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純喫茶のアイスコーヒー

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遥斗に、すでにモーニングを食べる気満々の梛様を止められる雰囲気でも無く…

渋々喫茶店に入る。

ドアを開けると…

カランカラン…

と、ドアベルが、古き良き音をさせた。

店は、昭和40年創業のいわゆるレトロ喫茶で、中も皮のソファや低めのテーブル、窓の一部のステンドガラスから何もかもが昭和臭がする。

まだ夏の朝は日差しが心地良い、窓際の一等席に通された。

遥斗は、梛様と同じアイスコーヒーとトーストのセットを頼んだ。

「梛様…コーヒーは、神界にもあるのですか?」

遥斗は、コーヒーを知っていた神様に恐る恐る尋ねる。

「ある訳ないだろ…」

梛様は、ソファの背の上に右腕を掛け紫の袴で足を組み、まるで輩の様な御姿で素っ気なく返す。

それでもイケメンなので、それが絵にもなる。

「でも…コーヒーを、ご存知ですよね?」

「ああ…神社の供え物が沢山神界に回ってくるから、缶やペットボトルのコーヒーはいつも飲んでる」

「ああ…そうなんですか…」

遥斗は、祭りの時だけで無く常に日常、沢山のお供え物を義父がどこへやっているのか気がかりだったが…

(なるほど…そう言う事ね…)

と、やっと納得した。

すると突然、梛様が鼻をくんくんしだした。

「遥斗!これは、何の香りだ?!」

「えっ?これですか?これがコーヒーの香りですが…」

遥斗がキョトンとした。

「嘘だ!いつも飲む缶コーヒーなどは、こんなにいい香りがしないぞ!」

梛様が、疑うように遥斗を見た。

「ああ…それは、今、おばあちゃんがハンドドリップでコーヒーを今入れてくれてるからです」

「ハンド…ドリップ?」

今度は、梛様がキョトンとした。

「コーヒーの豆をミルと言う物で人力で引いて細かく砕いて、フィルターと言う紙に入れ、そこに湯を入れて濾し取るんです。やっぱり、缶やペットボトルのコーヒーは、淹れたてのコーヒー程の香りはしませんから」

「ふ~ん…」

梛様は、顎を上げ遥斗を斜めから尊大に見降ろす。

(なっ…なんか俺…悪い事言ったっけ?)

遥斗がそうドキマギしていると、
おばあちゃんが出来上がったモーニングセット一つを持って来てくれた。

アイスコーヒーに、焼きたての、すでにバターの塗ってくれてある食パンに、サラダにゆで卵付き。

「梛様、どうぞお先に…」

遥斗がそう言うと、梛様の前にモーニングセットのトレイが置かれた。

おばあちゃんは忙しいので、台所にすぐ戻ったが…

梛様は、じーっとそれを眺めた。

「これが…モーニングセットとやらか?」

「そうです。お早くどうぞ」

「うむ…」

梛様は、アイスコーヒーのグラスを慎重な面持ちで持った。

「あっ、梛様。ストローは?」

そう遥斗が聞くと、梛様は、又キョトンとした。

遥斗は、梛様用のストローを手にして、口を付けず吸う真似事をした。

「うむ…使ってやっても良い…」

「梛様。シロップとミルクはどうします?」

純喫茶らしく、それらはガラスの入れ物に入っている。

「シロップとミルク…それがか?入れると甘くなるのだろう?入れてみろ」

(ふーん…それは知ってるんだ…)
と思いながら、遥斗は入れてみ
る。

「入れ過ぎてはダメだと思うので、これぐらいが丁度いいと思います」

終わると、遥斗がそう言い微笑んだ。

「ふ~ん…」

何故かそう言い梛様は、又顎を上げて遥斗を斜めで見降ろした。

又、遥斗は、何か気に触る事をしたかな?と一瞬考えたが…

だが梛様は、速攻コーヒーで喉を潤す。

すると、梛様はガバッと立ち上がり、台所のおばあちゃんに向かい目を見開き興奮気味に叫んだ。

「うまい!うまいぞ!!」

「ちょっ…梛様…声が、声が大きいですよ…」

遥斗はどん引きしながら、誰も他に客がいなくて本当に良かったと思った。

「あら~それは良かったわ!」

おばあちゃんが、台所から顔を覗かせニッコリした。



























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