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第四章:武林迷宮
四十八話:武林迷宮 光を照らす闇
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可及的すみやかに疲労を回復し、腕と足の治癒を進めなければならなかった俺にとって、キュウカクがここで長話をはじめてくれたのはまさに僥倖だった。
ここはなるべく話が広がるようにして時間を稼ぎ、治癒が終わり次第、一度ここから離れなければ……と、痛みと疲労でボヤける頭を必死に回転させる。
「……なるほど。しかしそうなると、六階層からの守護武神との連戦はどういうことだったんだ? 別の世界から集められたのなら一人ずつしかいないはずだろ」
「ん? ああ、あやつらは単に生命の構成要素となる粒子を複製しただけの存在だ。能力も思考もそれぞれの守護武神と全く同じではあるのだが……やはり複製は複製。暇潰しに作ってはみたものの、魂の宿る本物には及ばぬな」
「つくった……って、お前が……?」
「ん? お前はできないのか? 妾と同じく調和の闇に触れたのだろう?」
小首を傾げるキュウカクが、突然首を真っすぐに戻して口角を邪悪にゆがませた。
「なんだ、そういうことか。お前、創世の救主だな」
――しまった。
いくらこの迷宮の支配者だろうがなんだろうが、魔力を元にしたモノとはいえおよそ生命と呼ばれるべき存在を作り上げるなどという、神のような御業を目の前にいるこの少女がやってのけたのかと、素直に驚愕してしまったが故の、感嘆交じりの俺の呟き。
それが失態だったことに――笑っているのかいないのか、キュウカクの気配が俺をすぐにでも縊り殺しそうな異質なモノに変わったことで気が付く。
「妾の力……調和の闇に触れし同胞がようやく訪れたのかと少々浮かれておったのだが、期待外れだったようだな。不愉快だ――」
ドギャ――ジャヂヂヂヂヂヂッ!
「グゥァアアアッ!!」
キュウカクが俺の顔面を蹴り上げたあと、どこからともなく召喚した雷の鎖で治癒しかかっていた両手両足を縛りつけた。
激しい電撃が絶え間なく全身を駆け巡り、自分が出しているとは思えない獣じみた叫び声が勝手に喉から絞り出される。
「非常に、不愉快だぞ」
「アガガガガガッッッ!!」
意識が朦朧とし、それが断続的になり……やがて完全に消えようとしたその時――
「ソウタ様ッ!」
何もない空間から突如メリシアが飛び出てきて、俺を縛っていた雷の鎖を断ち切って救出してくれた。
「な、なんで……ごごに……」
焼きついた声帯が発声を濁らせるが、逃がしたはずのメリシアがここにいるという重大事の前には些末な問題だった。
その細い肩をトンと押して、その蛮行を非難する。
「逃げろど……言っだだろ……」
「ソ、ソウタ様……」
ポタリと、頬を冷たい雫が伝う。
霞む視界のせいでメリシアの表情が良く分からないが、どうやら泣いているようだ。
なぜ……。
「そんな死にぞこないを助けにきたというのか? あのまま大人しく去っていれば追わなかったものを……愚かな」
先ほどまでとまったく様子の異なる、極地で吹き荒れるブリザードのようなキュウカクの冷たい声に、思わず背筋を震わせる――と、
「ソウタ様を殺すなど許せませんっ! この身命を賭してアナタを止めてみせます……っ!」
メリシアが切った啖呵を聞いて、二つの意味で驚く。
「なにを……?」
俺が死にぞこないだって……?
そういえば確かに先ほどから全身の感覚が無く、治癒も働かない。
だが視線を巡らせたところで、白黒のモザイクがかった世界しか見通せない現在の視力では、自分で自分の姿が確認できないのが何とももどかしい。
いや、そんなこと今はどうでもいい――
「どにがぐっ、いいがら逃げろ……っ」
「ゲンカイさん! チゴウさん!」
俺の声が耳に入らないのか、入っていて無視しているのか、メリシアが守護武神達に呼びかける。
「一瞬でいいです! キュウカクを止めてください!!」
「それは某が引き受けよう」
「ではチゴウさんはソウタ様を頼みます!」
「いいけど……多分、今のあの究覚の前じゃ……何したって意味なんかないよ……」
「それでもお願いします!」
「わ、分かったよ……」
巨大なゴキブリみたいな黒ずくめの何かが近づいてきて、俺にむかって何かしようとしているというのは、メリシアの指示からそれがチゴウであることが分かっていたとしても結構な嫌悪感だ。
そんな酷い印象を持たれているなどとは当然知らないチゴウが「組成変換を間違えて指が六本になったりするのが嫌なら……動かないでね……」と言って、何やらブルブルと震えはじめた。
一方、そんなチゴウの後方からは――圧力とでもいうのか、震動する大地の地鳴りと、ゲンカイの裂ぱくの気合いが混ざり合った轟音が響き渡ってきた。
「戒祖流剣術、秘中の技――四開」
地――
天――
心――
外――
「四開は死を開く……あまねく命の輝きを閉ざす門なり」
ここはなるべく話が広がるようにして時間を稼ぎ、治癒が終わり次第、一度ここから離れなければ……と、痛みと疲労でボヤける頭を必死に回転させる。
「……なるほど。しかしそうなると、六階層からの守護武神との連戦はどういうことだったんだ? 別の世界から集められたのなら一人ずつしかいないはずだろ」
「ん? ああ、あやつらは単に生命の構成要素となる粒子を複製しただけの存在だ。能力も思考もそれぞれの守護武神と全く同じではあるのだが……やはり複製は複製。暇潰しに作ってはみたものの、魂の宿る本物には及ばぬな」
「つくった……って、お前が……?」
「ん? お前はできないのか? 妾と同じく調和の闇に触れたのだろう?」
小首を傾げるキュウカクが、突然首を真っすぐに戻して口角を邪悪にゆがませた。
「なんだ、そういうことか。お前、創世の救主だな」
――しまった。
いくらこの迷宮の支配者だろうがなんだろうが、魔力を元にしたモノとはいえおよそ生命と呼ばれるべき存在を作り上げるなどという、神のような御業を目の前にいるこの少女がやってのけたのかと、素直に驚愕してしまったが故の、感嘆交じりの俺の呟き。
それが失態だったことに――笑っているのかいないのか、キュウカクの気配が俺をすぐにでも縊り殺しそうな異質なモノに変わったことで気が付く。
「妾の力……調和の闇に触れし同胞がようやく訪れたのかと少々浮かれておったのだが、期待外れだったようだな。不愉快だ――」
ドギャ――ジャヂヂヂヂヂヂッ!
「グゥァアアアッ!!」
キュウカクが俺の顔面を蹴り上げたあと、どこからともなく召喚した雷の鎖で治癒しかかっていた両手両足を縛りつけた。
激しい電撃が絶え間なく全身を駆け巡り、自分が出しているとは思えない獣じみた叫び声が勝手に喉から絞り出される。
「非常に、不愉快だぞ」
「アガガガガガッッッ!!」
意識が朦朧とし、それが断続的になり……やがて完全に消えようとしたその時――
「ソウタ様ッ!」
何もない空間から突如メリシアが飛び出てきて、俺を縛っていた雷の鎖を断ち切って救出してくれた。
「な、なんで……ごごに……」
焼きついた声帯が発声を濁らせるが、逃がしたはずのメリシアがここにいるという重大事の前には些末な問題だった。
その細い肩をトンと押して、その蛮行を非難する。
「逃げろど……言っだだろ……」
「ソ、ソウタ様……」
ポタリと、頬を冷たい雫が伝う。
霞む視界のせいでメリシアの表情が良く分からないが、どうやら泣いているようだ。
なぜ……。
「そんな死にぞこないを助けにきたというのか? あのまま大人しく去っていれば追わなかったものを……愚かな」
先ほどまでとまったく様子の異なる、極地で吹き荒れるブリザードのようなキュウカクの冷たい声に、思わず背筋を震わせる――と、
「ソウタ様を殺すなど許せませんっ! この身命を賭してアナタを止めてみせます……っ!」
メリシアが切った啖呵を聞いて、二つの意味で驚く。
「なにを……?」
俺が死にぞこないだって……?
そういえば確かに先ほどから全身の感覚が無く、治癒も働かない。
だが視線を巡らせたところで、白黒のモザイクがかった世界しか見通せない現在の視力では、自分で自分の姿が確認できないのが何とももどかしい。
いや、そんなこと今はどうでもいい――
「どにがぐっ、いいがら逃げろ……っ」
「ゲンカイさん! チゴウさん!」
俺の声が耳に入らないのか、入っていて無視しているのか、メリシアが守護武神達に呼びかける。
「一瞬でいいです! キュウカクを止めてください!!」
「それは某が引き受けよう」
「ではチゴウさんはソウタ様を頼みます!」
「いいけど……多分、今のあの究覚の前じゃ……何したって意味なんかないよ……」
「それでもお願いします!」
「わ、分かったよ……」
巨大なゴキブリみたいな黒ずくめの何かが近づいてきて、俺にむかって何かしようとしているというのは、メリシアの指示からそれがチゴウであることが分かっていたとしても結構な嫌悪感だ。
そんな酷い印象を持たれているなどとは当然知らないチゴウが「組成変換を間違えて指が六本になったりするのが嫌なら……動かないでね……」と言って、何やらブルブルと震えはじめた。
一方、そんなチゴウの後方からは――圧力とでもいうのか、震動する大地の地鳴りと、ゲンカイの裂ぱくの気合いが混ざり合った轟音が響き渡ってきた。
「戒祖流剣術、秘中の技――四開」
地――
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心――
外――
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