約1277日の傷(両想いだけど片想い)

みゃー

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パン屋(翔太ver)

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「ありがとうございます!」

日曜日の午後。

翔太は、すでに別々のビニール袋に入っていた食パン一斤とメロンパン2つを、手早く常連客のエコバッグに入れて渡す。

そして、電子マネーも一応使える店だが、未だに手打ちのレジでささっと会計を済ます。

「785円になります!」

会計が済み、客がいつものように
笑顔で去って行く。

その後ろ姿を見送りながら、ガラスの扉から外を見た。

もうすぐ10月になりそうだ。

今まだ4時前だが、陽が傾いていく速度が速い。

今高2の翔太は、高校入学と同時に、この従兄弟の営む町の個人経営の小さなパン屋でバイトを始めた。

ただし、土日祝のみだったが。

でも、そろそろ、進学の事もあって、母から年内に辞めるよう言われていた。

もう来年は、受験一色になる。

そして、進学のあかつきには、この町を出て行く予定だ。

(なんか呆気なく、高校生活も終わんな…)

朝から店が忙しかったが、この時間は比較的余裕があって、翔太はふと、物思いにふける。

高校生活は、可も無く不可も無くだろうか…

なんとなく学校へ行き、なんとなく勉強し…なんとなくを繰り返す。

そして…

中学生の時同様、余り人に深入りする事無くて、でも、絶対浮かないよう回りに適当に、でも慎重に上手く合わせて…

なんとなく浅くて広い友達付き合いをする。

でも、たまに、自分がイケてる方のランクにいるのを確かめるように、カラオケや、バーベキューなんかに参加する。

でも、それでいいのだと思う。

当たり障り無く…なんとなく…

それが、一番世界が上手く回る。

中学の時は、好きな人は見つからなかった。

高校に入っても、自分からいいなぁ…と思う人はいなかったが、人並みに同学年同クラスや別クラスの女子に告白された。

それで、清純そうでかわいかったし、髪もサラサラで胸も大きかったし…

翔太も、人並みに興味も性欲も十分あったので…

本当、ただの興味本位で、別々の時期に3人の女子となんとなくお付き合いもした。

それで、当然…何度か、彼女達となんとなくセックスもした。

けど、何だろう?…

確かに…気持ちはとても良かったが


いつも、すぐそんなに相手が好きでもないし、それ程好きになれない事に気付く。

セックスも最初はなんかめちゃくちゃ興奮するけど、すぐ飽きてだんだん、ただのやっつけ仕事っぽくなって、結局…別れてホッとして


でも、彼女達とは今でも普通に喋るし、たまに、彼女達の今カレ達も誘って、グループで一緒にバーベキューやプールに行ったりもする。

そしてたまに、元カノ達3人から、「ねぇーねぇー、翔太!久々にセックスしようよ!」と誘われたりする。

だが、流石にそれは今カレ達に悪くて出来なくて、笑って誤魔化して流す。

この前は元カノの一人に、今カレが一緒にバーベキューに来てるのに…

「林の奥で青姦しよ!彼氏がすぐ近くにいるのに、寝盗られってさぁ…翔太はマジで興奮しない?」と言われた。

今のご時世、いくら自分や元カノが、小さい頃から性の情報が回りに溢れ返っていてハードルが低いと言っても…

流石に翔太が引いて逃げたのは、つい一ヶ月半程前の出来事だ。

でも、いい勉強をしたと、そう思うようにした。

とかく男は、女に幻想を抱きがちだが、女は、清純と、清純風とはよく見分けないといけないと…

そんな事を思い出していると、自動のガラスドアが開いた。

「いらっしゃいませ!」

翔太は前を向き、素早く笑顔を造る。

すると、一目見てイケメンっぽい
、でも、何処かで見た感じの背が高く、体格もがっちりした青年が立っていた。

しかし、よく見ると近所の中学の学ランを着ていたので、あんなに体格が立派なのにまだ少年だった


クラブの帰りかな?と翔太が眺めていると…

少年は、チラリと翔太の顔を見た後、パンを乗せる盆を取った。

そして、時間をかなり掛けてパンを選んだ。

翔太は、少年の横顔を見て、内心ギクッとした。

なんとなく…

とても繊細な美貌が、今は交流の無い幼馴染みの弟に似ている気がしたからだ。

幼馴染みの弟の、翔太より2歳下のあーちゃんは、小さい頃はそれはそれは女の子みたくかわいくて…

翔太によく懐いていた。

翔太の方も、本当の弟のように思ってよく遊んだ。

しかし、翔太が中学生になった春


それは、突然途絶えた。

入学してすぐ、翔太が制服姿で学校帰りあーちゃんに声を掛けると
、まだ小学生のあーちゃんは振り向きも立ち止まりもしなかった。

しかし、1回、2回目は、聞こえてないのかなとも思って、3回目も声を掛けたが…

あーちゃんは、明らかに気付いているのに翔太を見ないまま走り去って行った。

それから、翔太は、通学路を変え
、あーちゃんの兄とも中学が別々になった事で疎遠になり、あーちゃんと会う事も無くなった。

実は…翔太にとって、あーちゃんと遊んでいた時間は、とても別格だった。

翔太は、家族以外であんなに誰かと深く関わって、心の底から楽しいと思った事は無かった。

そして、あーちゃんも…そう思ってくれていると信じていた。

だから…翔太は、自分では全く気付いていなかったが…

あーちゃんにあんな態度を取られて以来、翔太は心の奥で、誰かと真剣に深く関わる事を恐れるようになっていた。

あれから、4年と半年…

(どうしよう?…)

(声を、掛けるべきか?いや…マジ、他人のソラ似で別人かもしれないし…)

(それとも、忘れた振りをして完スルーすべきか?)

(ここで判断を間違えられない…


少年が時間をかなりかけてパンを選んでいる間…

店に静かに流れる、秋の夕にぴったりなしっとりとしたピアノのB
GMとは真逆に…

翔太の心臓は、激しく踊り狂っていた。

































































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