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ゆで卵

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遥斗のモーニングセットも、すぐに来た。

「この卵はなんだ?」

梛様は、アイスコーヒーの興奮さめやらぬ様子だが、自分のトレイの小皿を指差し、向かいに座る遥斗に聞いて来た。

「これは、ゆで卵です」

遥斗が答えると、梛様は、又ソファの背もたれの上に右腕を置き足を組み、輩スタイルで顎を上げて言った。

「遥斗、私の分の殻を剥け!」

「え!?」

遥斗は目をパチクリしたが、神様ならそんな事は、お付きの者がいつもやってくれて当然なのだろうが…

「あの…梛様…」

「…何だ?」

「あの…梛様は、この人間界に暫く人間のフリをして滞在なさると父より聞いてます。なら、卵の殻は御自分で剥けるようにしなければ…大人の人間としては失格かと…」

「あぁっ?!」

梛様は顎を上げたまま、遥斗を斜めから見降ろす。

そして、神様らしく、遥斗の核心を突く。

「貴様…ただ貴様がやりたくないだけだろうが?!」

遥斗は、図星でドキっとしたが、爽やかに微笑んだ。

「とんでも無い。梛様の正体がバレないよう人間界に溶け込んでいただく為です。必要だと思われませんか?」

梛様は、まだ斜めから遥斗を見降ろしながら、暫く考えているようだったが…

「フンッ…決してお前の策に嵌まった訳では無いからな…まぁ、それも一理あると思ったまでよ…」

梛様は、卵を小皿から取り、コンコンと下部をテーブルで叩いた。

そして、すぐヒビが入り殻を剥き始めた。

しかし…

流石やった事がないだけあって、
手つきがかなりたどたどしい。

不遜だか、保育園児、幼稚園児レベル…

遥斗は、実家にいて離れて暮らすまだ幼い弟を思い出した。

そして遂には、見ていられなくなった。

「梛様…そのゆで卵、やっぱ、俺が剥きます」

「あぁ?!貴様なんぞの手なんか借りずとも、己で出来るわ!たわけが!」

折角遥斗が折れてやったのに…

梛様は、まだ不器用に剥こうとする。

(何なんだよ!さっきはやれ言ってみたり、やる言ってみたり…)

遥斗は、心の奥でグチり盛大な溜め息を漏らす。

しかし…すぐに…

梛様の卵を強引に取り上げた。









































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