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コッペパン

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「もしかして…あーちゃん?」

…と、普通なら、笑顔で声を掛けるべきなのだろうと、翔太は思うが…

しかし、あーちゃんに無視された過去が、翔太の脳裏に昨日の事のように鮮やかに蘇った。

そんなガキんこの昔の事に拘るなんて、いつもの自分らしく無いとも思う。

別れた過去の彼女達と同じように
、何かいざこざがあっても又普通に接しようとする事が出来るのが自分の良い所なのにと…

けれど…

(きっとあーちゃんは、俺みたいに無視の事なんていつまでも覚えてる訳ないし…第一俺の事自体覚えてる訳ないしな…)

ほんの数分の事だったが、多分、翔太は、固まりながらグルグルグルと100年分位は考えた。

声を掛けるのは止めよう…と…

翔太は、ここはあーちゃんの事を忘れた振りを決め込む事を決意した。

やがて…

ゆっくりと、少年が会計に翔太の元にやって来て、カウンターにパンを載せたトレーを置いた。

(普通に…普通に…落ち着いて…)

少年の顔を見られないままでそう自分に言い聞かせ、心臓をバクバクさせながら翔太はレジを動かそうとした。

「電子マネーで…」

少年が、声変わり済の声で呟くように言った。

今も忘れない、あのあーちゃんの声とはかけ離れた低いイケボに、翔太はかなりがっかりした。

それでも…

「あっ、はい!」

そう返答し、翔太は、やっと間近で少年の顔をチラリと見た。

二重なのにスッキリした目元で、

すっとした高い鼻、キリっとした唇は、やはりどのパーツも女性のように繊細。

やはり、そのどれもが、やはり全てあのあーちゃんに似ていた。

しかし、仮に、今、翔太の目の前にいるのがあーちゃんだとしても
、あの女の子のようにかわいいあーちゃんではなく、

もう、大学生と言ってもいい位の自分より遙かなイケメン。

全く、知らない人の感じもして、
翔太の頭は増々混乱した。

しかし、少年は、自分とは全く別格の人種に翔太には見える。

母親に、「チャラい」だの「そんな事してないで受験勉強しなさい
!」と毎日のように言われながら


髪型や何やら色々努力して、やっと日々中の上を、そして、あわよくば上の下をなんとか目指す翔太とは容姿の次元の違う男に…

それでも、仕事はするので少年に尋ねる。

「あの…レジ袋、ご入用ですか?」

「うん…」

そう返して、少年が翔太を見て、互いに目がバッチリ合った。

そして、上目遣いで、少年が翔太を見詰めた。

(ヤバ!めちゃくちゃイケメン!


翔太は内心そう思いながら、手が震えそうな焦りを必死で隠し、目をさっと挙動不審に逸す。

「すいません…レジ袋、3円、頂きますがよろしいですか?」

「うん…」

翔太は浮ついていて、やっとトレーの商品に目をやる。

そこには、

この店自慢の、スクランブルエッグ入りコッペパンが二つ置いてあった。

翔太は、思わずドキッとした。

このコッペパンには、あーちゃんとの懐かしい思い出が、キラ星の如く沢山あったから。

このスクランブルエッグコッペパンこそ…

あーちゃんと2人で、仲良くよく食べた思い出の味だった。
























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