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第四章:武林迷宮
三十七話:武林迷宮 戒祖流剣術
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不意打ち気味だった一閃を避けたゲンカイはさすがだが、右足を深く踏み込んでいたメリシアがそこからさらに跳躍して二閃目を放つとは予想外だったようだ。
キン――シバッ!
「ぐッ!?」
ゲンカイが抜くよりも早く、メリシアの剣が右腕の肩口を深く切り裂いた。
金属が肉を開いて抜けていく独特な音が聞こえ、一瞬遅れてビュッと血が吹き出す。
信じられないという顔で自分の肩から吹き出す血液を見たのも束の間、薄っすらと笑みを浮かべたゲンカイがメリシアへと視線を戻す。
「なんと……刀傷などひさかたぶりに負ったな」
ゲンカイの浮かべている笑みは、仏閣などにある菩薩を想起させる……まるで自分を斬ったことを称賛し、慈しむかのような微笑みなのだが、なぜか背筋を凍らせるような凄みがあった。
表情は見えないが、メリシアも俺と同様の何かを感じているのか、ブルっと小さく身震いする。
「先ほど言ったことを詫びよう、メリシア。某の極めし剣――とくと御覧ぜよ」
ゲンカイが、腰にある紐に吊るされていた日本刀をその鞘ごと取り外し、左手で頭上に掲げるようにして持ち上げてから、右手で柄を握る。
昔から漫画やアニメなどで剣道や時代劇を題材にした作品を多数見てきたが、いわゆるなんちゃって剣道モノやトンデモ時代劇の作品ですら見たことが無い、異様な構えだ……。
あれじゃ、これからこの剣を振り下ろして攻撃しますよと言っているようなもんだ――
「戒祖流剣術、天地」
ズッ――シャッッッッ!!
でも、剣の道を極めたとか恥ずかしげもなく自分で言うような自信に満ちてるヤツが、そんな見え透いた……容易に躱せる攻撃をするだろうか?
念のためスローモーションで見ておこう、と思って時感覚の特性を千倍に調整した瞬間、ゲンカイの手元がフッと霞んだように見えたため反射的にメリシアの左腕を引いて横にずらしたら、迷宮全体に達したのではないかと思えるほどの凄絶な斬撃によって、ゲンカイより前方の天井と地面が綺麗に真っ二つになる。
――あ、危なかった。
「一対一の死合いを邪魔するとは、野暮な男よ。が、刹那の差で間に合わなかったな」
「え……?」
メリシアに視線を向けると、右腕に薄っすら切れ込みが入っていることに気が付く。
「大丈――」
声を掛けようと口を開いたところでメリシアが膝から崩れ落ちそうになったため、慌てて支える――と、腕の切れ込みが入ったところから先の部分がそのまま地面に落ち、切断面から血がバシャバシャと流れ出てきた。
ゲンカイの剣は当たらなかったはず……なのになぜ……。
「メリシア、大丈夫かっ!?」
「う……」
思わず唖然としてしまったが、すぐに我にかえって傷を治癒する。
「ソウタ様……た、助かりました……」
「いったいなにが?」
「どうやら二回斬ったうちの、一回目で斬られたようです……」
二回……ハッ!?
あの瞬間、手がぶれて見えたあとは、確かに刀を持つ手を上にあげていた。
ということは、俺は一回目を見逃したのか……っ!
「ほぅ、見えたのか。人の身でよくぞそこまで――某に傷をつけたことといい、つくづく見上げたものだ。先刻、イマイソウタに何やら力添えされていたようだが、それとは無関係の強さが垣間見えるぞ」
しかもメリシアの特性を操作したこともアッサリばれてる……。
見た目だけじゃなく、頭もイイのかよ。
「……アナタのほうは、時間を止めることができるのに、先ほどは止めずに剣技を繰り出したその甘さ、ソウタ様が相手では命取りかと思いますよ」
「ほう! この世界では時の概念など浸透しておらぬと思うていたが……ここまで早く看破するとは。しかしその言葉――降参するのか?」
「そうですね、残念ですが……私自身はここまでです」
「ふむ、しかしそれだと其処許とは盟約を結べなくなるが、よいのかな?」
メリシアが俺に掴まりながらヨロヨロと姿勢を正す。
「ソウタ様に剣をお教えしたのは私です。ですので、アナタがソウタ様に勝てなかった場合は、私にも勝てなかったということになります。なので、もし負けたら私と盟約を結んで貰いますが……よろしいですね」
「ほう、面白い。いいだろう……その申し出、受けて立つ」
「そういうわけですので、ソウタ様……利用するような形になってしまい大変申し訳ございませんが、ご助力願えませんか?」
「……俺がメリシアの頼みを断るわけないだろ? もちろんいいよ」
「ありがとうございます」
静かに頭を下げるメリシアだが、その両手は悔しさから固く握られていた。
キン――シバッ!
「ぐッ!?」
ゲンカイが抜くよりも早く、メリシアの剣が右腕の肩口を深く切り裂いた。
金属が肉を開いて抜けていく独特な音が聞こえ、一瞬遅れてビュッと血が吹き出す。
信じられないという顔で自分の肩から吹き出す血液を見たのも束の間、薄っすらと笑みを浮かべたゲンカイがメリシアへと視線を戻す。
「なんと……刀傷などひさかたぶりに負ったな」
ゲンカイの浮かべている笑みは、仏閣などにある菩薩を想起させる……まるで自分を斬ったことを称賛し、慈しむかのような微笑みなのだが、なぜか背筋を凍らせるような凄みがあった。
表情は見えないが、メリシアも俺と同様の何かを感じているのか、ブルっと小さく身震いする。
「先ほど言ったことを詫びよう、メリシア。某の極めし剣――とくと御覧ぜよ」
ゲンカイが、腰にある紐に吊るされていた日本刀をその鞘ごと取り外し、左手で頭上に掲げるようにして持ち上げてから、右手で柄を握る。
昔から漫画やアニメなどで剣道や時代劇を題材にした作品を多数見てきたが、いわゆるなんちゃって剣道モノやトンデモ時代劇の作品ですら見たことが無い、異様な構えだ……。
あれじゃ、これからこの剣を振り下ろして攻撃しますよと言っているようなもんだ――
「戒祖流剣術、天地」
ズッ――シャッッッッ!!
でも、剣の道を極めたとか恥ずかしげもなく自分で言うような自信に満ちてるヤツが、そんな見え透いた……容易に躱せる攻撃をするだろうか?
念のためスローモーションで見ておこう、と思って時感覚の特性を千倍に調整した瞬間、ゲンカイの手元がフッと霞んだように見えたため反射的にメリシアの左腕を引いて横にずらしたら、迷宮全体に達したのではないかと思えるほどの凄絶な斬撃によって、ゲンカイより前方の天井と地面が綺麗に真っ二つになる。
――あ、危なかった。
「一対一の死合いを邪魔するとは、野暮な男よ。が、刹那の差で間に合わなかったな」
「え……?」
メリシアに視線を向けると、右腕に薄っすら切れ込みが入っていることに気が付く。
「大丈――」
声を掛けようと口を開いたところでメリシアが膝から崩れ落ちそうになったため、慌てて支える――と、腕の切れ込みが入ったところから先の部分がそのまま地面に落ち、切断面から血がバシャバシャと流れ出てきた。
ゲンカイの剣は当たらなかったはず……なのになぜ……。
「メリシア、大丈夫かっ!?」
「う……」
思わず唖然としてしまったが、すぐに我にかえって傷を治癒する。
「ソウタ様……た、助かりました……」
「いったいなにが?」
「どうやら二回斬ったうちの、一回目で斬られたようです……」
二回……ハッ!?
あの瞬間、手がぶれて見えたあとは、確かに刀を持つ手を上にあげていた。
ということは、俺は一回目を見逃したのか……っ!
「ほぅ、見えたのか。人の身でよくぞそこまで――某に傷をつけたことといい、つくづく見上げたものだ。先刻、イマイソウタに何やら力添えされていたようだが、それとは無関係の強さが垣間見えるぞ」
しかもメリシアの特性を操作したこともアッサリばれてる……。
見た目だけじゃなく、頭もイイのかよ。
「……アナタのほうは、時間を止めることができるのに、先ほどは止めずに剣技を繰り出したその甘さ、ソウタ様が相手では命取りかと思いますよ」
「ほう! この世界では時の概念など浸透しておらぬと思うていたが……ここまで早く看破するとは。しかしその言葉――降参するのか?」
「そうですね、残念ですが……私自身はここまでです」
「ふむ、しかしそれだと其処許とは盟約を結べなくなるが、よいのかな?」
メリシアが俺に掴まりながらヨロヨロと姿勢を正す。
「ソウタ様に剣をお教えしたのは私です。ですので、アナタがソウタ様に勝てなかった場合は、私にも勝てなかったということになります。なので、もし負けたら私と盟約を結んで貰いますが……よろしいですね」
「ほう、面白い。いいだろう……その申し出、受けて立つ」
「そういうわけですので、ソウタ様……利用するような形になってしまい大変申し訳ございませんが、ご助力願えませんか?」
「……俺がメリシアの頼みを断るわけないだろ? もちろんいいよ」
「ありがとうございます」
静かに頭を下げるメリシアだが、その両手は悔しさから固く握られていた。
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