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降雪
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コンコン…
と、ドアを叩く音がしたので、ゼインは静かに返事をした。
「ハイ…」
そんなに両面に、金の装飾が必要なのかと呆れてしまう位の豪奢なドアが開く。
「紅茶を…お持ちしました」
現れたのはアレンで、今は狼耳を隠しゼインの前では人間を装っていた。
「…ありがとうございます…」
ゼインは、小ぶりな丸テーブルを前に椅子に座り、戸惑い気味に言葉を返した。
元々、笑顔が苦手であまり笑わない質で顔も強張る。
愛想が無いと、よく他人にも言われる。
ゼインの森での記憶は、あの夜、仲間に犯されかけてそれから逃れ、ランプを片手に暗い中を彷徨っていた所までだった。
そして、ある時点でプツリとそれが途切れていた。
その後、何か…とても重要な事があったかもしれないのに…
まるで、誰かに魔法にかけられ記憶を消されたように…
それから2日後、この部屋のベッドの上で目覚めるまでが何も一切覚えていなかった。
そして、今はどうだろう…
この華麗な城の主に倒れていた所を助けられ、あれ程苦しかった熱も引き、こうやって保護されていた。
「ケーキもありますよ。甘いモノはお好きですか?」
アレンが優しく微笑み、トレーからテーブルに、お茶と生クリーム、フルーツたっぷりのかわいいケーキの載った皿をそっと置いた。
ケーキなど、平民のゼインには贅沢品だったし、この冬の真っ只中に生フルーツもそうだ。
だが…これだけでは無い。
ゼインに貸された、今居る暖かい部屋から三食の食事に仕立ての良い服、その他の扱いまで、なにもかもが最高の特別待遇だった。
「あっ…ええ…はい…」
「そんなに緊張なさらずに…どうか体が落ち着くまでどれだけでも、ゆっくりここでお休み下さい」
そう言うアレンは、本当に優し気に笑う。
しかし…
「あの…体ならもう大丈夫です。どうか、助けていただいたお礼をこのの主に申し上げてから、すぐにでもここを出立したいのです
が…」
ゼインがそう言うと、アレンは、少し困惑の色を顔に浮かべた。
「まぁ…歩けるようになったばかりですから、そう慌ててはいけません…それに、この城の主は年をとっておりまして、床に伏せっている日が多いもので…なかなかお目にはかかれませんし…それに…ほら…」
アレンが、閉じられた大きな窓際に行き外を見た。
「雪が、こんなに酷い。こうなると、暫くは外に出るのは無理ですよ…」
ゼインも立ち上がりアレンの横に行き、激しい降雪を眺めた。
「どうか今暫く、今暫く、ここでゆっくりとなさって下さい…良い時期に、近くの町までお送りしますから。では…私はこれで…」
アレンは一礼すると、そっと部屋を後にした。
その姿を見送りながら、ゼインは、平民の自分に対するアレンの丁重な態度に何か違和感を感じながらも思う。
(この城の主は…お年寄りなの
か?…)
「はぁ…」
ゼインは、小さく溜め息を付き、厚いカーテンを閉めようと窓に向かい振り返った。
すると…
窓の向こう、かなり離れた向かい合う形の棟の窓に、外の降りしきる雪を挟んでゼインをじっと見詰める若い男の姿があった。
グレイの髪に美しいその整った顔に、ゼインは驚く。
「えっ?!」
だが、目を瞬かせてもう一度よく見ると、次の瞬間にはもうその姿が無かった。
目の…錯覚なのか?どうかも分からなかった。
だが、あの姿は、自分がその手で殺すよう教会から密命を受け探していた人狼神のイメージそのものだった。
人狼神は、天界の大主神の宝を奪い、天界を追放され人間界に堕とされた罪人だった。
そして、それ以上に…
前に何処かで会った気がした。
慌ててドアに向かい走り、開けようとした。
しかし、ドアには鍵が掛けられ開かない。
そう言えば、アレンが…
トイレも部屋に併設されているので、
「不届き者が入ってはならないから鍵を閉めます」と言っていた。
用がある時は部屋内ドアの近くの紐を引くと外のベルが鳴り、誰かが来るようになっているらしい。
ゼインは、ノブを回すのを止め、
ドアによりかかり座り込む。
そして、さっき見たグレイの髪の男を思い出したが…
すると頭が急にガンガンして、何故か分からないが、自然と涙が溢れ出してきた。
止めたいのに…
それは、次から次へと止めようも無く流れ落ちてくる。
そして、訳が分からないまま暫く泣いていると…
廊下側から、何かがゼインの座り寄りかかるドアを押して開けようとしていた。
「アレンさんですか?…」
ゼインの問に、返答が無い。
ゼインは変だなと思つつ、まだ泣きながらそっとドアを開けた。
すると、その僅かな隙間から、ヌッと動物の鼻が現れて、その勢いのまま部屋に侵入してきた。
「……」
ゼインは、入ってきたモノを見
て驚愕した。
それはグレイの毛並みで、深い紫の瞳の…
多分犬では無く、巨大な狼だったから。
と、ドアを叩く音がしたので、ゼインは静かに返事をした。
「ハイ…」
そんなに両面に、金の装飾が必要なのかと呆れてしまう位の豪奢なドアが開く。
「紅茶を…お持ちしました」
現れたのはアレンで、今は狼耳を隠しゼインの前では人間を装っていた。
「…ありがとうございます…」
ゼインは、小ぶりな丸テーブルを前に椅子に座り、戸惑い気味に言葉を返した。
元々、笑顔が苦手であまり笑わない質で顔も強張る。
愛想が無いと、よく他人にも言われる。
ゼインの森での記憶は、あの夜、仲間に犯されかけてそれから逃れ、ランプを片手に暗い中を彷徨っていた所までだった。
そして、ある時点でプツリとそれが途切れていた。
その後、何か…とても重要な事があったかもしれないのに…
まるで、誰かに魔法にかけられ記憶を消されたように…
それから2日後、この部屋のベッドの上で目覚めるまでが何も一切覚えていなかった。
そして、今はどうだろう…
この華麗な城の主に倒れていた所を助けられ、あれ程苦しかった熱も引き、こうやって保護されていた。
「ケーキもありますよ。甘いモノはお好きですか?」
アレンが優しく微笑み、トレーからテーブルに、お茶と生クリーム、フルーツたっぷりのかわいいケーキの載った皿をそっと置いた。
ケーキなど、平民のゼインには贅沢品だったし、この冬の真っ只中に生フルーツもそうだ。
だが…これだけでは無い。
ゼインに貸された、今居る暖かい部屋から三食の食事に仕立ての良い服、その他の扱いまで、なにもかもが最高の特別待遇だった。
「あっ…ええ…はい…」
「そんなに緊張なさらずに…どうか体が落ち着くまでどれだけでも、ゆっくりここでお休み下さい」
そう言うアレンは、本当に優し気に笑う。
しかし…
「あの…体ならもう大丈夫です。どうか、助けていただいたお礼をこのの主に申し上げてから、すぐにでもここを出立したいのです
が…」
ゼインがそう言うと、アレンは、少し困惑の色を顔に浮かべた。
「まぁ…歩けるようになったばかりですから、そう慌ててはいけません…それに、この城の主は年をとっておりまして、床に伏せっている日が多いもので…なかなかお目にはかかれませんし…それに…ほら…」
アレンが、閉じられた大きな窓際に行き外を見た。
「雪が、こんなに酷い。こうなると、暫くは外に出るのは無理ですよ…」
ゼインも立ち上がりアレンの横に行き、激しい降雪を眺めた。
「どうか今暫く、今暫く、ここでゆっくりとなさって下さい…良い時期に、近くの町までお送りしますから。では…私はこれで…」
アレンは一礼すると、そっと部屋を後にした。
その姿を見送りながら、ゼインは、平民の自分に対するアレンの丁重な態度に何か違和感を感じながらも思う。
(この城の主は…お年寄りなの
か?…)
「はぁ…」
ゼインは、小さく溜め息を付き、厚いカーテンを閉めようと窓に向かい振り返った。
すると…
窓の向こう、かなり離れた向かい合う形の棟の窓に、外の降りしきる雪を挟んでゼインをじっと見詰める若い男の姿があった。
グレイの髪に美しいその整った顔に、ゼインは驚く。
「えっ?!」
だが、目を瞬かせてもう一度よく見ると、次の瞬間にはもうその姿が無かった。
目の…錯覚なのか?どうかも分からなかった。
だが、あの姿は、自分がその手で殺すよう教会から密命を受け探していた人狼神のイメージそのものだった。
人狼神は、天界の大主神の宝を奪い、天界を追放され人間界に堕とされた罪人だった。
そして、それ以上に…
前に何処かで会った気がした。
慌ててドアに向かい走り、開けようとした。
しかし、ドアには鍵が掛けられ開かない。
そう言えば、アレンが…
トイレも部屋に併設されているので、
「不届き者が入ってはならないから鍵を閉めます」と言っていた。
用がある時は部屋内ドアの近くの紐を引くと外のベルが鳴り、誰かが来るようになっているらしい。
ゼインは、ノブを回すのを止め、
ドアによりかかり座り込む。
そして、さっき見たグレイの髪の男を思い出したが…
すると頭が急にガンガンして、何故か分からないが、自然と涙が溢れ出してきた。
止めたいのに…
それは、次から次へと止めようも無く流れ落ちてくる。
そして、訳が分からないまま暫く泣いていると…
廊下側から、何かがゼインの座り寄りかかるドアを押して開けようとしていた。
「アレンさんですか?…」
ゼインの問に、返答が無い。
ゼインは変だなと思つつ、まだ泣きながらそっとドアを開けた。
すると、その僅かな隙間から、ヌッと動物の鼻が現れて、その勢いのまま部屋に侵入してきた。
「……」
ゼインは、入ってきたモノを見
て驚愕した。
それはグレイの毛並みで、深い紫の瞳の…
多分犬では無く、巨大な狼だったから。
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