第四創世主は殺人衝動を性欲で捻じ伏せるらしい~最強の力を得た凡人、仕方なくイヤイヤ成り上がっていったら世界を救うことになりました~

文場凡

文字の大きさ
85 / 120
第四章:武林迷宮

三十九話:武林迷宮 や、宿屋……?

しおりを挟む
 目を閉じて呼吸を整えていると、治癒の力が尋常ではない右腕の痛みを徐々に和らげていく。
 数分もすると、右腕を曲げるくらいならできるようになり、目も少しぼやけるが見えるようになった。

 「……さて、急がないとだな」

 腰から上の部分は地面に横たわり、下半身は地に根を張ったように立ち尽くしているゲンカイの元へと、メリシアの肩を借りながら近寄る。

 「ゴプッ……そ、それがしの負けだ……」

 虫の息といった感じで、苦しそうに表情を歪めながら、ゲンカイが血の塊と言葉を吐き出す。
 辺り一面が血の海と化すほどの出血量なのにも関わらず、俺に斬られてからここまでの数分間を生き抜いたその生命力にこそ、ゲンカイの本当の強さが滲み出ているような気がする。

 「死ななくてなによりだ」

 下半身を上半身にくっつけ、手をかざす――と、すぐに傷口が塞がり、ゲンカイの表情からも険しさが消えていく。

 「かたじけない」

 完全に治癒させると、ゲンカイが正座してから頭を下げた。

 「一つ、この身で剣を受けておいて情けないことに……何が起きたのか分からぬのだ。ぜひ、其処元の妙技を説明してはくださらぬか?」
 「……最初、俺の首に剣を突き付けた時は何が起きたのか俺にも分からなかったよ。でも、メリシアを地面に倒した時、あの時はメリシアが動いた瞬間、時感覚を千倍まで調整してたんだ。なのに、お前の動きがまったく見えなかった」

 話しながら、あいまいだった足元がはっきりしてきたため、借りていた肩から腕を離す。
 メリシアが少し名残惜しそうにしてくれたのがなんだか嬉しい。

 「だから、時を止めてるんじゃないかってピンときてな、メリシアの身体強度と時感覚を操作して先制攻撃してみるように提案したんだ。でも、それでいけるって思ってたらダメだったから――俺はさらに時を超えて動いたってわけだ」
 「時を超えた……!?」
 「正確には、光の速度を超えて剣を振った……だな」
 「そ、そんなことが……」
 「自分でもメチャクチャだと思うけど、できるんだよ」

 イケメンが台無しな驚愕の表情を浮かべたゲンカイが、すぐに真顔に戻ってスッと姿勢を正した。

 「……力は十二分に示して頂いた。この元戒げんかい、喜んでメリシア殿と盟約を結ぼう」
 「はい。よろしくお願いしますね、ゲンカイさん」

 ゲンカイが青い粒子となってメリシアへと吸い込まれていき、やがて完全に消えた。
 例のごとく部屋の隅に先ほどまでは無かった石板が現れたため、内容を確認しに行く。

 「なになに……”元戒と盟約を結びし道の者。静なる道の深淵に究みを求めよ”――以下同文、か」
 「やはりこの石板は、迷宮に挑む者に対してキュウカクが用意した何らかの警告なのでしょうか」
 「……というよりか、楽しみに待ってるぞって感じに読めるけどな。なにせ最後が”我は究覚なり。深き道の果てに究めし力を求めん”だもんな」

 おれ今井。いま自室でパーフェクトボディ目指して筋トレしてるんだ! って言ってるようなものだ。
 どんだけ自己主張激しいんだよ。

 「あ、そういえばゲンカイ。聞きたいことがあるんだった」
 「何かな?」

 チゴウと同じように、ゲンカイがメリシアの背後に現れる。

 「十一階層でチゴウのヤツにいっぱい食わされて十九階層に戻されたことは知ってるか?」
 「見ていた」
 「あの後、やけに簡単にここまで来れたのってお前が何かしてくれたからか?」
 「十九階層から十一階層までは時を停滞させてはいるが、それ以外に何かを施すようなことはしておらぬよ。それに……そのことについてはイマイ殿も薄々感づいておるのであろう?」

 メリシアの腰を飾りたてたまま、ここまでウンともスンとも言わなかったチゴウリボンが、一瞬大きくバサリと揺れる。
 そっか、やっぱコイツが……。

 「いや、違うならいいんだ。変なこと聞いて悪かったな」

 どうやら、力は貸せないなどと言っていた割にこっそりと導いてくれていたらしいチゴウのお陰でここまで来れたということも分かり、スッキリした心持ちになったところで、次の階層へと続く螺旋階段に進む。
 武林迷宮も残すところあと九階層……ここから先は、今まで以上の困難が待ち受けているに違いない。
 隣を歩くメリシアの手を握ると、メリシアもこちらを見ることなくそっと握り返してくる。
 そのまま、パートナーの温もりと決意を感じながら階段を下りきり、立ち止まらずに九階層の扉を押し開き、中へと足を踏み入れる――

 「えっ」

 と、そこには十階層とほぼ同じ広さの空間と……高級旅館のような佇まいの宿屋が、営業中の札を掲げていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...