぱやめらんねぇぇよぉぉぉホヒィッへッヘッヘェェェ!!」
「トルキダスっ! 無事で――っ!?」
ようやく追い付いたメリシアも中庭に飛び出してきたが、その凄惨な光景を見て思わず息を呑んでいるのが背後から伝わってくる。
「うぐがぁっががあぁっ!!」
人生で初めて聞く、バギッ、バギッゴリッという骨が折れる音と、折れる度に増幅されていくおっさんの……人間の絶叫は、まさに不快そのもので――俺の頭の何かが、プツっと切れた。
「ウッ……ふぅ。あーあー、全部デちまったぁ。おっ? おーおー、こりゃぁすんげぇ乳だなぁ……コイツの次はテメェにぶっかけてやるからよぉ、愉しもうなぁ? ヒィッヘッヘッヘェ」
刺青男が異様に長い舌でジュルリと唇全体を舐めた。
その汚らわしい視線を遮るように、メリシアの前に立ち塞がる。
「ンアァ? なんだぁテメェ。その目ぇ、気にくわねぇなぁアァん?」
「……は」
「なにぃ? きこえねぇよぉ。ブルってんのかぁ?」
「……俺は、今までケンカなんて一度もしたことがない」
「ハアァ?」
着ている鎧をバギバギと八つ当たり気味に剥ぎ取っていく。
「……陰口を言われようと、仕事で手柄を横取りにされようと、母親に初回限定フィギュアを捨てられたときでさえ、キレたことなんかなかった」
「ヒィッヘッヘッヘ、いきなりワケわかんねぇこと話しはじめてんじゃねぇ。てめぇ、イカれてやがんのかぁ?」
脚に着けている鎧以外を力任せに全て剥ぎ取り、大地よ割れろとばかりに右脚を踏み出す。
バガァン――と、車同士が衝突したときのような音を立てて地面にマンホール大の窪みができ、衝撃で右脚の鎧が弾け飛ぶ。
「ソ、ソウタ様……」
「おっさんはこの世界に来て途方に暮れてた俺を助けてくれた……恩人の一人だ」
背後から掛かるメリシアの声も、今だけはどこか遠くで聞こえる喧騒のように耳を素通りしていく。
さらに左脚を踏み出すと、身の内からこぼれ出てくる俺の怒りに恐怖しているかのように再び大地が窪み、大気は震え、最後に残っていた左脚の鎧も砕け散った。
「その恩人を足蹴にしといて――」
「チッ、あーあーうるせぇうるせぇ」
男が俺に向かって一足飛びに間合いを詰めながら、空中で駒のように回転して蹴りを放ってきた。が、間合いを詰めてくるその最初の動きから全てスローモーションで見えているため、避ける必要性を感じずそのまま棒立ちでいる。
「黙らせてやるよぉ!」
「ソウタ様っ!」
ギュドンッ!
左即頭部に男の右脚が炸裂し、衝撃から周囲にブワッと土埃が立つ。
しかし、全力で放たれたであろうその蹴りも、俺にはデコピン程度の威力にしか感じず、当然ピクリともしない。
してやらない。
「な、にぃっ!?」
「無事に帰れるとでも思ってるんじゃないだろうなッッッ!」
生まれて初めての激情に身を委ね、あらん限りに吼えながら、驚愕と恐怖に染まっていく目の前の顔面に怒りの全てを――叩き込む!!
ゴヂャッッッドゴンッッッッ!
「ヘゲッ!?」
コブシが鼻骨を砕き潰す独特の感触が伝わり、その顔面を首から上もろとも吹き飛ばしたのではないかと錯覚するような、およそ肉体同士がぶつかりあったとは思えない衝撃音が一瞬遅れて鼓膜を刺激する。
男の体は跳び回し蹴りの直後で少し宙に浮いていたため、衝撃でクルンクルンと縦方向に凄まじい速度で回転しながら吹き飛んでいく。
瞬間、一度だけ目が合うが、半ば飛び出たその眼球には既に意思の光は宿っておらず、粉砕された犬歯含む前歯上下十二本が唇を突き破って外に露出していて、もはやヒトの顔としての原型を留めていなかった。
ガガッ――ガッガンガンガンッガガガガガガガッ!
勢い衰えず縦方向に回転しながらおっさんの上を飛び越え、不自然に後方へ曲がった頭を何度も地面に叩きつけながら、なおも吹き飛んでいく。
ようやく回転が止まった後は後頭部で地面をガリガリ削りつつ壁に突っ込み、そこでピクリとも動かなくなった。
「おや、メリシア様……と、護衛の方ですかね?」
エリウスは、護衛の方ですかねと言っている時でさえこちらに目を向けない。
最初に見た時もそうだったが、メリシアがいるときはメリシアにだけ視線を合わせている。
なんだこいつ、メリシアに惚れてんのか? 気持ち悪い目で見るんじゃねえ、汚れるだろ。などと、自分のことは棚にあげた上で、目で威嚇する。
「エリウス、このような場所で何をしている」
「いえ、逃走中の宵闇の使徒を捜索中でございましてね」
「貴様が一人で……か?」
おお、メリシアの凛々しい感じが、昨日の今日なのに妙に新鮮に感じる!
今日はデレばっかだったからな。ツン成分も欲しい、いや、ツンばかり欲しい俺としては、砂漠に突然降ってきた雨のように鼓膜へと染み渡ってくる。
「どうやら宵闇の使徒はこの辺りに隠れているようなのですが、なぜか今いる近衛兵達は私の指示通りに動いてくれないものですから」
わざとらしく右手を額にやってから、やれやれと首を振る。
「しかたなく私自ら捜索をしているという訳なのです」
「ふん……ご苦労な事だ。せいぜい頑張って探すがいい」
「はい。メリシア様におかれましても、くれぐれもご用心くださいますよう」
そう言って恭しくお辞儀をすると、エリウスは隠れ家と反対の方角へ歩いていった。
「危なかったですね」
元の調子に戻ったメリシアの声は、しかしまだ緊張を保ったままだった。
「そうなのか?」
「はい、エリウスがここに居たとなると、恐らくトルキダスは既に疑われていると考えて良いでしょう」
「マジか」
忌々しいが、エリウス仕事出来そうな顔してるもんなぁ。
おっさんには迷惑を掛けたくないが……。
「とりあえずは、一旦戻りましょう」
「そうだな、急ごう」
足早に歩き出したその時、おっさんの隠れ家がある方角の路地から、何人もの人が血相を変えて走って来た。
「か、火事だあああぁぁぁぁ!!」
エリウスに会った直後という、このタイミングで……おっさん家のほうで火事?
嫌な予感しかしない。
「行こう!」
「はいっ、ソウタ様は私など気になさらず先に行ってください!」
「えっ? あ、あぁ! 分かった、おっさん家で会おう!」
一瞬、一緒に走り出そうとしてしまったが、メリシアの言葉で力の事を思い出す。
人にぶつかってはマズイ。力は抑え気味に、ひとまず真上に向かって垂直に跳ぶ――が、例に漏れず石畳を円形に凹ませながら建物を大きく超えて跳んでしまった。
メリシアが隠れ家に向かって一直線に走っていくのが眼下に見える。
そのまま視線を道の先のほうに移すと
「くそっ!」
嫌な予感は見事に的中し、おっさんの隠れ家を含めた区画が丸ごと、煙を上げながら燃えているのが見えた。
落下中、ちょうど建物の煙突に脚が届いたため、煙突を蹴って隠れ家まで一気に跳ぼうとする――
バゴンッ!
が、レンガ作りの煙突は、蹴ったところを中心に三分の二程度吹き飛んでしまい、蹴り脚の力が逃げて上手く飛べず、右足だけ伸ばした不恰好な体勢で落下していってしまう。
「くっ、脆過ぎるだろ!」
いや違う、俺が力を入れ過ぎてるんだ!
早く、早く……と気ばかり焦ってしまうが、気付けば周囲は例のスローモーション状態になっていて、落下中に体勢を立て直して再び建物の壁、それも柱が二本重なった丈夫そうなところを狙って跳び直す余裕ができた。
ボヒュ――ゴガガガッ!
今度は上手く跳ぶ事に成功し、風を切りながら隠れ家の手前の道に着地する。
しかし勢いが付き過ぎてすぐには止まれず、石畳を数メートル削ってしまった。
「おっさん! 婆さん!!」
入り口の外から呼びかけてみるが、応答は無い。
先程、かなり手前でメリシアを追い越したため、ここに来るまでもう少しかかるだろう。メリシアには悪いが、到着を待っていては手遅れになりかねない。
緊張からか突然分泌量が増えた唾液をゴクリと飲み込んでから、意を決して家の中へと飛び込む。
「チッ!」
居間には誰もいないか――
「っ……っろ……」
中庭の方から微かに何か……これ人の話し声じゃないか!?
「くっそ、ジャマだ!」
視界が悪く音も聞こえづらい兜を強引に脱ぎ捨て、駆け出しそうになるのを堪えながら足早に中庭へ出ると、さっきまでおっさんがぶら下がっていた木の近くに、上半身裸で、顔も含めて全身タトゥーだらけの男が立っていた。
おっさんは――折れているのか――腕をだらんと下げ、両ヒザを地に付けながらも、男を鋭く見ていた。
「おっ、おっさん! そ、その怪我……大丈夫なのか!? っつーかお前誰だよ!」
「なんだぁ? 野郎のほうかぁ?」
刺青男は見た目通りにガラの悪そうな言葉遣いで、テンプレ通りに下から上へ頭を動かしながら睨み付けてきた。
「ぐっ……来る、でっ……ない……逃げ――ぬぐぅっ!」
おっさんが息も絶え絶えといった様子で必死に力を振り絞りながら何か言い掛けるも、男に腹部を蹴られ、苦しそうに呻きながらうつ伏せに倒れてしまった。
「おっさん!」
「ヒィッヘッヘェ、だっせぇ鎧ぃ、枢機卿の女じゃぁねぇならぁ……殺してもいいよなぁ?」
「さ、せる……ものかっ……」
それを聞いてググッと上体を上げようとするおっさんの背中を、男が心底愉快そうに蹴り潰す。
「ぐがっ……ぐぅっ……」
「や、やめろ!」
「ヒィッヘッヘッヘッヘェ! きんもちいぃ~~!!」
男がグリグリと脚に込める力を強くしていくと、おっさんの口から、苦痛が絶叫となって溢れ出した。
「ッぐがあああぁぁぁ!!」
「ザコをいたぶるのってぇ、なぁんでこんなにぃィキモティイイィんだろうぅなぁぁぁ!? やっぱやめらんねぇぇよぉぉぉホヒィッへッヘッヘェェェ!!」
「トルキダスっ! 無事で――っ!?」
ようやく追い付いたメリシアも中庭に飛び出してきたが、その凄惨な光景を見て思わず息を呑んでいるのが背後から伝わってくる。
「うぐがぁっががあぁっ!!」
人生で初めて聞く、バギッ、バギッゴリッという骨が折れる音と、折れる度に増幅されていくおっさんの……人間の絶叫は、まさに不快そのもので――俺の頭の何かが、プツっと切れた。
「ウッ……ふぅ。あーあー、全部デちまったぁ。おっ? おーおー、こりゃぁすんげぇ乳だなぁ……コイツの次はテメェにぶっかけてやるからよぉ、愉しもうなぁ? ヒィッヘッヘッヘェ」
刺青男が異様に長い舌でジュルリと唇全体を舐めた。
その汚らわしい視線を遮るように、メリシアの前に立ち塞がる。
「ンアァ? なんだぁテメェ。その目ぇ、気にくわねぇなぁアァん?」
「……は」
「なにぃ? きこえねぇよぉ。ブルってんのかぁ?」
「……俺は、今までケンカなんて一度もしたことがない」
「ハアァ?」
着ている鎧をバギバギと八つ当たり気味に剥ぎ取っていく。
「……陰口を言われようと、仕事で手柄を横取りにされようと、母親に初回限定フィギュアを捨てられたときでさえ、キレたことなんかなかった」
「ヒィッヘッヘッヘ、いきなりワケわかんねぇこと話しはじめてんじゃねぇ。てめぇ、イカれてやがんのかぁ?」
脚に着けている鎧以外を力任せに全て剥ぎ取り、大地よ割れろとばかりに右脚を踏み出す。
バガァン――と、車同士が衝突したときのような音を立てて地面にマンホール大の窪みができ、衝撃で右脚の鎧が弾け飛ぶ。
「ソ、ソウタ様……」
「おっさんはこの世界に来て途方に暮れてた俺を助けてくれた……恩人の一人だ」
背後から掛かるメリシアの声も、今だけはどこか遠くで聞こえる喧騒のように耳を素通りしていく。
さらに左脚を踏み出すと、身の内からこぼれ出てくる俺の怒りに恐怖しているかのように再び大地が窪み、大気は震え、最後に残っていた左脚の鎧も砕け散った。
「その恩人を足蹴にしといて――」
「チッ、あーあーうるせぇうるせぇ」
男が俺に向かって一足飛びに間合いを詰めながら、空中で駒のように回転して蹴りを放ってきた。が、間合いを詰めてくるその最初の動きから全てスローモーションで見えているため、避ける必要性を感じずそのまま棒立ちでいる。
「黙らせてやるよぉ!」
「ソウタ様っ!」
ギュドンッ!
左即頭部に男の右脚が炸裂し、衝撃から周囲にブワッと土埃が立つ。
しかし、全力で放たれたであろうその蹴りも、俺にはデコピン程度の威力にしか感じず、当然ピクリともしない。
してやらない。
「な、にぃっ!?」
「無事に帰れるとでも思ってるんじゃないだろうなッッッ!」
生まれて初めての激情に身を委ね、あらん限りに吼えながら、驚愕と恐怖に染まっていく目の前の顔面に怒りの全てを――叩き込む!!
ゴヂャッッッドゴンッッッッ!
「ヘゲッ!?」
コブシが鼻骨を砕き潰す独特の感触が伝わり、その顔面を首から上もろとも吹き飛ばしたのではないかと錯覚するような、およそ肉体同士がぶつかりあったとは思えない衝撃音が一瞬遅れて鼓膜を刺激する。
男の体は跳び回し蹴りの直後で少し宙に浮いていたため、衝撃でクルンクルンと縦方向に凄まじい速度で回転しながら吹き飛んでいく。
瞬間、一度だけ目が合うが、半ば飛び出たその眼球には既に意思の光は宿っておらず、粉砕された犬歯含む前歯上下十二本が唇を突き破って外に露出していて、もはやヒトの顔としての原型を留めていなかった。
ガガッ――ガッガンガンガンッガガガガガガガッ!
勢い衰えず縦方向に回転しながらおっさんの上を飛び越え、不自然に後方へ曲がった頭を何度も地面に叩きつけながら、なおも吹き飛んでいく。
ようやく回転が止まった後は後頭部で地面をガリガリ削りつつ壁に突っ込み、そこでピクリとも動かなくなった。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる