第四創世主は殺人衝動を性欲で捻じ伏せるらしい~最強の力を得た凡人、仕方なくイヤイヤ成り上がっていったら世界を救うことになりました~

文場凡

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第三章:第四創世主の弱点

十四話:開戦

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 非常に広大な土地に跨る帝都だが、実は背の高い山に挟まれた盆地のような場所にあるため、守るに易い構造となっている。
 左右にそびえる四千メートル級の山は、領土の拡張に伴いかなり切り崩されたため、山頂から帝都までは断崖絶壁となっていて、攻め込むには、北の平地側か南に広がる海側かのどちらかしか選択肢がなく、戦力を集中させやすいのだ。
 特に、北の城壁の高さは実に百メートル以上あり、上の方には板張りの窓のようなものがいたるところに用意されていて、攻め込まれた際はここから弓や魔術を雨のように敵へと浴びせることができるようになっている。
 そんな、建国以来不落の城塞都市として版図拡大を支えてきた帝都へと迫る、敵国ディブロダール。
 その魔術兵による魔術の一斉射が、先ほど遂に始まった。

 「陛下、全軍整いましてございます」
 「……分かった」

 飛来する氷や火の矢が、セルフィとファフミルの尽力によって張られた障壁にぶつかり一瞬で蒸発していく――その小気味いい音を聞きながら、伝令官の報告に答える。
 障壁の強度は、王宮に張られているものと同等の実に見事なもので、地平線上に薄っすら本隊が見えるくらいの遠距離から放たれる魔術では、恐らく万が一にも突破されることはあり得ないだろう。
 しかし……驚くべきは、辺り一面が暗くなるほど空を埋め尽くす、その数だ。

 「緊張しますか?」

 これから起こる戦争の規模を想像し、深く息を吸ってからゆっくり吐き出すと、ため息を吐いたのかと思われたのか、メリシアがそんなことを聞いてきた。

 「ああ、いや。二回目だからかな、そんなに緊張してないんだよな」
 「ボクとセルフィで魔術は無効化致しますので、ご主人様は殲滅にのみ集中してください」
 「うん、頼りにしてるよ」

 八割以上が魔術兵で構成されているディブロダールの軍隊に対する作戦として、俺に与えられたものはいたってシンプルだった。

 「確認だけど、俺がまず先陣を切って、とにかく敵軍を減らせるだけ減らせばいいんだよな」
 「はい……大変な役目を押し付けてしまい申し訳ありません」
 「押し付けたのはおっさんだから、メリシアは気にしなくていいよ」

 軍と連携するには、俺の経験が足りなさ過ぎて逆に混乱を招くとかで、結局細かい作戦は教えて貰えず『敵軍を三分の一程度まで減らしてくれれば後は何とかする』と言われたときの、あの感情をなんと表現すればいいのか。

 「……じゃ、行くか」

 二人を抱え、城門の上から飛び降りるようにして軽めに跳躍する。
 俺は、これから人を殺す――しかも数万人。
 だというのに、心は不思議なほどに落ち着いていて、グステンに侵攻してきたバルギスに相対したときは何をあんなに悩んでいたのかと思うほどだ。
 このメンタリティの変化は、間違いなくエルフの村での一件が起因しているのだろうが、あの時とは決定的に違うことが一つだけあった。
 それは、守りたいモノの存在だ。

 「ヤバくなったら俺を置いて転移するんだぞ」

 城門の前に着地し、真っすぐディブロダール軍に向けて走りはじめる。

 「その時は、ボクはご主人様の盾となって死にますので、申し訳ございませんが転移はできかねます」
 「拒否、そもそも危険な状況に陥る可能性が皆無」
 「……まったく」

 降りしきる雨の中を走ると雨粒が正面から当たってくるように、帝都へ向けて放たれたものの届かなかった流れ弾のような魔術が次々に飛来してくるが、セルフィとファフミルによってすべて無効化されていく。
 皇帝には望んでなったワケではないし、今でも自分が皇帝だなんて思えないのだが、それでも帝国を導く者としての責はこの両肩に重くのしかかっていることくらい自覚している。
 帝国民に一人の犠牲者も出さないのはもちろん、できれば兵士にだって死んでほしくないと本気で思っている。
 その中でも特別、セルフィ、ファフミル、おっさん……そしてメリシアのことは、何としても守り抜きたい。

 「このあたりでいいか?」

 敵軍と数百メートル程度のところで止まる。
 ディブロダールからきた侵略者である魔術兵には気の毒だが、ここまできて容赦をする気はなかった。

 「肯定」
 「では、お手数ですがよろしくお願い致します」
 「了解」

 セルフィとファフミルを降ろして、まずは警告を行う。
 バルギス軍に対して行ったことと同じ要領で、足で地面を踏み鳴らし、セルフィとファフミルで音の波長に載せた降伏勧告を行う。

 バヂッ――ヂッチヂッ――バヂヂッ――

 「……やっぱりダメか」

 数十秒の降伏勧告の後、念のため数分待ってみたが、帝都へ放たれる魔術の数に変化は見られず、何ならこちらに向けられる魔術の数が確実に増えてきていた。

 「セルフィとファフミルはここにいてくれ」
 「かしこまりました。あまり離れすぎてしまわれると魔術障壁の張り直しが間に合わない可能性もございますので、お気を付けください」
 「分かってる、気を付けるよ」
 「ソウタ、頑張って」

 神剣グリフェルが納まる鞘を左手で握り、右手で柄を軽く引っ張ると、キッという独特の抜刀音と共に、白く光る刀身の根本が少しだけあらわになった。

 「頼むぞグリフェル――」

 そのまま一気に抜き――横薙ぎに一閃する。

 ピンッ――シュバッ!

 全力で引き抜いた際に発生した剣風に、グリフェルによって”結合する”という状態を切られて発生した斬撃が乗って、薄っすらと張られていた敵軍の魔術障壁と、最前線にいた魔術兵数千人が、一瞬にして真っ二つになる。
 メリシアから教えて貰った抜刀術はいくつかあったが、俺がこの短期間でモノにできたのはこれだけだった。

 「フッ!」

 敵軍が瞬間的に混乱状態へと陥った隙を突くべく、スローモーション状態へと移行し、本隊の中心部めがけて全力で駆ける。
 ラオやメリシアとの稽古の最中は意図的に使わないよう注意していたため、久しぶりでうまく立ち回れるか不安だったが、稽古の成果か、ゆっくり動く世界を以前よりも段違いにスムーズに動けるようになっていた。

 ピッ――ピシュッ――シュピンッ――

 敵兵が固まっているところを、グリフェルで横薙ぎにしながら進んでいく。
 最初のスローモーションが解ける頃には、早くも目標の三分の一ほどまで敵兵の数を減らすことに成功していた……のだが、

 「おかしい」

 簡単に行き過ぎている。
 オールタニアで、メリシアとのデートの帰りにエリウスと会った時のような、嫌な予感がする。
 踵を返し、セルフィとファフミルのところまで一気に駆け戻る――と、

 「な、んで……お前がここにいるんだ……?」
 「ヒィーヘッヘッヘッヘェッ、久しぶりだなぁ?」

 いつぞやと全く同じ、上半身裸の刺青男が数十人の魔術師を伴って、先ほどまでセルフィとメリシアが居たところに立っていた。

 「連れてこいぃ、ヒヘェッヘェッ」

 刺青男の後ろにいた魔術師の最後部から誰かが引きずられてくる。

 「メリシア……セルフィ……ファフミル……」
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