第四創世主は殺人衝動を性欲で捻じ伏せるらしい~最強の力を得た凡人、仕方なくイヤイヤ成り上がっていったら世界を救うことになりました~

文場凡

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第二章:帝国の滅亡

七話:セルフィとユーリ

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 おっさんから貰った金貨一枚――1ジュル。握り潰しかねないのでメリシアに預けた――でどれだけ食えるのか全くの未知数だったため、すぐ使い切ったりしないだろうかと少々不安ではあったのだが、屋台が立ち並ぶこのニクツキマス通りではどれも一個1モルから3モル程度……日本円にすると百円から三百円程度と思われる品物しか見かけないため、使い切ることなく無事に満腹を迎えられそうで一安心である。
 先程からずっとニコニコ顔のメリシアと一緒に、パンケーキやらフルーツジュースやら串焼きやら揚げパンやら……あとは何を食ったかも、もはや思い出せないほどに食べ歩きを満喫中なのだが、残念なことが一つだけあった。

 「お兄ちゃん、次はあれ食べたいのなー!」
 「ソウタ様ならきっと買ってくれますよ」
 「ワーイなのなー! お兄ちゃんは太っ腹なのなー!」
 「ふふっ、そうですね。ソウタ様はお優しい方です」

 メリシアと仲良く手を繋いで歩く、このわがまま放題の子供の存在だ。
 ユーリ・キュロルとかいうらしいこの子が泣いているところに偶然通りかかったりしたものだから、折角のデートを邪魔された気分である。

 「うん、買うのはメリシアだけどね? ていうかお前、迷子じゃなかったの?」
 「ユーリはお前じゃないのな! ユーリはユーリなのな!」
 「うん、そんなことは今どうでもい――」
 「どうでもよくないのな! ユーリって呼ばないと、お兄ちゃんのこともザリガニって呼ぶのな!」
 「うん、ザリガニどっから出てきた」

 ていうかこの世界にもザリガニいるのか? いるとして、あのザリガニなのか? そしてザリガニ呼ばわりには一体どんな意味が込められてるんだ?
 話の本筋から離れて色々問いただそうとしてしまうが、グッとこらえる。

 「とりあえずザリガニだけは勘弁してくれ、ユーリ」

 メリシアに目配せして、ユーリご所望の串に刺さったパイナップルを買ってきて貰い、それを渡しながらお願いする。

 「わかればいいのなー!」

 ユーリがパァっと顔を輝かせてからひったくるようにパイナップルを奪い、はむはむと食べ始めた。
 そんな俺とのやり取りを微笑ましそうに見守っていたメリシアにそっと耳打ちする。

 「で、気が付いたらいなくなってた髪のキレイなすっごい美人のお姉ちゃんってのは、どうやって探す?」
 「そうですね……このようなところで質問ばかりするのも可哀想ですし、一旦ロイタージェンに戻ってトルキダスと合流しましょうか」
 「そうだな。おっさんならこの街のことも色々詳しそうだしな」
 「発見」

 後ろから突然声をかけられビックリして振り返ると、耳の長い金髪の美女が無表情で立っていた。

 「お姉ちゃんなのなー!!」

 パイナップルの果汁でベタベタに汚れているユーリに抱きつかれた金髪美女が、何事も無いようにポケットからハンカチを出してユーリの手と顔をゴシゴシと拭き始めた。
 これは、まさか……。

 「エ、エルフってやつか?」
 「はい。こんな街中で珍しいですね」

 すげー、これがガチのエルフか……ほんとに耳が長ぇんだな。
 メリシアと違って、胸の大きさは微巨乳から巨乳ってとこだが、エロさではかなり僅差のいい勝負をしている。
 ここが薄い本の世界なら、オークとか触手辺りにくっころされそうな佇まいだ。

 「どこに行ってたのなー! 心配したのなー!」
 「同意、私も心配した――ん。この間抜け面と脂肪胸は?」

 感情の伴っていない、無表情……というか、骨格に肉と皮を盛っただけという印象の、まさしく真顔でそんなことを言われる。
 ってか、表情が伴ってないから聞き逃しそうになったけど、クチ悪っ!

 「マヌケづらで悪かったなぁ!?」
 「し、脂肪……胸……」

 メリシアがショックを受けた様子で胸に手を当てうつむく。
 そんなメリシアを、大丈夫だよ! 俺は大好きだよ!! と、心の中で心の底から励ます。

 「ユーリが困ってたらご飯いっぱい食べさせてくれたのなー! とってもいい人たちなのなー!」

 金髪エルフに顔や手を丁寧に拭われながら、ユーリがざっくりと紹介してくれた。

 「把握、誘拐犯と共犯者」

 あの長い耳には穴が無いんか!?

 「違う違う! ユーリが迷子になって泣いてたから一緒にアンタを探してたんだよ! ……っつーか、マジな話、こんな小さい子を一人にして泣かせんなよ」
 「謝罪、ユーリの存在を失念」
 「は? 失念って……わ、忘れてたってことか?」
 「肯定、魔術に関する書籍の専門店を視認、以降の行動は完全に忘却」
 「セルフィは本屋さんが大好きなのなー」

 要は、目を離した隙にはぐれて……ってことか。
 前言撤回、いくら見た目が良くても無責任な奴は許せん。
 俺やメリシアに悪態を吐いたその態度も相まって、沸々と怒りが湧いてくる。

 「アンタな、子供の面倒が見れないんだったらこんな人通りの多いところに連れて来るんじゃねぇよ。俺らだったから良かったものの、こんな可愛い子供、ガチの変態誘拐魔に連れ去られでもしたらどうするんだ?」
 「愚問、仮定とは無意味な情報集積の結果、生成される予測に過ぎない。今、この瞬間、倒壊した建造物の下敷きになったらどうするか、といった内容と同等の稚拙な発想」
 「屁理屈いってんじゃねえよ! アンタこの子の保護者なんだろ!? 保護者ってのは、文字通り保護しないといけない子を守るためにいるんだよ! その責任を果たしてからモノをいえ!」
 「否定、セルフィが保護しているのはユーリではない」
 「……ハァ?」
 「お姉ちゃんもお兄ちゃんもケンカは良くないのな!」

 ユーリが両手を広げて俺と無責任女の間に立つ。

 「お姉ちゃんの口が悪くてごめんなさいなのな……悪気は無いのな。ユーリにとっては、優しくて大好きなお姉ちゃんなのな」

 瞳を潤ませるユーリを見て、急激に怒りが冷めていく。
 こんな小さな子に気を遣わせるとは……メリシアに視線を送ると、困ったような笑顔を浮かべて首を傾げた。
 俺らしくないって?
 確かに少し情緒不安定な感じではあるか……ったく。

 「……まぁ、良かったなユーリ、お姉ちゃんが見つかってさ。もう迷子になるなよ」
 「ユーリちゃん、どこかで会ったらまた一緒に色々食べましょうね」
 「グスッ。ウン……もちろんなのな。それじゃ、さようならなのなー!」
 「感謝」

 無責任女は、俺にあれだけ言われたにも関わらず何もなかったかのような顔でユーリと手を繋ぎ、さっさと行ってしまった。
 モヤモヤしながら二人の背中を見送り、気分転換も兼ねてもう一度屋台を巡り直してからロイタージェンへ戻ることにした。
 道すがら、不意に無責任女――セルフィとか言ったか――の『保護しているのはユーリではない』という言葉を思い出す。

 「なら……んだ……?」
 「何かおっしゃいましたか?」
 「あ、いや……なんでもない」

 ひっかかりは残るが、もう会うこともないだろうと記憶の片隅へ追いやり、帰路へとついた。
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