第四創世主は殺人衝動を性欲で捻じ伏せるらしい~最強の力を得た凡人、仕方なくイヤイヤ成り上がっていったら世界を救うことになりました~

文場凡

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第四章:武林迷宮

第五十三話:武林迷宮 圧倒

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 生命は……とりわけ人間は、孤独や退屈に滅法弱いらしい。
 某国が大戦中に行った、ベッドとトイレ、シャワールームのみを設置した窓が無い防音室に一人で閉じ込めるという実験では、被験者は一週間で精神に異常をきたした――みたいなことが、いつだったか読んだ哲学系の自己啓発本に書いてあったのを思い出す。
 もっともその本の内容は当たり障りない精神論ばっかりな上にほとんど眉唾だったから、結局半分も読まずに古本屋に売ったんだが……今になって思えば、あの本の内容を本当の意味では理解できていなかったのだと、キュウカクの惨状を見て思う。
 数千年、いや――数万年の孤独とは、想像もできない絶望だろう……。

 「自由に外に出られたところで、死んでもいずれまたここで蘇ってしまう――ある意味、不死の存在であるお前のその絶望は……さぞドス黒い闇に思えただろうな。でも、俺が……人は、誰かの為になら自分の限界を越えることができるんだってことを、お前のその闇を晴らすことで教えてやるよ」
 「戯言をほざくな。妾を殺すだの、闇を晴らすだの……お前は何も分かっていない。どうやら、これ以上の会話は無意味のようだ」

 言い終わると同時に、キュウカクの右足が俺の左わき腹に向けて跳ね上がるのを視界の端で捉える。
 視線を送ると、スカートがゆっくりとめくれ上がり、血色がいいスベスベぷりぷりの太ももが露わになっていく。
 さっきまで初動はおろか、殴られる時までその動きを捉えることはかなわなかったが、スローモーション状態などに移行していなくても、今の俺にはキュウカクの優雅な動作の一つ一つが、手に取るようにみえていた。

 「フッ!」

 腰を少し落としながら左足を踏み出し、膝でキュウカクの蹴り足を受けながら右掌でみぞおちを打つ。

 「っ!?」

 驚愕の表情を浮かべつつも間髪入れずに放たれたフック気味の左拳を右手で外側から内側へ払い、バランスを崩したキュウカクの顔へ左掌を抉り入れる。
 立て続けにダメージを魔力で相殺されているようだが、構わずにそのまま右拳で左わき腹を刺す。

 「うっ――クアアアァァ!!」

 想像していたような展開とは違ったのか、憤怒の形相を浮かべつつ猫が威嚇する時のように甲高い雄たけびを発するキュウカクが、次々に必殺の一撃を放ってくる。
 右手の、指を揃えたき手が心臓目掛けて飛んでくる――左手で払ってからそのまま顔面に裏拳で返す。
 微動だにせず繰り出された左の貫き手を入り身して躱し、ほぼ密着した状態から右拳をみぞおちの少し右――人間なら心臓がある位置へと突き入れ、反動を利用して少し距離を取る。
 半歩ほど遅れてキュウカクが位置を詰めてきたため、出足が伸び切ったタイミングで膝を蹴る――が、ブチ折るつもりだったのに、その細い足は地面にめり込んだだけで無傷だった。
 それにしても……

 「果てしないな」

 こちらとしても殺すつもりで相手をしているのだが、こうも手ごたえが無いとゲンナリしてくる。
 キュウカクとしても同じなのか、めり込んだ足を引き抜いたあと、怪訝そうな表情でこちらを伺ってきた。

 「……お前、どうやらわらわの動きがすべて見えているな」
 「驚いたか?」
 「いや、というより戸惑っている。さっきまでとはまるで別人のようなのでな」
 「これが愛の力ってヤツだよ」

 本当は違うのだが……メリシアちゃんが両手を重ねながら祈るように俺のことを見つめている手前、とりあえずそういうことにしておく。

 「そうか……それが人間の心、か」

 そんな、ともすれば冗談とも取られかねない俺の言葉に何やら納得してくれた様子のキュウカクが、足を肩幅に広げてから下を向いて、呟いた。

 「ならば、妾が覗き、そして今も妾を照らしている闇を――見せてやろう」
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