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第四章:武林迷宮
四十六話:武林迷宮 異質で壊れた究極の……
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キュウカクと名乗る、謎のツインテール美少女が小さな胸をこれでもかと強調するかのように仰け反る。
「良くぞここまで辿り着いた。歓迎するぞ」
「……えっ?」
意外なその姿と態度に、扉を開けて目が合った瞬間に感じた恐怖はどこかへ霧散してしまう。
というより、キュウカクは壊れてるとかなんとか脅されていた割に本人にはまったくそういった雰囲気がなく、それなりに苦労しながらここまで辿り着いた身としては……拍子抜けというか、なんだかガッカリしてしまう。
「ふーん? 人間の男にはいささか興味があったのだが――こんなものをぶら下げて邪魔ではないか?」
「イッ!?」
刹那、股間に熱が走った。
一体何が起きたのかと下半身に視線を落としてみると、なぜかズボンが鮮血で真っ赤に染まっていくため、急いで腰紐を緩めて中を確認する。
「グ――アアァァァッッ!!」」
そこにあるはずのモノがなくなっていることを視認した瞬間、激烈な痛みが走り、たまらずその場でうずくまってしまう。
「なんだ、情けない声を出すな。ほら、かえすぞ」
ボトっと目の前の床に何かが放り投げられる。
視線を上げていく――と、目の前には俺の下半身から切り離された肉塊が転がっていた。
驚愕と苦痛を抱えながらなんとかソレに手を伸ばし、ズボンの中に入れて治癒する。
「ッ、ハァッハァッハァッ!」
痛みは消えたが、焦燥感にも似た恐怖が込み上げてきて息が切れる。
動物というのは、それが与える側であっても本能的に痛みを避けるものだ。どんなサイコパスでも、快楽殺人者であったとしても、必ず暴力を行使する前には、無意識化に躊躇や逡巡があるという話を聞いたことがある。
しかしこの少女――キュウカクからは、それがまったく感じられなかった。
ただ自分の好奇心を満たすため……幼児が目の前に転がる人形から部品を取り外すかのように、俺の体からむしり取り、そして興味を無くして投げ捨てたといった風情だ。
今までに出会ったどんな敵とも違う、理解など到底不可能なこの異質感。
ドラゴンが言っていた『壊れている』というのはこういうことか……!
「チゴウ、メリシアを安全な場所に避難させてくれ。ゲンカイ、その命に代えてもちゃんと守れよ」
「ソウタ様!?」
「キミに命令されるいわれは無いけど……盟主さんの安全に関わりそうだからね……分かったよ……」
「承知。イマイ殿、ご用心召されよ」
「やめなさい! 私も戦い――」
ここへきて、盟約はもちろん戦力増強などと言っている場合ではないことを身をもって理解し、取り急ぎメリシアだけ下がらせる。
しかし、冷や汗を流しつつ対峙する俺を、薄ら笑いを浮かべながら瞬き一つせずにジッと観察しているキュウカクの、その瞳を正面から見据えていると、何やら泣き叫びながら逃げ出したくなるような衝動に駆られる。
……俺もメリシアと一緒に逃げるべきだったかもしれない。
「ほう、お前は残るのだな。ではさっそく妾の遊び相手になってくれるか?」
「ハァァッ!」
ドギャッ!
宵闇の使徒の力を三千倍にして叩き込んだ拳が、キュウカクの顔面を捉える――が、触れた拳はその柔らかそうな頬の形すら変えることなく、ビタリと皮膚の上で止まっていた。
「……くっ」
そりゃゲンカイより弱いワケないよな……見た目が女の子だからと手加減してしまった自分が情けない。
覚悟を決めて、時感覚を最大まで段階的に操作。同時にスローモーション状態へと移行して宵闇の使徒の力も最大まで引き上げていく。
後先を考えていてはダメだ……それこそ一撃で決めないと……。
さらに体組織の強度と慈愛の救世主としての力も最大まで操作していくと、全身の汗腺から蒸発した汗が噴き出して辺りを曇らせていく。
実時間にして0.00000002秒ほどのこの間、キュウカクは認識できているのかいないのか……こちらをジッと見たまま微動だにしていない――のだが、それがまた不気味さを増している。
もっとも、光速を超えている今の状態では、キュウカクが動いているかどうかを認識することはできないのだから、気にしてもしかたがないことではある。
それにもし動いていたとしても、操作可能な限界まで特性を引き出している今のこの状態で放つ渾身の一撃が通用しないのであれば、どのみち勝ち目などないのだ。
気を整えながら両腕を深く引き、左足を一歩前に出して腰を落とす。
俺の切り札、ラオ直伝の鬼神拳双掌式奥義……。
右足を踏み出し、大地を蹴る――震脚――。
両腕を突き出し、内功を解放――発勁――。
全身の力を全て両掌に載せ、対象を――
「滅ッッッ!!」
ゴボンッッ――ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――
「良くぞここまで辿り着いた。歓迎するぞ」
「……えっ?」
意外なその姿と態度に、扉を開けて目が合った瞬間に感じた恐怖はどこかへ霧散してしまう。
というより、キュウカクは壊れてるとかなんとか脅されていた割に本人にはまったくそういった雰囲気がなく、それなりに苦労しながらここまで辿り着いた身としては……拍子抜けというか、なんだかガッカリしてしまう。
「ふーん? 人間の男にはいささか興味があったのだが――こんなものをぶら下げて邪魔ではないか?」
「イッ!?」
刹那、股間に熱が走った。
一体何が起きたのかと下半身に視線を落としてみると、なぜかズボンが鮮血で真っ赤に染まっていくため、急いで腰紐を緩めて中を確認する。
「グ――アアァァァッッ!!」」
そこにあるはずのモノがなくなっていることを視認した瞬間、激烈な痛みが走り、たまらずその場でうずくまってしまう。
「なんだ、情けない声を出すな。ほら、かえすぞ」
ボトっと目の前の床に何かが放り投げられる。
視線を上げていく――と、目の前には俺の下半身から切り離された肉塊が転がっていた。
驚愕と苦痛を抱えながらなんとかソレに手を伸ばし、ズボンの中に入れて治癒する。
「ッ、ハァッハァッハァッ!」
痛みは消えたが、焦燥感にも似た恐怖が込み上げてきて息が切れる。
動物というのは、それが与える側であっても本能的に痛みを避けるものだ。どんなサイコパスでも、快楽殺人者であったとしても、必ず暴力を行使する前には、無意識化に躊躇や逡巡があるという話を聞いたことがある。
しかしこの少女――キュウカクからは、それがまったく感じられなかった。
ただ自分の好奇心を満たすため……幼児が目の前に転がる人形から部品を取り外すかのように、俺の体からむしり取り、そして興味を無くして投げ捨てたといった風情だ。
今までに出会ったどんな敵とも違う、理解など到底不可能なこの異質感。
ドラゴンが言っていた『壊れている』というのはこういうことか……!
「チゴウ、メリシアを安全な場所に避難させてくれ。ゲンカイ、その命に代えてもちゃんと守れよ」
「ソウタ様!?」
「キミに命令されるいわれは無いけど……盟主さんの安全に関わりそうだからね……分かったよ……」
「承知。イマイ殿、ご用心召されよ」
「やめなさい! 私も戦い――」
ここへきて、盟約はもちろん戦力増強などと言っている場合ではないことを身をもって理解し、取り急ぎメリシアだけ下がらせる。
しかし、冷や汗を流しつつ対峙する俺を、薄ら笑いを浮かべながら瞬き一つせずにジッと観察しているキュウカクの、その瞳を正面から見据えていると、何やら泣き叫びながら逃げ出したくなるような衝動に駆られる。
……俺もメリシアと一緒に逃げるべきだったかもしれない。
「ほう、お前は残るのだな。ではさっそく妾の遊び相手になってくれるか?」
「ハァァッ!」
ドギャッ!
宵闇の使徒の力を三千倍にして叩き込んだ拳が、キュウカクの顔面を捉える――が、触れた拳はその柔らかそうな頬の形すら変えることなく、ビタリと皮膚の上で止まっていた。
「……くっ」
そりゃゲンカイより弱いワケないよな……見た目が女の子だからと手加減してしまった自分が情けない。
覚悟を決めて、時感覚を最大まで段階的に操作。同時にスローモーション状態へと移行して宵闇の使徒の力も最大まで引き上げていく。
後先を考えていてはダメだ……それこそ一撃で決めないと……。
さらに体組織の強度と慈愛の救世主としての力も最大まで操作していくと、全身の汗腺から蒸発した汗が噴き出して辺りを曇らせていく。
実時間にして0.00000002秒ほどのこの間、キュウカクは認識できているのかいないのか……こちらをジッと見たまま微動だにしていない――のだが、それがまた不気味さを増している。
もっとも、光速を超えている今の状態では、キュウカクが動いているかどうかを認識することはできないのだから、気にしてもしかたがないことではある。
それにもし動いていたとしても、操作可能な限界まで特性を引き出している今のこの状態で放つ渾身の一撃が通用しないのであれば、どのみち勝ち目などないのだ。
気を整えながら両腕を深く引き、左足を一歩前に出して腰を落とす。
俺の切り札、ラオ直伝の鬼神拳双掌式奥義……。
右足を踏み出し、大地を蹴る――震脚――。
両腕を突き出し、内功を解放――発勁――。
全身の力を全て両掌に載せ、対象を――
「滅ッッッ!!」
ゴボンッッ――ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――
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