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パン屋(翔太ver)
しおりを挟む「ありがとうございます!」
日曜日の午後。
翔太は、すでに別々のビニール袋に入っていた食パン一斤とメロンパン2つを、手早く常連客のエコバッグに入れて渡す。
そして、電子マネーも一応使える店だが、未だに手打ちのレジでささっと会計を済ます。
「785円になります!」
会計が済み、客がいつものように
笑顔で去って行く。
その後ろ姿を見送りながら、ガラスの扉から外を見た。
もうすぐ10月になりそうだ。
今まだ4時前だが、陽が傾いていく速度が速い。
今高2の翔太は、高校入学と同時に、この従兄弟の営む町の個人経営の小さなパン屋でバイトを始めた。
ただし、土日祝のみだったが。
でも、そろそろ、進学の事もあって、母から年内に辞めるよう言われていた。
もう来年は、受験一色になる。
そして、進学のあかつきには、この町を出て行く予定だ。
(なんか呆気なく、高校生活も終わんな…)
朝から店が忙しかったが、この時間は比較的余裕があって、翔太はふと、物思いにふける。
高校生活は、可も無く不可も無くだろうか…
なんとなく学校へ行き、なんとなく勉強し…なんとなくを繰り返す。
そして…
中学生の時同様、余り人に深入りする事無くて、でも、絶対浮かないよう回りに適当に、でも慎重に上手く合わせて…
なんとなく浅くて広い友達付き合いをする。
でも、たまに、自分がイケてる方のランクにいるのを確かめるように、カラオケや、バーベキューなんかに参加する。
でも、それでいいのだと思う。
当たり障り無く…なんとなく…
それが、一番世界が上手く回る。
中学の時は、好きな人は見つからなかった。
高校に入っても、自分からいいなぁ…と思う人はいなかったが、人並みに同学年同クラスや別クラスの女子に告白された。
それで、清純そうでかわいかったし、髪もサラサラで胸も大きかったし…
翔太も、人並みに興味も性欲も十分あったので…
本当、ただの興味本位で、別々の時期に3人の女子となんとなくお付き合いもした。
それで、当然…何度か、彼女達となんとなくセックスもした。
けど、何だろう?…
確かに…気持ちはとても良かったが
…
いつも、すぐそんなに相手が好きでもないし、それ程好きになれない事に気付く。
セックスも最初はなんかめちゃくちゃ興奮するけど、すぐ飽きてだんだん、ただのやっつけ仕事っぽくなって、結局…別れてホッとして
…
でも、彼女達とは今でも普通に喋るし、たまに、彼女達の今カレ達も誘って、グループで一緒にバーベキューやプールに行ったりもする。
そしてたまに、元カノ達3人から、「ねぇーねぇー、翔太!久々にセックスしようよ!」と誘われたりする。
だが、流石にそれは今カレ達に悪くて出来なくて、笑って誤魔化して流す。
この前は元カノの一人に、今カレが一緒にバーベキューに来てるのに…
「林の奥で青姦しよ!彼氏がすぐ近くにいるのに、寝盗られってさぁ…翔太はマジで興奮しない?」と言われた。
今のご時世、いくら自分や元カノが、小さい頃から性の情報が回りに溢れ返っていてハードルが低いと言っても…
流石に翔太が引いて逃げたのは、つい一ヶ月半程前の出来事だ。
でも、いい勉強をしたと、そう思うようにした。
とかく男は、女に幻想を抱きがちだが、女は、清純と、清純風とはよく見分けないといけないと…
そんな事を思い出していると、自動のガラスドアが開いた。
「いらっしゃいませ!」
翔太は前を向き、素早く笑顔を造る。
すると、一目見てイケメンっぽい
、でも、何処かで見た感じの背が高く、体格もがっちりした青年が立っていた。
しかし、よく見ると近所の中学の学ランを着ていたので、あんなに体格が立派なのにまだ少年だった
。
クラブの帰りかな?と翔太が眺めていると…
少年は、チラリと翔太の顔を見た後、パンを乗せる盆を取った。
そして、時間をかなり掛けてパンを選んだ。
翔太は、少年の横顔を見て、内心ギクッとした。
なんとなく…
とても繊細な美貌が、今は交流の無い幼馴染みの弟に似ている気がしたからだ。
幼馴染みの弟の、翔太より2歳下のあーちゃんは、小さい頃はそれはそれは女の子みたくかわいくて…
翔太によく懐いていた。
翔太の方も、本当の弟のように思ってよく遊んだ。
しかし、翔太が中学生になった春
。
それは、突然途絶えた。
入学してすぐ、翔太が制服姿で学校帰りあーちゃんに声を掛けると
、まだ小学生のあーちゃんは振り向きも立ち止まりもしなかった。
しかし、1回、2回目は、聞こえてないのかなとも思って、3回目も声を掛けたが…
あーちゃんは、明らかに気付いているのに翔太を見ないまま走り去って行った。
それから、翔太は、通学路を変え
、あーちゃんの兄とも中学が別々になった事で疎遠になり、あーちゃんと会う事も無くなった。
実は…翔太にとって、あーちゃんと遊んでいた時間は、とても別格だった。
翔太は、家族以外であんなに誰かと深く関わって、心の底から楽しいと思った事は無かった。
そして、あーちゃんも…そう思ってくれていると信じていた。
だから…翔太は、自分では全く気付いていなかったが…
あーちゃんにあんな態度を取られて以来、翔太は心の奥で、誰かと真剣に深く関わる事を恐れるようになっていた。
あれから、4年と半年…
(どうしよう?…)
(声を、掛けるべきか?いや…マジ、他人のソラ似で別人かもしれないし…)
(それとも、忘れた振りをして完スルーすべきか?)
(ここで判断を間違えられない…
)
少年が時間をかなりかけてパンを選んでいる間…
店に静かに流れる、秋の夕にぴったりなしっとりとしたピアノのB
GMとは真逆に…
翔太の心臓は、激しく踊り狂っていた。
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