第四創世主は殺人衝動を性欲で捻じ伏せるらしい~最強の力を得た凡人、仕方なくイヤイヤ成り上がっていったら世界を救うことになりました~

文場凡

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第二章:帝国の滅亡

二話:依頼の内容

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 「うむ。しかも我々にうってつけの依頼だ」
 「クロンベルク殿、こちらが例の?」
 「そうだ。オールタニア中央教区枢機卿の剣帝メリシアと、その護衛のイマイソウタだ」
 「おお、かの剣帝殿とお会いできる日が来ようとは……」

 おっさんの後ろから、孫が一人や二人いてもおかしく無さそうな爺さんがひょっこり出てきて、メリシアと握手を交わした。
 ケンテイ……この流れだと剣帝ってことだろうか? メリシアにそんな凄そうな肩書きがあったなんて初めて知った。

 「ロイタージェンを仕切っております、総支配人のカースディル・ロイタージェンと申します。以後、お見知り置きください」
 「メリシアだ。よろしく頼む」
 「して、そちらが護衛の方ですな。なんでも驍勇無双の士だとか」

 ぎょうゆうむそうのし……言ってる意味は良く分からんがなんだか凄そうな二つ名だ!
 仕事とか言ってたから、この世界においてまだ素性の知れない俺のことは、おっさんが適当に盛って話しといてくれたんだろう。

 「今井奏太です。メリシア様の身辺警護をさせていただいております」

 案の定、おっさんからチラっと目配せされたので、とりあえずは話を合わせて置く。
 こういう空気の読み方は、新人時代に教育担当の先輩から散々叩き込まれたので慣れている。

 「カースディル殿、早速準備を整えたいのだが、どこでも良いので数日滞在できるところを手配してはいただけまいか」
 「分かりました。丁度良いところが空いてますので、早速これから案内させましょう。ミルト、頼んだぞ」
 「かしこまりました。それではご案内いたします、どうぞこちらへ」

 先程おっさんの様子を見てくると言ってくれたフロント係の男、ミルトが先導して歩き始めたので、ゾロゾロと後についていく。

 「こちらになります」

 裏口から出てすぐ目の前の、おっさんの隠れ家をさらに綺麗にしたような二階建ての建物の扉を開け、ミルトが招き入れるようにして入り口の横に立つ。
 回りと見比べるとかなり上等な建物に見える……のは、外見だけではないようで

 「おお、素晴らしい」

 いつの間にか中に入っていたおっさんが感嘆の声を漏らした。
 入り口に近づき、おっさんの後ろから覗き込むようにしてパッと見た感じ、家具も食器もかなり質が良さそうな物が一通り揃っているようだった。

 「ご滞在中の諸経費は全て、ロイタージェン付けにしていただいて構わないと主人より仰せつかっておりますので、我が家のようにごゆるりとお過ごしください」

 そう言うと、ミルトがおっさんに何かを渡す。

 「こちら、この宿舎の鍵になります」
 「カースディルに感謝すると伝えてくれ」
 「かしこまりました。それでは、失礼いたします」

 ミルトは見た感じ俺とそんなに変わらない年齢だと思うのだが、相当年季の入ってそうな所作でしっかり体を四十五度傾けてお辞儀すると、裏口から建物の中へと戻っていった。

 「さて、腹が減ったろう。まずは食事だ! 食べながら仕事についての詳しい説明をしよう」
 「それはいいんだけどさ、次から仕事取ってくるならそう言ってから行けよ。一昨日ひとりでいるところを襲われたばっかなんだから、こっちでもなんかあったのかって心配しちまっただろ」
 「ガッハッハッハ、スマンスマン。メリシアに何を言われるか分からんかったのでな」
 「メリシアに? なんで?」

 後ろを振り向くと、メリシアが明らかに不機嫌そうな顔でおっさんを見上げていた。

 「慈愛の救世主であらせられるソウタ様に仕事をさせようだなんて、トルキダスはどうかしています!」

 あらせられるって……え、まさかそんな理由で怒るの?
 トルキダスに視線を戻すと、ホラな? みたいな困り顔をこちらに向けながら両手を上に挙げた。

 「いやいや……メリシア。働かざるもの食うべからずだよ。俺だって仕事くらい――」
 「ソウタ様にもこの際言わせていただきますが、救主様としての自覚が足りません!」

 珍しく俺の言葉をさえぎって、メリシアが反論してきた。

 「じ、自覚……?」
 「救主様の中でも慈愛の救世主様は神に等しきお方。それが金銭のために仕事をされるなど……許されることではありませんっ!」
 「俺は神ってガラじゃないと思うけどな――」
 「ソウタ様!」

 どうやら思っていた以上に創世の救主とやらへ深い畏敬の念を抱いている様子のメリシアに、俺の考えができるだけわかり易く伝わるよう、言葉を選びながら話す。

 「メリシアの気持ちは分かったよ。でも、追われたり文無し宿無しだったりで、現実に俺もメリシアもおっさんも同じように困ってるわけだろ? それは救主かどうかなんて関係なく事実なわけだ」
 「それは……そうですが……」
 「おっさんがいなきゃ文無し宿無しのままだったんだからさ、そこは感謝しよう」

 メリシアはまだ納得できない様子で俯いている。
 しかたがない……少しずるい手になるが、アレを使うか。

 「分かった。俺が神だっていうなら、それは否定しないよ。ただ、俺は二人のことを同じ境遇の仲間だと思ってるから、メリシアもそれを否定しないでくれよ。お互いの考えを押し付けあうのは良くない、だろ?」

 子供を諭すような口調でそう言うとようやく納得してくれたのか、無言でコクリと頷いた。
 メリシア視点だと、神に等しいと信じている存在に対して罰当たりなことをしたおっさんに対する怒りがあるわけだが、その俺から、こう思ってるからこうしよう、と言われては納得せざるを得ないだろう。
 これぞ社会の荒波に揉まれながら培った、今井流論点すり替え説得術だ!

 「よし、そしたらメシ食いに行こうぜ。昨日から何も食べてないから腹が減って死にそうだ」
 「カースディルから薦められた店があるのでな、そこに行くとするか」

 おっさんがそう言うと、後ろからクゥ~と子犬の鳴き声のようなモノが聞こえてきた。
 腹でも空かせて迷い込んできたか? と振り向くと、子犬ではなくメリシアが顔を真っ赤に染めていた。

 「ウチの姫さんも腹空いてるってよ」
 「ソ、ソウタ様っ!」
 「ガッハッハッハ、急ぐか!」
 「む~……」



 オールタニアでおっさんと行った飲み屋でも思ったが、この世界で出てくる料理は結構普通の物が多くて何だかホッとする。
 今しがた食べた物も、レタスとトマトにスライスオニオンがトッピングされたサラダが最初に出てきて、次に炭火の香り漂う太いソーセージやじゃがいもがゴロゴロ入ったポトフと続き、噛み応えは牛肉っぽいのに豚肉の味がする謎肉のガーリックステーキがメインで登場した。
 どれも、元居た世界でもちょっといいカンジの洋食屋に行かないと出てこないような美味しい料理ばかりで、思わずテンションが上がる。
 隣で嬉しそうにあ~んしてくれていたメリシアも、自分の皿に盛られた料理を一通り食べ終わり、今は可愛くチマチマとチーズケーキを食べている。
 そして俺はそんなメリシアを肴に、ビール風味のワインみたいな酒をおっさんと酌み交わしつつ食休み中だ。

 「ブハァー。さて、仕事についてだがな」
 「ちょっと待った」

 おっさんがウェイターから葉巻を受け取って火をつけ――さすがに指先から火を出している光景にも慣れてきた――豪快に煙を吐き出してから話しはじめたので、一旦止めてから先にいくつか聞きたいことを切り出す。

 「その前に、メリシアが呼ばれてた剣帝ってのはなんだ? っつーか、これから話すその仕事ってのは、俺にもできそうな内容なんだろうな」
 「とりあえず、仕事については安心せい。できそうどころかこれ以上の適任はおらんわ」

 いや、不安しかないわ。

 「剣帝というのは剣術の最高位になります。フィオレンティアには五大術といって剣術、槍術、弓術、闘術、魔術があり、それぞれに最高位が設けられているのです」
 「メリシアは弱冠十七歳にして剣帝になり、十八歳で枢機卿にまで上り詰めた、オールタニア建国以来でも何人いたかといった類の天才よ」
 「マジか」

 メリシアってそんな凄い子だったの……?

 「トルキダス、お止めなさい。ソウタ様のお耳が汚れるでしょう」
 「いや、そんなこと無いから! まだまだ知らないことばっかりっていうか、ここに来るまでもテンパってて全然聞きたいこと聞けてなかったし……それに、もっとメリシアとかおっさんの話を聞きたいと思ってたんだよ」
 「ソウタ様がそう仰るなら……」
 「ガッハッハッハ、恥ずかしがっておるだけよ。なぁ、メリシア」
 「なっ、ト、トルキダス! お黙りなさい!!」
 「ガッハッハッハ! ガッハッハッハッハッハ!」

 こうして見てると、二人の間には本当の親子みたいな信頼関係があるのが分かって微笑ましい。
 さらに言えば、分かりやすく膨れっ面を浮かべながら抗議の腕組みをするメリシアの大きく波打つオッパイが、俺の今夜のオカズになるであろうというのは確定的に明らかだ。

 「で、話を戻すとだ。紹介された仕事というのが、まさにお主くらいにしかできん内容だったのよ。もちろん報酬も良い」
 「俺にしかできない?」

 新規開拓営業しろとか言われても無理だぞ?
 一体なにをさせられるんだ……。

 「ここに来る道中、フィオレンティアにはオールタニア教国、自由貿易都市グステン、バルギス帝国、魔術大国ディブロダール――と、大きく分けて4つの国があるという話をしたのは覚えておるか?」
 「最近バルギスが他の国に宣戦布告しまくってるとかってヤツな」
 「そう、まさにそのバルギス帝国による、ここ、グステンへの侵攻を止めるというのが今回の仕事よ」
 「……ハィ?」

 突然おっさんが素っ頓狂なことを言い始めたので、思わず俺も素っ頓狂な声で返事してしまった。
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